第269話「同世代の親友」
アルエット村から、隣のキャナール村までは、約30㎞。
平均時速10㎞の馬車でのんびり3時間……
ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ!
ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ!
ガタガタゴトゴト…… ガタガタゴトゴト……
ガタガタゴトゴト…… ガタガタゴトゴト……
今日も天気は快晴。
真っ青な大空には雲ひとつない。
気温も高からず、低からず。
吹く風が、頬に心地良い。
王国街道から村道へ……
リオネル達は、キャナール村へ到着した。
キャナール村も高さ5mぐらいの武骨な丸太の防護柵に囲まれている。
村道が突き当たる正面には、同じようなぶ厚い板で造られた正門があり、固く閉ざされているのも同じ。
そして正門の内側、やや後方に高さ7mぐらいだろうか、物見台を備えた木製のやぐらがあるのも同じだった。
そして物見台に陣取る革鎧姿の門番は、金髪の少年ドニ……ではなく、
たくましい中年の男である。
しかし、初めての訪問時と門番の対応は全く違う。
リオネル達がゴブリンを討伐する前は、ひどく警戒し、正体不明の者を見とがめていたからだ。
門番は、馬車でやって来た来訪者達が、すぐにモーリス一行だと認識。
晴れやかな笑顔を向ける。
「おお! モーリス様! 皆様! ご無事なご到着で何よりです! お待ちしておりましたぞ!」
対して、モーリスも気安い雰囲気である。
そして初対面の時みたいに、門番を役職で呼んだりせず、名前で呼ぶ。
「おお、これはこれは、アントナン殿、お役目、お疲れ様です。安全も確認済みで、周囲に敵は居ない。門を開けて頂けるかな」
今後、村で重きを為すモーリスが丁寧な物言いで伝え、自分の名前も
相当嬉しかったのだろう。
門番アントナンは声を大きく張り上げる。
「了解です! ……お~い!!!! みんなああ!!!! モーリス様達が帰って来られたああ!!!! キャナール村へ帰って来られたぞぉぉ!!!!」
対して……
少し間を置き、
「「「「「おおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
大きなどよめきと叫びが聞こえた。
どよめきを聞いたミリアンとカミーユ。
「あははは! 良かったね、師匠! 忘れ去られていなくて! 村の人が、ちゃんと反応してくれてさ!」
「全くっす! リオさん帰還の、アルエット村の反応よりは、若干スケールダウンっすけど」
「…………………」
父として師匠として、モーリスが大好きな癖に、
いつも
微笑ましいというか、リオネルは無言で苦笑するしかない。
しかし、村民達が発した『どよめき』を聞き、嬉しくて涙ぐむモーリスは、
双子姉弟の『突っ込み』を華麗にスルー。
晴れやかな笑顔で、大きく手を打ち振っていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
やがて、キャナール村の正門は開けられた。
開けられた先の光景もまさに
アルエット村を全く同じ光景を、リオネル達は目の当たりにしたのだ。
門扉の向こうは、モーリスの『帰郷』を大歓迎する、
親友で上司のパトリス始め、キャナール村の村民達で、いっぱいに満ちていた。
アルエット村ではリオネルが、主役であった。
しかし、キャナール村ではリオネルは準主役、モーリスが主役である。
馬車が村内へ入り、正門が閉められた。
止まった馬車からリオネル達が降り立つ。
大勢の村民達の中から、ひとり、パトリスが進み出る。
リオネル達の中から、ひとり、進み出たのは当然モーリスである。
「おお、モーリス! 我が村へ戻って来てくれて、本当に嬉しいぞ!」
「おお、パトリス、長い間、待たせたな! たった今、戻ったぞ!」
ふたりは、見つめ合うと、がっつり抱き合った。
さすがに辛口なミリアンとカミーユも、視線に慈愛を込め、見つめている。
「同年齢の友達っていうか、親友かあ……少しうらやましいかも……」
「そうっすね。姉さんと俺には、同世代のこういう友達は居なかったっす」
ミリアンとカミーユの物言いを聞き、リオネルは思う。
姉弟が育った創世神教会の孤児院には、同世代の子供が居ただろう。
しかしふたりは、他人に対し、なかなか心を開かなかったのかもしれない。
この先、ミリアンとカミーユは同世代の者達と親しくなり、
モーリスとパトリスの間柄のような『親友』を作って欲しい。
そして自分も……
師匠と呼べる相手、敬愛すべき姉、可愛い妹、弟と呼べる存在とは絆を結べた。
後は実兄以外に兄と呼べる相手、同世代の親友が居れば、どんなに楽しいだろう。
特に『同世代の親友』は欲しいと、リオネルは切に願う。
やがて……
モーリスとパトリスは抱擁を解いた。
パトリスはリオネル達へ一礼。
「リオネル君、ミリアンさん、カミーユ君、良くぞ、帰って来てくれた。さあさあ、とりあえず、村の中へ奥へ。馬を
とこれまた、アルエット村村長クレマンのような歓迎の物言いをしたのである。
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