第268話「3人の心は最早、キャナール村に在る!」

翌朝4時……

慣例となったというアルエット村自警団の訓練に、リオネルは参加した。

久しぶりの武技指導という形で。


門番少年ドニたっての願いでもあり、

前日、話を聞いたモーリス、ミリアン、カミーユも参加し、

クレマン、エレーヌ、アンナも含め、大勢の村民達ともに汗を流した。


ランクAの超一流冒険者リオネルとモーリスの豪華講師コンビの指導に、

アルエット村の村民達は大喜びし、気合が入った。


そして訓練後の朝食は、

『会食』形式で村長クレマンの自宅にて、にぎやかに行われた。


この『朝食会』に参加したのは、クレマン、エレーヌ、アンナ。

リオネル、モーリス、ミリアン、カミーユである。


7人は真面目な話、柔らかい話、様々な話題を存分に語り合う。


また、この朝食会は、リオネルの送別会、

そしてモーリス達との懇親会を兼ねていた。


昨夜の話がまとまれば、モーリス達は『町村支援施策』を請け負い、

アルエット村で業務を遂行する事となる。


リオネルの旅立ちを悲しんだアンナも……

『大人になったら再会』の約束をした上、

仲良くなったミリアンお姉ちゃん、カミーユお兄ちゃんが再訪すると聞き、

大いに喜んだのである。


そして、午前8時となり……

リオネル達は、村民全員に見送られ、アルエット村を出発した。


まさに既視感デジャヴュ


以前、リオネルがオークどもを討伐後、アルエット村を出発した時と全く同じ形となった。


正門を出る時は、エレーヌとアンナ、クレマン、ドニ達だけでなく、村民のほぼ全員が見送ってくれたのだ。


皆が、大きく手を打ち振って叫び、別れを惜しんでくれている。


「リオネルさぁん! いろいろと本当にありがとう! 元気でねぇ! 命を大事にするのよぉ! 絶対に無理しちゃだめだからねえ!」


「バイバイ! リオにいちゃぁん! おじいちゃんとママと待ってる! また必ず村へ遊びに来てねぇ! 約束も忘れないでぇ! 大人になるアンナを楽しみにしてねえ!」


「さらばじゃあ、リオネルさん! 自分のふるさとだと思って! またいつでも、アルエット村へ来てくださいよぉ! モーリス様! 再訪をお待ちしておりますぞお!」


「兄貴ぃ! いつもありがとう! 俺、いろいろ教えて貰った事を活かして! 一生懸命頑張って、村を守るよぉ!」


「「「「「リオネルさあん! 皆さあん! ありがとう!」」」」」


「「「「「達者でなあ!」」」」」


カミーユが御す馬車は軽快に走り、アルエット村から、どんどん離れて行く。


やがて……

アルエット村の頑丈な正門は、再びしっかりと固く閉じられたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


リオネル達を乗せた馬車は、村道から街道へ入り、キャナール村へと走る。


ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ!


ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ!


ガタガタゴトゴト…… ガタガタゴトゴト……


ガタガタゴトゴト…… ガタガタゴトゴト……


元気に馬車を牽ひく馬のひずめが、車輪の音が、のんびり響く。

いつもながら、とても平和で牧歌的だ。


御者台に座るのは、御者役のカミーユ、ナビゲーター志願のミリアンである。


これから、公私とも、たびたびアルエット村へ来訪する可能性は高い。

道と勝手をしっかり記憶しておこうと心づもりだ。


以前街道では、エレーヌとアンナがオークどもに襲われた事もあり、

人間の賊の襲撃とともに、気を抜けない。

ふたりとも真剣な眼差しで、周囲を見回し、気配を探っていた。


……今のところ、異常はないようだ。


キャナール村までは約30㎞。

馬車は、時速10kmほどで走る。

だから、約3時間後には、到着するはずだ。


周囲を見回しながら、ミリアンが言う。


「アルエット村も良いところね」


対して隣に座るカミーユが答える。


「姉さん、キャナール村と同じくらい、良いところっす」


「だよね! 私、アルエット村のエレーヌさんみたいになりたい! 美人で仕事が出来て、アンナちゃんの良きママで、理想とする大人の女性かも! あ、ワレバットのエステル姉さんも良いかなあ」


「姉さんは、強引で押しの強いところだけは、エレーヌさんやエステル姉さんに似てるっすから、大丈夫じゃないすか」


「カミーユ! あんた! いつもひと言、ふた言多い!」


「そ、そうっすか」


「そうっすか、じゃない! あまり無駄口叩くと、凍らせて、道端へ捨ててくよ! ゴブリンの保存用エサにでもなりなさい!」


「うっわ! 姉さん! ゴブリンの保存用エサにされるのは、勘弁っす!」


客席に乗るリオネルとモーリスは、姉弟のやりとりを見て聞いて笑う。


リオネルは記憶を手繰たぐる。


モーリス達と出会ったばかりの時とは、皆、良い意味で、言葉遣いが変わっている。


お互いに気心が知れ、家族のように、なっている。


ここで、モーリスが言う。


「リオ君」


「はい」


「アルエット村でも泊まって行ったんだ。まさか、私達を見送り、はい、さよなら、ではないだろうな?」


「え?」


「え? ではないぞ。『我がキャナール村』へも当然、泊まって行け」


「うわ、モーリスさん、何か命令口調ですね」


「当り前だ! 私はキャナール村の副管理官兼副村長兼副司祭だ! 責任ある立場として、リオ君に、我が村への滞在を命じる!」


言葉は厳しいモーリスだが……

アルエット村の歓待ぶりを見て、

キャナール村においても、リオネルをもてなそうと、考えているらしい。


当然、我が子ミリアンとカミーユ、親友パトリスとともに。


ミリアンとカミーユも、


「リオさん、『私達のキャナール村』から、すぐ旅立つのはNGだよ!」

「当り前っす! 『ウチの村』でも大歓迎するっす!」


『我がキャナール村』

『私達のキャナール村』

『ウチの村』


3人の心は最早、キャナール村にる!


キャナール村は、モーリス達3人が生まれた場所……『生まれ故郷』ではない。


だが、3人は『心の故郷』として、村をいつくしみ、

パトリスを始めとした仲間の村民達と、幸せに暮らして行くに違いない。


そう感じ、嬉しくなったリオネルは、


「了解!」


と大きな声で、応えていたのである。

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