第273話「名残りはつきない。 しかし、いよいよ別れの時が来た」

リオネル達が来訪したこの日の夜……

アルエット村同様、うたげが催された。

当然、モーリス、ミリアン、カミーユの移住歓迎の宴である。


食べて、飲んで、歌って、踊って……

モーリス、ミリアン、カミーユは、宴を楽しんでいる。


特にミリアンとカミーユは、昼食をともにした少年少女達と、歌って、踊っている。


昼間、モーリス商会の荷物搬入作業で更に仲良くなったようだ。


一方、リオネルはと言えば、またも会場となった村の中央広場の片隅に座っていた。

自分が宴に参加して楽しむというより、

ミリアンとカミーユの幸せの行く末を見届けたい、そんな気持ちが強いのだ。


いきなり!

宴の中心に居る、笑顔のミリアンが声を張り上げる。


「リオさ~ん!! 来てよぉぉ!!」


仕方ない。

リオネルはすっくと立ちあがり、ミリアンの下へ行く。


「こっち、こっち、早くう! 早くう!」


手招きし、更に声を張り上げるミリアン。

苦笑しながら近寄るリオネル。


3mほど近くに近づいたリオネルだが、ミリアンは満足しない。


「リオさん、もっと近く! 超接近してよお♡」


「おいおい、ミリアン」


「もっと、もっと、近くう」


「はいはい」


もうリオネルとミリアンの間が30cmくらいしかない。


そんな様子を見て、カミーユと少女達はにこにこ笑顔。

少年達はといえば、笑顔としかめっ面が混在していた。


しかめっ面の少年達は、ミリアンに対し、好意を持つ者に違いない。


ここで、ミリアンの両腕が伸び、「がっし!」とリオネルの手をつかみ、

ぐいっと引き寄せた。


リオネルは、踏ん張って抵抗するなどしない。


自然に、ミリアンと抱き合う形になってしまった。


ミリアンがリオネルへ「大好き!」の強い気持ちを送り、抱き合ったのは、

誰の目に見ても明らかである。


密かに、ミリアンへ好意を寄せる少年達にとっては、大ショックの行為だろう。


そして、ミリアンには意図的な計算があった。


「リオさん! 大好き! 愛してる♡」


リオネルに抱き着いたまま、ミリアンは愛をささやき、


「みんな! 聞いて! 私はリオネル・ロートレックさんひとすじの女子よ! 他の男子はノーサンキュ-! 彼は明日旅立ってしまうけど、私は待ってる!」


更にきっぱりと言い放った。


おおおおおおおおお!!!!!


大いに宴が盛り上がるが……


ここでミリアンが、『熱愛宣言』をしたのには『理由』があった。

その理由を昼間、リオネルは事前にこっそりと聞いている。


「リオさん、私、今夜リオさんへ熱愛宣言する。5年後の約束は勿論だけど、私はまだ修行中の身。当分、仕事に専念、集中したいし、もし私を好きな子が居たとしても、変に期待させたくないわ」


……それでも、モーリス商会で仕事をしたいと志す少年が居たら、

その彼は、モーリス商会の仕事にもミリアンとの恋愛にも真剣で本気だ。


ミリアンは言わなかったが、そう考えたに違いない。

彼女に抱かれながら、リオネルはそう確信した。


……そんなこんなで、夜はふけ、宴は無事終わったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


翌朝も、隣村アルエット村とほぼ同じ事が繰り返された。


翌朝4時……

慣例となったというキャナール村自警団の訓練に、リオネルは参加した。

モーリス、ミリアン、カミーユとともに武技指導という形で。


ミリアンの熱愛宣言があったが、

少女達は勿論、少年達も誰ひとり欠けたりしなかった。

パトリスも、大勢の村民達ともに汗を流した。


ランクAの超一流冒険者リオネルとモーリスの豪華講師コンビ、

ミリアンとカミーユの現役冒険者の指導に、キャナール村の村民達は大喜びし、

気合が入った。


そして訓練後の朝食は、

『会食』形式でモーリスの自宅にて、にぎやかに行われた。


この『朝食会』に参加したのは、リオネル、モーリス、ミリアン、カミーユ、

そしてパトリスのみである。


今度こそ、リオネルとの最後の食事……最後の旅のフィナーレにもなる。

実質的な、送別会である。


リオネル、モーリス、ミリアン、カミーユ4人は、存分に会話を楽しんだ。

互いに出会ってから、ワレバットの街で暮らし、様々な町村を支援し、

英雄の迷宮を攻略するまで……数えきれないくらい、心に思い出を刻んだ。

……どの思い出も、ひどく感慨深い。


朝食が終わり、最後は4人全員で固く抱き合った。


リオネルは、モーリス、ミリアン、カミーユと、

血がつながっているわけではない。


赤の他人である。


しかし、4人の心の絆は肉親よりも堅く強い。


リオネルの心に3人から聞いた、様々な言葉がリフレインする。


「遠く離れ離れになるのは、すっごく寂しいけれど……リオさんと私達、心と心は一生つながっているから」


「俺達とリオさんの往く道は違うっす。人生は、別れと出会いの連続っす。だから今この時を大事に生きるっすよ」


「人生は出会いと別れ、別れと出会いだ。それに一生会えないと決まったわけでもない。私とパトリスのように10年後とか、いつの日にか再会する事もあるだろうて」


3人の様々な言葉がリフレインするごとに、

リオネルのまぶたの奥が熱くなる……涙があふれ出る。


……名残りはつきない。

しかし、いよいよ別れの時が来た。


午前8時となり……

リオネルはひとり、村民全員に見送られ、キャナール村を出発した。


今回も、まさに既視感デジャヴュ


リオネルが、アルエット村を出発した時と全く同じ形となった。


正門を出る時は、モーリスとパトリス、ミリアンとカミーユだけでなく、

村民のほぼ全員が見送ってくれた。


皆が、大きく手を打ち振って叫び、別れを惜しんでくれている。


何度も聞いた覚えのある声がリオネルの耳へ、聞こえて来る。


「リオ君! 生きるだけ生きて、やりたい事をやり、悔いのないよう、人生を全うしよう! 絶対に無茶をするな! 君の成功を祈ってる! また会おう!!」


「リオさあん! 私、頑張る! 夢を叶える! 素敵な大人の女子になる! 5年後! 絶対に! また会おうねえ!!」


「リオさあん! 俺は、一生懸命に頑張るっす! 最強のリオさんを目指すっす! そして! 姉さんを一生守るっす! 絶対! また会うっすよぉ!!」


モーリス、ミリアン、ミリアン、パトリス以下村民経ちの声を背に受け、

リオネルは、振り返り、大きく手を打ち振る。


その目には再び、熱い涙があふれていた。


「皆さあん! またお会いしましょう!!」


別れの言葉を大音声で叫んだリオネルは、きびすを返すと、

後は、振り返らず、ずっと速足で歩いて行った。

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