第276話「まだ死にたくないから助かった」

リオネルとケルベロスは街道まで出て、ワレバットまで約20㎞の地点にて、

異変を感じた。


リオネルの索敵の有効範囲3㎞先に、

ゴブリン300もの大群による『敵襲』を魔力感知でキャッチしたのだ。


すかさず、リオネルは転移魔法を発動。


ケルベロスとともに『現場付近』へ急行した。


転移先の『現場付近』は街道沿いの雑木林の中である。


『ケル、俺が指示を出すまで、絶対に声を出すな! 気配も極力消せ!』


『了解!』


雑木林は木々が生い茂り、視界はさえぎられていた。


当然、周囲は無人。

誰にも見られてはいない。


普通なら、当たり前のように、あちこちいる動物達は、大群のゴブリンを怖れてか、

遠くへ逃げ去っているらしい。

姿、鳴き声どころか、気配すらない。


さてさて!

『襲撃現場』は雑木林を抜けたらすぐだ。


リオネルとやや小型の灰色狼に擬態したケルベロスは、脱兎の如く駆けだした。

走りながら、魔力感知で現場の詳細を把握し、共有する。


『ケル、情報を共有するぞ!』


『うむ!』


『襲っているゴブリンの数は300体強! 襲われているのは馬車に乗った人間19人、馬2頭。うち戦っているのは4人! だが4人では、いつまで持つか! 一刻の猶予も許されない!』


『分かった!』


『指示を出す! ゴブリンどもは馬車を取り囲み、獲物の人間を喰い殺そうと、数で押し切ろうとするつもりだ!』


『うむ!』


『俺達は背後から急襲するぞ! 俺が群れの最後方に位置するリーダー、ゴブリンシャーマンをピンポイントで倒す! ここでケルが咆哮しながら乱入! リーダーを倒されて動揺する群れを、一気に蹴散らす!』


『うむ!』


『但し、同士討ちを避ける為、ケルの炎は使うな! 作戦は以上!』


『了解!』


情報は共有され、作戦も決定した。


リオネルとケルベロスが街道に躍り出ると、ちょうどゴブリンシャーマンが守られた群れの背後へ出た。


ゴブリンどもは『餌』を喰らおうと、前方に集中。

リオネルとケルベロスに全く気が付いていない。


ミスリルのスクラマサクスを抜いたリオネル。

ダッシュと同時に、ショートの転移魔法を発動!


上位種数体に守られたゴブリンシャーマンの背後わずか1mに肉薄!!


しゅばっ!!


リオネルは瞬時に刃をきらめかせ、

群れのリーダーたるゴブリンシャーマンの首を斬り飛ばし、瞬殺。


しゅばっ!! しゅばっ!! しゅばっ!! しゅばっ!! しゅばっ!!


返す刃で、『ゴブリンサージ』『ゴブリンソルジャー』など親衛隊上位種5体をも、あっという間に地獄へ送った。


続いて!


うおおおおおおおおん!!


小型の灰色狼風に擬態した魔獣ケルベロスが乱入、

戸惑うゴブリンどもを、思い切り蹴散らした。

容赦なく、次々と噛み殺して行く。


更にゴブリンシャーマン含めた上位種を倒したリオネルが、

奮闘するケルベロスと合流。


しまいには大混乱に陥ったゴブリン300体に対し、ふたりで無双!!


全てを呆気なくほふったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


300体強ものゴブリンの大群は、リオネルとケルベロスにより倒された。

リオネルが転移魔法を行使したのは、近距離なのとゴブリンどもが遮蔽して、

馬車に乗っていた者達からは見えなかった。


リオネルの計算通りである。


襲われていたのは、王都とワレバットの街をつなぐ路線馬車だ。

ちなみに以前、アルエット村のエレーヌ、アンナ母娘が王都へ往復する為、

乗った馬車でもある。


リオネルはとりあえず、自分が『冒険者リオネル・ロートレック』だと名乗った。


名乗ったら早速、リオネルは現状の確認と対応にあたる。


乗客は計15人。


スタッフは車長兼御者がひとり。

雇われた冒険者の護衛役が3人。

……総勢19人だ。


戦いに臨んだ、車長、護衛役3人、

金髪碧眼の若い騎士らしき乗客ひとり計4人の奮戦もあり、幸い犠牲者はゼロ。


車長は、護衛役は勿論、ともに戦った乗客の騎士へ礼を言い、労わっている。


但し、戦っていた4人が負傷したのと、軽傷のけが人が8名ほど居た。

馬も襲われたショックからだいぶ消耗していたが、かすり傷を負ったのみ。


リオネルはケルベロスに命じ、周囲の警戒にあたらせる。


そしてリオネル自身は、けが人の治療とケアを行った。

戦っていた3人も含め、負傷者11名に回復魔法『全快』を行使。


襲われたショックが大きい者には、『全快』と同時に、

特異スキル『リブート』レベル補正プラス40も合わせて行使。

ダメージを受けたメンタルもケアをした。

だが、ケアを受けた者は、リオネルが何か回復魔法を使ったとしか見えない。


またケアをしたのは人間だけではない。

馬にも『全快』『リブート』を行使したのである。


やがて……

人間、馬、全てのケアが終了した。


リオネルは、ゴブリンどもの死骸を不死者アンデッド化防止の為、

葬送魔法『昇天』で塵にすると……


馬車から少し離れた場所で警戒にあたるケルベロスへ、

ワレバットの街までの警護を命じる。


『ケル、このままワレバットの街まで、警護を頼む』


『了解!』


やりとりは当然、念話であった。


ここで、車長と護衛の冒険者3人が進み出る。


リオネルが行使した『全快』と『リブート』の効果で……

全員の怪我が癒え、回復し、すっかりと元気を取り戻していた。


まずは車長が深く頭を下げる。


「リオネルさん! 何から何まで、ありがとうございました。本当に助かりました。でも貴方があの有名な『荒くれぼっち』のリオネル・ロートレックさんだったとは……」


3人の冒険者達……護衛役もホッとした表情で礼を言う。

全員が腕利きのランクBだと名乗る。


しかし、多勢に無勢。

3人全員が、死を覚悟していたと言う。


「助けて頂き、ありがとうございます! リオネルさん!」

「リオネルさん! 本当にお強いですね! 深く感謝致します!」

「これで無事に、ワレバットの街まで帰れますよ、リオネルさん!」


「いえ、たまたま通りかかったので」


と偶然を装うリオネル。


「あの犬……というか、狼は何ですか?」


と、警戒中のケルベロスを見て尋ねる車長。


本当は「冥界の魔獣で戦友です」と言いたいが、仕方がない。


「ああ、俺の『使い魔』みたいなものです」


曖昧あいまいに微笑むリオネル。


「成る程……アルナルディ様にも何とお礼を申し上げたら良いのか……助かりました。ありがとうございます。お客様なのに、我々とともに戦って頂いて」


車長は共闘した乗客、若き騎士アルナルディへも礼を言い、改めて労わった。


リオネルが見たところ、アルナルディは、やはり若い。

20歳には届いていないだろう。

自分と同じくらいの年齢かもしれない。


車長からは、何度も礼を言われ労わられたらしく、アルナルディは苦笑。


「いや、車長。そう何度も礼を言わんでも良い。俺は善戦しか出来なかった。皆と同じく『この強い彼』に助けて貰っただけさ」


そう言い、姿勢を正すとリオネルへ向き直り、


「強いな、君は」


と、微笑む。そして、


「俺はジェローム、ジェローム・アルナルディ。武者修行中の騎士だ。まだ死にたくないから助かった。ありがとう、リオネル・ロートレック君」


名乗って、晴れやかな笑顔を、リオネルへ向けたのである。

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