第281話「もしも今の俺が、昔の俺に出会ったら」
「了解。約束する。こちらから無理に手ほどきをお願いしたのだから、俺は弟子だ。師匠たるリオネルの指示に従うのは当たり前だ」
最後に告げたリオネルの『念押し』に対し、
ジェロームは大きく、頷いた。
「理解してくれて、ありがとう。ジェロームの希望は認識したよ。未熟な俺だが、出来るだけ希望に沿うよう、一生懸命指導しよう」
「いや、こちらこそだ。あ、ありがとう、リオネル」
「しかし、予定は未定だぞ。もしもジェロームに隠された才能があれば、相談の上、伸ばしたいと思う。その時は、もっと高みを目指すんだ」
「俺に隠された才能? そんなものは多分ないと思うが……」
「ジェローム」
「お、おう!」
「諦めたら、そこで全てが終わりだ。限界を突破しようと、最後まで、死ぬまで可能性を追い求める事が必要だよ」
「わ、分かった!」
目の前に居るのが、リオネルでなかったら……
ジェロームも同意しなかっただろう。
論より証拠である。
リオネルの存在そのものが、有言実行、告げる言葉が真実だと告げている。
ジェロームは、改めて実感する。
……自分と同じように『負け組』だったリオネル。
肉親達から
バカ! ゴミ! 汚物! 人生の負け犬!
とか言われ、実家を追い出された平民のリオネルが……
今や、ランクAの超一流冒険者なのだから。
リオネルの底知れぬ実力は、自分の目の前で、猛るゴブリン300体を、
『使い魔の狼?』の力を借りたとはいえ、
たったひとりで、
まさに、ふたつ名通り『荒くれぼっち』である。
そして!
リオネルは、ワレバットの3巨頭たる、
ローランド、ブレーズ、ゴーチェの大のお気に入りなのである。
先ほどゴーチェを交え、リオネルの履歴を聞いた。
基本はリオネルが説明し、ところどころゴーチェが補足する形だ。
リオネルの冒険者デビューは地味な、薬草採集とスライム討伐から。
スライム相手に散々戦ってから、討伐対象をゴブリンへ移行。
更に悪名高い『ゴブリン渓谷』で、華々しい戦果を収めた
『荒くれぼっち』のふたつ名を、冒険者の間に轟かせた。
王都を旅立ち、いくつかの村で戦功を収め、人々を救い……
ワレバットの街へ来てからも、
英雄の迷宮の最下層へも到達した。
ゴーチェ曰はく、リオネルはどの場所でも『無敵の強さ』を見せたという。
そしてついに、リオネルは『ランクA』となった。
冒険者になって、そんなに時間が経っていないのに。
そんなリオネルだが、生まれついての天才ではないらしい。
話を聞く限り、地道な薬草採取依頼から、冒険者生活を始め……
血のにじむような努力をして、叩き上げて来た。
その結果、隠されていた己の才能を開花させ、実力を身に着け、
今のポジションを獲得したと思われる。
で、あればこそ!
騎士として、冒険者として、まだ未熟な自分だって、
やってやるぞ! と思う。
また、「諦めたら、そこで全てが終わりだ。限界を突破しようと、最後まで、死ぬまで可能性を追い求める事が必要だよ」
と言われれば、納得し、頑張ろうと思える。
そして何より!
リオネルは『模範的な騎士』のように、優しくて誠実である。
そんなリオネルを、ジェロームは好ましいと感じているのだ。
「これから、宜しく頼むぜ、師匠!」
大きな声で言い、ジェロームは、リオネルの肩を「ポン!」と叩いたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リオネルは、ジェロームから、これまでの彼の履歴を聞いた。
騎士として、武技の修行を続け、王都で行われた公式試合でも何回か、
優勝、準優勝したらしい。
それゆえ、冒険者登録の際のランク判定も、冒険初心者の『F』ではなく、
『E』と認定されたようだ。
でも、冒険者となって受けた依頼の結果は満足の行くものではなかった。
騎士としての実力も、冒険者としては、上手く発揮出来なかったらしい。
行き詰まりを感じると言うのだ。
改めて話を聞き、「ジェロームの武技の腕は結構なものだ」
という認識をリオネルは持った。
であれば、とりあえず『剣技』の上級応用の講座を受けて貰いつつ、
実戦経験を積むのが良いのかもしれない。
リオネルは講座のカタログを引っ張り出し、ジェロームへ見せた。
エールとワインで酔いが少し回っていて、ジェロームは上機嫌。
いくつかの講座に興味を示す。
しかし、「講座よりもリオネルと組み、実戦を積みたい、依頼を受けて稼ぎたい」
と、ジェロームは言った。
対してリオネルは、
「当然。両方やるよ。講座もひとつだけの受講じゃない、いくつも受ける」
そう「しれっ」と言った。
「両方!? 講座もいくつもか!」
と、ジェロームは驚き、
「きついな、それ」
と少し不安を見せた。
しかしリオネルは、きっぱりと言い放つ。
「ダメだ! やるぞ! ジェロームは誰からも認められるくらい、強くなりたいんだろ?」
「あ、ああ、そうだ」
「それにジェロームは、今までの自分を、変えてみたいんじゃないのか?」
「え? な、なぜ分かる?」
「ジェロームは、昔の俺そのものさ」
「お、俺が昔のリオネル?」
「ああ、ジェロームは、強さ自体、昔の俺より遥かに強いけれど、頑張っても上手く行かなくて、行き詰まりを感じている。だけど、どうして良いのか分からない……そんな感じだ」
「リオネル……何故分かる?」
「だから言ったじゃないか。ジェロームは、昔の俺そのものだって」
「………………」
「そんな時は、違う方向へ一歩足を踏み出してみる。やり方も変えてみる。ダメだったら、また戻ってやり直せば良い。……トライアルアンドエラーだ」
「トライアルアンドエラーか………………」
「ああ、そうだ。俺は王都で、ある人からアドバイスを受け、常に心がけている」
「リオネル……そのアドバイスを、俺にも教えてくれ」
「分かった! ジェローム、良く聞いてくれ。トライアルアンドエラー、……挑戦をためらうな。失敗を恐れるな。時にはもがくのもありだ」
「…………………」
「但し、命を大事にしろ! 最後の最後まで絶対にあきらめるな……と言われたよ」
「何だか、心にしみるアドバイスだな、リオネル」
「ああ、もしも今の俺が、昔の俺に出会ったら……トライアルアンドエラーで行けって、アドバイスすると思うんだ」
「………………」
「自分を伸ばす為ではない、修行の為の修行、つまり惰性的で義務的な修行は、もうやめないか、ってさ」
「自分を伸ばす為ではない、修行の為の修行……惰性的で義務的な修行か………ああ! そうだな! 分かったよ! リオネル! 俺、トライアルアンドエラーで行く!」
リオネルから心の中を言い当てられ……
新たな再スタートを決意したジェロームは、晴れやかに笑ったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます