第267話「宴の夜③」

「アンナちゃん、私と一緒の約束に乗らない?」


「や、約束? ミリアンお姉ちゃんと? アンナが?」


戸惑うアンナに対し、


「ええ、私ミリアンと! アンナちゃんがね! 一緒に、リオ兄ちゃんとする約束よ!」


と、ミリアンは、きっぱり言い切った。


そして、宴の輪の中心に居る、リオネルを見据え、


「私、リオさんを呼んで来る! アンナちゃんは、ここに居て!」


「は、はい」


「カミーユ、あんた、アンナちゃんのそばに居て! ちゃんと、守ってるのよ!」


「了解っす!」


「じゃ! 行って来る!」


たっ! たっ! たっ! と、速足で宴の中心へ、ミリアンは歩いて行く。


そして、リオネルの手をむんずとつかんだ。


そのまま村民達から無理やり引き離し、ぐいぐいと引っ張って、

アンナとカミーユの居る方へ歩いて来た。


「ミ、ミリアンお姉ちゃん……す、凄い!」


呆然とするアンナ。


「あはは、いつもの事っす」


苦笑するカミーユ。


「でも、ミリアンお姉ちゃん、ママに凄く似てる!」


「うわ! エレーヌさんって、美人な上に、強気で超スパルタな方だったすか!」


などと、アンナとカミーユが盛り上がっているところへ、


ミリアンに手を引っ張られたリオネルが登場。


リオネルは、カミーユ同様、苦笑していた。


ここで、ミリアンがカミーユへ言う。


「ねえ、カミーユ、索敵に長けた、シーフのあんたなら出来るわよね?」


「は? 索敵に長けた、シーフなら出来る?」


「そうよ! シーフらしく、周囲を警戒し、私達4人の当事者以外、第三者が近づかないよう見張る! そして私の話も、しっかりと聞く!」


「うっわ! 一度に見張る、聞くのダブルアクションっすか! 難易度高いっす!」


「こら! カミーユ! リオさんを目標に高みを目指すんでしょ? これくらいは、楽勝でクリアしなさいっ!」


「はいっす!」


姉の叱咤を聞き、大げさに、直立不動で敬礼するカミーユ。


「ぷっ!」


ミリアンとカミーユのやりとりを聞き続け、遂にアンナが笑い出す。


「あはははは! ミリアンお姉ちゃん、ホント、ママに似てるう!」


「ええっと、ミリアン、話って?」


ひとり、戸惑うリオネル。


どうやら何も告げられず、ミリアンに引っ張られて来たらしい。


軽く息を吐き、姿勢を正し、ミリアンが言う。


アンナに向けて微笑んでいた表情から一転。

ひどく真剣だ。


「リオさん、話というのは、他でもないの。例の5年後の約束の事よ。おぼえていて、くれてるわよね?」


「5年後の約束? ああ、しっかり憶えているよ」


「良かった! ありがとう!」


念の為、補足しよう。


『5年後の約束』とは、リオネルが5年後に、20歳になったミリアンへ会いに行く。


そして、


「『20歳の大人で魅力的な女』になった私ミリアンと、キャナール村で再会して、お互いに独身で、お互いにまだ好きだったら……絶対に結婚しようね! ……決定!」……原文ママ。


という約束である。


「それでね、リオさん。この約束を、少し改訂するの」


「改訂?」


「ええ! 私ミリアン・バザンと、アンナ・ルヴィエさんとふたり、一緒に約束するの」


「え? ふたり一緒?」


「そう! 20歳になった、ふたりの大人の女子にそれぞれ会いに来て貰って、お互いが好きで、条件が折り合えば、結婚するのよ! ソヴァール王国は一夫多妻がOKでしょ!」


「ええ!? ミリアンお姉ちゃん!」


5年後の約束を、全く知らなかったアンナ。

大いに驚いた。


同じく驚くリオネルとカミーユ。


「うお!」


「うっわ! リオさん、遂に遂に! モテ期が来たっすよう!」


こんな時でもカミーユは『ぼけ』をかますのを忘れなかった。


しかし、聡明なアンナは、すぐミリアンの『思いやり』に気が付いた。


「あ、ありがとう! ミリアンお姉ちゃん! 大好き!!」


「うふふ、どういたしまして!」


微笑むミリアンは、リオネルにぐいぐい迫る。


「さあ! リオさん! OKして! さあ!さあ!さあっ!」


するとアンナまで、リオネルにぐいぐい迫る。


「さあ! リオにいちゃん! OKして! さあ!さあ!さあっ!」


ふたりの女子の、とてつもない押しの強さ。


そして、ふたりはもう一度、攻撃を繰り返す。


「さあ! リオさん! OKして! さあ!さあ!さあっ!」


「さあ! リオにいちゃん! OKして! さあ!さあ!さあっ!」


攻撃は……都合計10回繰り返された。


これはOKしてくれるまで、解放してくれそうもない。


そして、とうとう、リオネルは降参。

ミリアン、アンナと、『20歳になってからの再会』を約束した。


「わ、分かった……約束する!」


よし!

言質げんちを取った!


素敵で魅惑的な大人女子に私はなる!


ミリアンとアンナは、勝利のハイタッチ!


「うおお、女子こえ~! 怖すぎる! ああ、エレーヌさんもそうかあ!」


と震えるカミーユ。


こうして元気になったアンナは、リオネル、ミリアンと3人で、仲良く踊り、

宴を存分に楽しんだ。


その後、宴が終わり、アンナも帰宅。


……ミリアンから、リオネルへこっそりと『事情』が告げられ……

『お詫び』があったのは、言うまでもなかったのである。

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