第275話「修行は順調! だが!」
帰還するワレバットの街まで約90㎞……
キャナール村を後にし、モーリス達と別れたリオネルは、
忠実な従士、冥界の魔獣ケルベロスを伴う形で、
『帰路』を使い、転移魔法の修行に励んでいた。
今回立てた課題は、転移魔法の
移動可能距離の延長である。
それらを更にケルベロスとともに転移する形で、挑む事となる。
現在リオネルの転移距離の限界は約10㎞まで。
単純計算では、約9回ほど転移すれば、あっというまにワレバットの街へ到着する。
そして、正門から正規入場して自宅へ帰り、「はい、お疲れさん」で、ジ・エンド。
しかし、それはクリアする最低目標であり、リオネル自身、全然満足は出来ない。
リオネルは最初の転移で、現地点から15㎞先への転移をイメージ、
12㎞先へ転移。
2kmだけだが、限界距離を延ばす事が出来た。
当然、ケルベロスも一緒に「運んだ」
まずは幸先いいスタートが切れた。
モチベーションが上がる。
ワレバットの街まで、残りの距離は、約78km。
馬車でも1時間かかるから、普通は9時間かかるところを、
帰還まで、10分もかからず、あっという間だ。
ちなみに転移先の場所は、無人の森林もしくは原野。
事前の『遠距離索敵』で、目的地の周囲15㎞以内の無人状態を、
しっかり確認している。
だから転移した姿を、誰か第三者に目撃などされる事はほぼない。
次に再び、現地点から15㎞先への転移をイメージし、12㎞先へ同じく転移。
距離は前回と同じ。
少しがっかりしたが、無事発動し、ケルベロスも共に転移。
ワレバットの街まで、残りの距離は、約66㎞
更にその次には再び現地点から15㎞先への転移をイメージ。
見事に成功。
15㎞先へ転移出来た。
ワレバットの街まで、残りの距離は、約51㎞
限界距離を5㎞延ばす事が出来た。
モチベーションは大きく上がる。
更に更にもう1回転移!
今度は、現地点から20㎞先への転移をイメージし、15㎞先へ同じく転移。
「ああ、さすがに距離は延びず、同じ15㎞かあ……」
とは言ったものの、リオネルは満足であった。
結局、当初から『5割』も限界距離を延ばす事が出来たからだ。
発動も円滑、制御も完璧なのは言うまでもない。
ワレバットの街まで、残りの距離は、約36㎞。
リオネルは、ふっと思いついた。
気が変わった。
「軽く」36㎞走って帰ろうと考えたのだ。
今、リオネルが居るのは、街道から入った未開の森。
周囲で他に居るのは、ケルベロス以外、普通の動物のみだ。
途中から、歩いても構わない。ワレバットの街まで、ランニングもしておこう!
リオネルは走る事に決めた。
傍らへ控えるケルベロスへ、念話で言う。
『ケル、急で悪いが、走って行くぞ! 街道へ出て、ワレバットの街まで、ランニングだ!』
対して、
『うむ! 身体を鍛える事を忘れないとは、さすが主は良き心がけだ! 付き合おう!』
と、相変わらず教師然としたケルベロス。
ティエラに加護を受けた後も、ケルベロスは以前のまま。
そんなところが好きだと、リオネルは思う。
ふたりは一緒にダッシュ。
弾丸のように駆けだしていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
森を抜け、原野を抜け、渓谷を越え、草原へ、そこから街道へ。
まさにクロスカントリー。
リオネルとケルベロスは、街道へ出るまで、人跡未踏に近い険しいコースを、
苦も無く、軽快に駆け抜けてしまった。
レベルアップ、ビルドアップしたリオネルの身体能力、
狼、馬、猪、うさぎ、リス等々、動物の能力も後押ししたのは言うまでもない。
さすがのケルベロスも感心した次第である。
またリオネルの通常の索敵も、
転移魔法発動前に行使する『遠距離索敵』の影響なのか、
更に更に!!
著しく能力が増していた。
何と何と!
自分が居る3㎞以内の敵は的確に正体、悪意の有無を見通す事が出来るようになったのだ。
悪意の有無は、上位レベルの念話習得も大きく影響しているようであった。
精度はやや落ちるものの、『遠距離索敵』と合わせれば、特殊な手立てでも使わない限り、リオネルに接近するのは、ほぼ無理だと言って良かった。
「これなら、フォルミーカ迷宮へ行き、シーフ職をやってくれと言われてもバッチコーイって感じか。隠形、忍び足も習得済みだし。……いや、開錠と罠解除がもう少し上手くならないと、厳しいかな?」
などと、
さてさて!
まもなく街道である。
ケルベロスは擬態した姿、体長2m体高1m以上の超大型の大人灰色狼風でも、
そのどう猛さと迫力に常人は圧倒されてしまう。
『擬態』に関しては、『どんなサイズでも姿でも自由自在だ』というケルベロス。
更に約半分の大きさとなる。
これで一見、リオネルは灰色狼に似た『使い魔の犬』を連れている趣きとなった。
これならば、犬が苦手な者以外、問題にはならないだろう。
最後に転移魔法で移動した地点は、ワレバットの街まで36㎞だったが、
クロスカントリーもどきで、約10km駆け抜けた。
ワレバットまでは、後26㎞。
キャナール村付近から、転移魔法で移動、また『クロスカントリー』の途中、
美しい風景等をチェックしたり、楽しんだり、寄り道もしたリオネルであったが……
村を午前8時に出発し、行程90㎞のうち、64㎞をクリアしても、
まだ1時間も経っていない。
『よし、ケル、軽くウォーミングアップレベルで行くか』
『了解だ』
と、いう事で……
再び、走り出したリオネルとケルベロスであったが……
街道まで出て、ワレバットまで約20㎞の地点にて、異変を感じた。
リオネルの索敵の有効範囲3㎞先に、
ゴブリンの大群による『敵襲』を魔力感知でキャッチしたのだ。
『ケル、
リオネルは言い放つと、すかさず、転移魔法を発動。
ケルベロスとともに『現場付近』へ急行したのである。
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