第282話「お前、俺と同じ18歳だよな?」
リオネルから心の中を言い当てられ……
新たな再スタートを決意したジェロームは、晴れやかに笑った。
リオネルも己へ、改めて「トライアルアンドエラーで行く!」
と告げたのは言うまでもない。
決意を新たにして、遅いランチを終えたふたり。
「腹ごなしにワレバットの街へ出ないか」
と、リオネルが誘う。
「腹ごなし? さっきいろいろワレバットの街について、説明して貰ったが……散歩に行くのか?」
ジェロームが尋ねると、リオネルは笑顔で頷く。
「ああ、散歩だ。冒険者ギルド総本部へ行き、周辺をぶらつく。ジェロームは、しばらくワレバットを拠点にするんだろ?」
「ああ、そのつもりだ」
きっぱりと言い切るジェローム。
少し目が遠い。
故郷の王都に対する、いろいろな想いが巡っているのかもしれない。
やはり、以前の俺と同じだ。
リオネルは思い、『散歩』の趣旨を告げる。
「ならば、ギルドの位置を中心に、街の勝手に慣れておくんだ。今後、何か行動する際、スムーズに事が運べる」
「成る程! そういう事か」
「ああ! という事で、早速出かけよう。ギルドがラッシュになる前に」
「ギルドが? ラッシュ?」
「ほら、朝夕の繁忙タイムだよ」
繁忙タイム……
前述したが、冒険者ギルドの窓口は、午前7時から9時。
夕方5時から7時が旅行でいう『繁忙期』なのである。
「あ、ああ、そうか! 朝と夕方の業務カウンター大混雑の事だな?」
「そうだよ。ラッシュは王都支部も、ワレバットの総本部も同じだ」
「……すまん、リオネル。俺さ、ギルドの担当者へ任せて、クランの臨時メンバー募集で、依頼遂行していた。だから、あまりピンと来ないんだ」
ジェロームは、冒険者登録後、ギルドに頼りっぱなしだったようだ。
最初はそれでも構わない。
しかし自立心を持って貰いたい。
ここは、ジェロームへしっかり告げるべきだろう。
「そうか。でも今後、ジェロームは個人事業主だ」
「個人事業主? 何だそれ?」
「ああ、個人事業主とは個人で事業を営んでいる人の事を指すのさ。つまりお前は、ジェローム・アルナルディという店の店主、個人事業主だ」
「成る程。……でも、俺は冒険者ギルドに登録し、所属もしているぜ」
「確かにジェロームの言う通り、お前も俺も冒険者ギルドには所属している。所属しているから代行して貰ったり、いろいろ優遇される部分もある」
「だよな!」
「しかしギルドには感謝し、尊重しつつも、割り切った方が良い」
「感謝し、尊重しつつも、割り切った方が良い? どういう事だ?」
「最後に頼れるのは自分自身だからさ。それゆえ冒険者ギルドとは、仕事を貰い、遂行するだけの関係だと割り切った方が良い。基本は自分の仕切り、裁量で、どう修行し、生計を立てて行くのか考えるんだ」
リオネルが言えば、ジェロームは不安そうな表情となる。
「でもさ。ギルドとはそういう関係でも、リオネルは、俺を助けてくれるんじゃないのか?」
ジェロームの不安は
しかし、リオネルは更に言う。
ジェロームの問いかけを肯定した上で。
「助けるさ。俺はジェロームの師匠だ。アドバイスはするし、フォローもする。しかし、俺はそう遠くない日に、この家を引き払い、ワレバットを出て、隣国アクィラ王国の迷宮都市フォルミーカへ向かう」
「え? そ、そうなのか?」
「ああ、何があるか分からないから、しょせん予定は未定だが、そう決めている。俺は、フォルミーカの迷宮へ行く」
「そうなんだ……」
「ああ、俺は少し前に別れた仲間とクランを組んでいたが、彼らは己の人生を歩む為に旅立った。俺も自分の道を行くからな」
「自分の道かあ……」
「ああ、俺には俺の、ジェロームにはジェロームの道がある」
「…………………」
「だから、はっきり言っておく。……俺はジェロームとは心の絆を結びたい。お前の人生の良き脇役でありたい。しかしジェロームの人生において、主役はお前自身だ。自分で決め、自分の足でしっかり歩いて行くんだ」
リオネルの言葉をじっと聞いていたジェローム。
まじまじと、リオネルを見つめる。
「……………リオネル」
「ん?」
「お前、俺と同じ18歳だよな?」
「ああ、そうだよ」
「俺と違い、全然大人だ。しっかりしてるんだなあ」
「大丈夫。ジェロームも経験を積めば、しっかりもして来る」
「そうかなあ……俺、大丈夫かなあ……」
「大丈夫! 俺だって、実家を追放された時は不安で、王都の中央広場で泣きそうになっていたからな」
「そうなんだ……」
「ああ、でも俺は多くの人に出会い、助けて貰い、経験を積んで今がある」
「そうか! 俺もリオネルに出会ったしな!」
「ああ、俺達は多くの人達と出会い、支え合って生きて行く。そして生きるだけ生きて人生を全うするんだ」
「そうだな!」
「よし! 行くか!」
「おう!」
という事で……
リオネルとジェロームは、ワレバットの街中へ、出かけたのである。
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