第270話「女子は男子よりも、大人になるのが早い」

パトリス・アンクタンはキャナール村の『管理官』『司祭』『村長』


モーリス・バザンは同村の『副管理官』『副司祭』『副村長』


王国政務官として、聖職者として、現場のまとめ役として、

これから更に苦楽をともにする親友同士、熱い抱擁が終わると……


パトリスは、4人を1軒の大きな大型家屋へ案内した。


……外観は村では珍しい2階建て白壁、窓も多い、井戸付きの大きな家屋だ。

敷地も広く、倉庫が3つ。

馬車用の厩舎、駐車場も3台分ある。


室内は全て板張り。

間取りは、30畳くらいの大きな居間、厨房。

クローゼット付きの個室が3つ、こちらも12畳以上ある。

更に客室がふたつもあるという、村の中では、だいぶ豪華なものだ。


この家こそ、今後モーリス、ミリアン、カミーユが新生活を送る家であり、

パトリス指揮の下、

キャナール村の大工仕事を務める村民有志達が、大張り切りで、

新たに建てたものであるという。


更に聞くと、移住の話が出て、4人が旅立った後、

モーリス達用の家を造ろうと話があったようだ。


実は個室も4つだったが、リオネルが移住しないと分かり、

その1室を客室に回したという。


「話が違う!」とばかりに驚くモーリス。


「おいおい、パトリス、どういう事だ? 話が違うぞ」


「ふむ、確かに少し違うか」


「いや、少しではない。大きく違う! 私達3人の住む家をわざわざ新築したのか? 村の適当な空き家をてると、手紙には書いていたではないか」


「はははは、モーリス! ちょっとしたサプライズだ。我がキャナール村において、お前達3人が、新たな人生を踏み出す際の記念だよ、記念」


「私達が、新たな人生を踏み出す際の記念? そうだったのか。やられた。大いに驚いたよ」


「ははは、見事に作戦成功だ」


「おいおい! ならば、パトリス、いっその事、お前もこのたびの役職就任の記念に、自宅を新築すれば良いのに」


「いや、モーリス。私は今の家を建て替えない。教会も同様だ。何故なら、まだまだ持つし、思い入れが深い」


「思い入れだと?」


「うむ! 私が新・司祭としてキャナール村へ赴任した際、当時の先代村長が大歓迎してくれ、教会と自宅を用意してくれていた」


「おお! そうか、パトリス! 先代の村長殿が!」


「ああ、そうなんだ、モーリスよ。教会と私の自宅は、構造、間取りを、先代村長が一生懸命に考え、村民達とともに建築。家具等は全て手配をしてくれたものなのだ」


「パトリス……」


「私が生きている間は、耐久性に問題はないし、使い勝手も良い。特別な事情がない限り、教会と家を建て替えはしない!」


「…………」


「モーリス、先代村長から、私が司祭として迎えて貰った時、細やかな気配りをして貰い、よそ者だった私は本当に嬉しかった。村にもすぐ溶け込む事が出来た」


「…………」


「……今度は村長たる私が、モーリス! 新たにキャナール村の住人となるお前達にそうする番だ!」


笑顔のパトリスは、きっぱりと言い切ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


パトリスも加わり、全員で手分けして、

馬車から引っ越し荷物、食料、資材等々を運ぶ。


特にリオネルは張り切って働いた。

あっというまに大量の荷物が、一旦、倉庫へと入れられた。


後は、各部屋へ再び運び込むのだ。


引っ越し作業『仮』終了後、パトリスは、


「長旅の疲れもあるだろう。すぐ昼飯の用意をさせるから、一緒に食べよう。そして食後は、『モーリス商会』の社屋、付属店舗等々の案内をして、今夜は、村民全員参加で歓迎の宴だ。宜しく頼むぞ!」


そう告げると、颯爽さっそうと去って行った。


語り合ったモーリスは、満足そうに頷く。


「うむうむ! パトリスの奴、本当に張り切っておる! 結構、結構!」


対してミリアンは、


「うふふ♡、親友の師匠が一緒だから心強いのね!」


と言えば、カミーユが。


「しかし、師匠。これだけは気を付けた方が良いっす」


「おお、何だ、カミーユ。何を気を付けるのだ?」


「ちゃんと! 公私の区別をつける事っす!」


すぐさま、ミリアンが反応する。


「うわお! 公私の区別をつける事って! カミーユにしては良い事、言うね!」


「はあ? カミーユにしては? 姉さん、それはさすがに失礼っす!」


「何が、失礼よ。あんた普段、ろくな事言わないんだもん!」


「普段!? な、何がっすか!」


「へえ! 忘れたの? カミーユ、あんた、英雄の迷宮地下2階層で、はっきり言ったわ!」


ミリアンがきっぱり言うと、カミーユはびくっ! とする。


そして、意味もなく口笛を吹き、


「え!? え、英雄の迷宮地下2階層!? な、何を言ったすかあ! 記憶にないっす!」


「とぼけてもムダよ! あんたは、こう言った! ……『コードネームG』なんて、はっしと捕まえて! 気合を入れて! 握り潰してやれば良いっす!ってね! 念の為! 原文ママ! そしてこんなのは氷山の一角! まだまだたくさんあるわ!」


「わあああああ!」


頭を抱え、叫ぶカミーユ。


「もう! 仕方がないわね。私が『締めて』あげる!」


と苦笑してミリアンは言い、


「師匠、パトリスさんとは大親友で、気兼ねなく接する間柄だけど、村における役職では、全てに上司! おおやけの席では、呼び方、口の利き方、様々な事に公私の区別をつける事! そうでないと、村民さん達にしめしがつかない。だから要注意よ!」


モーリスに対し、びしっ! と注意をしたのだ。


対してモーリスも納得。

遥かに年下で、娘であるミリアンの言葉を素直に肯定したのである。


「うむ、本当にお前の言う通りだ、肝に銘じよう、ミリアン。そしてカミーユもありがとうな」


ここで、カミーユが騒ぎ出す。


「うわあ! 姉さんに良いとこ取り、されたあ!」


しかし!

ミリアンは、きっとカミーユをにらむ。


「シャラップ! カミーユ! 師匠だけじゃない! 私とあんたも一緒だからね!」


「へ? 姉さんと俺も? 師匠と一緒?」


「ええ! 私とカミーユは、キャナール村の『副管理官』『副司祭』『副村長』の子供なのよ。村民の皆さんは大いに気をつかう。だからこそ、公私の区別をつけ、人一倍、謙虚にしないといけないわ!」


「りょ、了解っす! 姉さん!」


「うん! 宜しい!」


女子は男子よりも、大人になるのが早いとちまたでは言う。

本当にそうなのか、リオネルには分からない。

だが、日々成長するミリアンを見ていると、その言葉を実感する。


彼女が姉と慕うワレバット、冒険者ギルド総本部の秘書職になるエステル。

憧れるアルエット村の村長代理となったエレーヌのような、

『素敵な大人の女性』を目指しているのかもしれない……


そう思いながら、リオネルはミリアンを見つめていたのである。

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