第277話「新たな友」

「助けて頂いたお礼として、リオネル様にはぜひ我が馬車にお乗りください」


車長のたっての願いで、リオネルは路線馬車に乗って欲しいと頼まれた。


だが、車長の『本音』は『救助のお礼を兼ねた護衛の要望』に違いない。


……乗りかかった船である。


了解したリオネルは、路線馬車に乗る事にした。


……という事で、

リオネル達を乗せた路線馬車は、ワレバットの街を目指し、街道をひた走る。


少し先を、警護役続行中の魔獣ケルベロスが駆けている。

ちなみに大きさは、体長2mの超大型灰色狼風に戻っていた。


ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ!


ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ!


ガタガタゴトゴト…… ガタガタゴトゴト……


ガタガタゴトゴト…… ガタガタゴトゴト……


リオネルの魔法で元気になり、

馬車をく2頭の馬のひずめが、車輪の音が、のんびり響く。


御者を務める車長の手綱さばきも、余裕があった。


敵襲がなく、普通に走る分には、いつもながら、とても平和で牧歌的な風景だ。


リオネルはといえば、乗客の中で唯一、護衛の冒険者達と戦った若き騎士、

ジェローム・アルナルディと話し込んでいた。


車長によれば、ゴブリンどもが襲って来た時、ジェロームは、

乗客達の中で、真っ先に「盾となる事」を申し出たという。


他の乗客は、ほとんど年配者か、女子に子供。


「自分は騎士として、戦う者として、弱者を守るのが責務だ」

と言いきり、ジェロームは襲って来るゴブリンどもの前面に立ったらしい。


リオネルは、そんなジェロームが好ましく感じた。


聞けば、ジェロームは王都生まれの騎士爵家の息子、リオネルと同じ18歳だという。


一方、同郷のリオネルに救助の礼を述べたジェロームは、

護衛の冒険者達に、リオネルの『正体』を聞き、ひどく興味を持ったようだ。


こうなると、お互いに話は弾んで来る。


「成る程、君は『荒くれぼっち』と、冒険者達からは言われているのか」


「はあ、冒険者になってしばらくは、ソロプレーヤーだったからみたいですよ、ジェローム様」


リオネルがふたつ名の理由を推測すると、ジェロームは笑う。


「ははは、ソロプレーヤーだから『ぼっち』か。それであの荒くれ無双ぶりだから『荒くれぼっち』かあ、成る程なあ……」


「はい、ジェローム様」


「もうジェローム様はやめてくれ。俺はアルナルディ騎士爵家の3男だが、厄介払いされて実家を追い出された、いわば『流浪の騎士』だからな」


「厄介払いされて実家を追い出された、流浪の騎士? 先ほどは武者修行中の身だとおっしゃいましたよね」


「ははは、察してくれ。いろいろあったんだ。養子入り先もない、貧乏貴族家の末弟なんて、元々、役立たずの食い詰め者なのさ」


そんなジェロームの言葉を聞き、リオネルは記憶を手繰る。


……貴族家の婿養子にというオファーがあった際、

ブレーズの副官ゴーチェから聞いていた。


ソヴァール王国の貴族家では基本長男が跡を継ぐ。


一方、二男・三男は優秀な人材と見込まれ、

養子、婿入りなどをして、一家の当主とならない限り、

生涯独身だという。

分家をおこす場合もあるが、

伯爵以上の『上級貴族』じゃないと立ち行かないようだ。


また長男たる当主が死亡すると、甥である当主の息子が跡を継ぎ、

『厄介者の叔父』だと、陰でさげすまれるらしい。


貴族家に生まれても、長男ではないと、いろいろ大変だと、

リオネルは改めて思う。


「そうですか……じゃあ、俺だってそうですよ。魔法使いとしては、全く使えない、バカ! ゴミ! 汚物! 人生の負け犬! とか言われ、実家を追い出されましたから」


「おお、そりゃ酷いな」


「まあ……当時は俺も勇気がなく、ひどく臆病で、甘ったれのダメ人間でした」


「へえ、そうだったのか。全然そうは見えないが」


「開き直って、必死にやりましたから」


「必死にか?」


「はい、実家を追い出され、他に選択肢がなく、生きて行く為に、やむなく冒険者となり、いつか父や兄達を見返してやる! もう後がないって感じでした」


「うんうん、俺も同じさ。修行をし、己を鍛え、強くなって、俺をさげすんだ父や兄達を見返してりたかった。だから、自分の力で稼いで生きて行く為に、これしかないと王都で冒険者登録をした」


「成る程」


「すると家族は全員怒った。『冒険者など、アルナルディ家の恥さらしだから王都を出て行け』と言われ、実家を追い出されたんだ」


「そうだったのですか」


「ああ! だから、いろいろ考えた末に、いっそ冒険者の本場、ワレバットの街で武者修行しようと旅立ったのさ」 


「成る程」


リオネルは、まっすぐで飾らない、偽らない、ジェロームの心の波動を感じる。


念話で心を読んだわけではない。


しかし魔法使いとして、念話習得で身に着けた相手への洞察力が、

自分に話したジェロームの身の上話に、嘘はないと告げて来る。


ただ、ジェロームの顔立ちを見て、リオネルは思う。


平凡な顔立ちのリオネルと違い、ジェロームは結構なイケメンだ。

クラシックな濃い顔立ちをしたハンサムなのである。


後にした故郷の王都に、ジェロームの『恋人』は居なかったのだろうか?


そんな気持ちがつい口に出る。


「ジェローム様は、もてそうですね」


「いやいや、全然もてないって。だから未練なく王都を旅立つ事が出来た」


成る程。

道理である。


「リオネル君こそ、こんなに強いんだ。だいぶもてそうだなあ」


「いや、それが彼女ナッシング18年ですから」


「おお、俺も彼女無し18年で同じだ。なあ、さっきも言ったけど、ジェローム様はやめてくれ。ジェロームと、呼び捨てにしてくれよ」


「いえ、それは出来ません。ジェローム様は貴族、俺は平民ですから」


リオネルがそう言うと、ジェロームはひどく真剣な表情となる。


「なあ、リオネル君」


「はい」


「俺は騎士として、強き者に憧れる。桁違けたちがいな君の強さは尊敬に値する」


「そうですか」


「そうだ! 先ほどゴブリンどもを圧倒し、あっという間にほふった君の強さを目の当たりにして、リスペクトを感じた。そして車長、護衛の冒険者達の話を聞いて、成る程と思い、所属登録証を見て、大いに納得したよ」


「所属登録証……」


「ああ! 納得した! 年齢が同じ18歳の君は超一流たるランクA、一方俺はまだランクE。登録して間もないとはいえ、ランカーにもなっていない……本当に凄いと思う」


念の為、補足しよう。


ランカーとはランクB以上の事。

冒険者として一流とみなされる。


「同年齢同士、身分など関係なく、友として君と接したい! だから俺の事はジェロームと呼んでくれ。君の事もリオネルと呼ぶから。敬語も不要だ!」


熱く語るジェローム。


同じような「追放された」身の上、誠実で勇敢飾り気のないジェロームの性格に、

リオネルはシンパシーを感じた。


「分かりました」


「おお、分かってくれたか、リオネル」


「はい、今後とも宜しく! ジェローム!」


「おお! こちらこそ宜しくな! リオネル!」


まさに人生は出会いと別れ。


ゴブリンどもの襲撃という、モーリス達の時と同じきっかけ。


同じ王都生まれの18歳、末っ子で、うとまれた挙句に実家を出た、

似たような境遇同士で、『新たな友』となったリオネルとジェローム。


そんなふたりを乗せた路線馬車は、無事ワレバットの街へ到着したのである。

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