第274話「地味な努力が報われる」
キャナール村の村道を街道へ、リオネルは勢いよく歩いて行く。
リオネルの飛び抜けた聴力はいまだ、
モーリス、ミリアン、カミーユが別れを惜しむ声を、
はっきりと
だが……
リオネルは、もう振り返ったりはしなかった。
「たったった!」と軽快に速足で歩いて行く。
しっかりと見届けた。
モーリス達3人は、大丈夫。
今の自分のように、地に足をつけ、しっかりと己の人生を歩いて行く。
そうリオネルは確信していた。
さてさて!
リオネルが、たったひとり帰還するワレバットまでの距離は、約90kmである。
帰還までの道中、すでにリオネルは己に課題を設ける形で、
しっかりと『予定』を立てていた。
モーリス達へは、徒歩でワレバットまで向かうと告げていたが、
リオネルが、まともに歩いて帰還するはずなどない。
当たり前のように、周囲1km四方へ自然と張り巡らせている索敵には、
無害な動物以外、何の反応もない。
人間を襲う魔物は勿論、人間も居ない。
そう、もうお分かりかもしれない。
リオネルは単に帰還するのではない。
道中、『修行』しながら帰還するのだ。
今回立てた課題は、転移魔法の
移動可能距離の延長である。
転移魔法を授けてくれた、ソヴァール王国建国の開祖、
アリスティド・ソヴァールが、リオネルへ命じた課題でもある。
「
頃合いと見て、リオネルはケルベロスを召喚した。
何故、ケルベロスを召喚したのか?
道中の護衛役という意味もあるが、それだけではない。
いくつか課題があるからだ。
アリスティド・ソヴァールはこうも言った。
『転移魔法の発動に、詠唱は不要だ。心で距離、行き先を念じれば、瞬時に移動出来る! また熟練度やレベル等に比例するが、同行者を連れて行くのも、荷物の運搬も可能だ!』
現時点で、リオネルは極めて短い言葉で、転移魔法を発動している。
いずれ、無詠唱で行けるという見込みがある。
詠唱と発動の円滑さは、ほぼクリアといって構わないだろう。
後は、同行者転移、荷物の運搬を極める事も目指す。
リオネルは、召喚したケルベロスへ、心と心の会話『念話』で話しかける。
『悪いな、ケル。また修行に付き合ってくれ、同行者として、ともに転移して貰うぞ』
『了解だ!
リオネルの『お願い』を快諾したケルベロス。
地の一族である冥界の魔獣は、
リオネルが地界王アマイモンの愛娘ティエラから加護を受けて以降、
とても機嫌が良く協力的である。
元々、リオネルの事を大いに気に入っていたから、尚更だ。
ケルベロスが同行修行を了解した。
なので、リオネルは転移魔法発動の準備へ入る。
この世界において、転移魔法は失われた幻の精霊魔法と言われている。
世界数多の種族の中でも、転移魔法を使う術者の話はほとんど聞かない。
唯一、エルフことアールヴ族の長たる者が行使可能らしいと、
噂を聞くくらいだ。
という事で、リオネルは行使可能な事をオープンにはしたくない。
大騒ぎになるのは必定で、旅立つ事も差しさわりが出るからだ。
転移した姿を目撃されないよう、転移先の状況に注意するのが肝要である。
でもそれって、どうやって?
という疑問が出るのは当然だろう。
リオネルが転移魔法の修行を開始してから、
転移先の状況に注意したいと心で念じた瞬間。
何と何と!
『索敵の魔力感知』が作動。
それも、『転移先へイメージした到達地点の状況』が心に浮かんだのである。
通常の索敵よりはやや精度が落ちるが、十分に使えそうである。
カバーする範囲も、何度も試してみたら、
結局、到達地点の最大15㎞範囲をカバーする事が可能であった。
リオネルは、このスキルを『遠距離索敵』と名付けた。
そもそも、リオネルは王都で冒険者になって以来、
王都周辺を手始めに各地の地図を購入。
じっくりと読み込み、町村の位置や、地形の詳細を把握するよう心がけて来た。
各地を巡る旅をする際、初めて行く土地で迷うリスクを減らす為である。
また旅の途中でも、休憩の際等、暇さえあれば地図を念入りに見て、
実際の地形と、しっかりと付け合わせをする事を続けている。
実際にその地味な努力は、とても役に立っており、
これまでリオネルは、道に迷った事がなかった。
また実力がつくにつれ、索敵スキル能力が著しく向上して後押した事もあり、
深い森林、未開の原野等でもスムーズに移動出来た。
そしてその努力は、『遠距離索敵』のスキル習得という結果となり、
転移魔法の行使にも大いに役立ったのである。
『よし、転移目標地点確定! 無人! 異常なし! じゃあ、転移するぞ。……ケル。俺の周囲10m以内で待機してくれるか』
『了解だ』
少し離れた場所に居たケルベロスは小さく吠えると、軽くジャンプし、着地。
リオネルの傍らに控えた。
『
軽く息を吐いたリオネルが、言霊を念話で詠唱。
すると、転移魔法は見事には発動。
リオネルとケルベロスの姿は、その場から、煙のように消えたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます