第263話「リオネル兄貴が帰って来たああ!!!!」

山賊どもを一蹴したリオネル達。


その後も、ゴブリンの小群をあっさり撃退したり、

追いはぎ数人を軽くあしらったりし、

キャナール村へ、のんびり?馬車の旅を続けた。


ちなみにモーリスは、別れが辛くなるからと考え、

事前にミリアンとカミーユにも言い含め、納得させ……

リオネルへ『キャナール村の滞在』を、敢えて勧めてはいなかった。


そして……まもなく、キャナール村という地点。


モーリスが、リオネルへ尋ねる。


「リオ君は、私達をキャナール村へ送ったら、徒歩でワレバットの街へ戻ると言っていたな」


「はい、パトリスさん達へ挨拶したら、戻ろうと考えて……でも気が変わりました」


「え? 気が変わった? どう変わったのかね、リオ君」


「ええ、出発前に魔法鳩便で、こういう理由で、顔を出すと手紙を送っておきましたが……」


「何? 手紙」


「はい! キャナール村の先、アルエット村へも行き、お世話になった人達へ挨拶。それから、ワレバットへ戻ろうかと思います」


「おお、相変わらず、リオ君は律儀りちぎだな」


「気が変わった、キャナール村へ泊ってから帰りたい」

そうリオネルからは言われず、少し落胆したモーリスではあった。


しかし、気を取り直し、はた! と手を叩く。


「ならば、決めた! 私達も先にアルエット村へ行こう!」


「え? キャナール村へ行く前にですか?」


「ああ! パトリスにはこの旅の趣旨を手紙で事前に伝えてある。リオ君との思い出をたどる旅だとな。あいつから、のんびり来いと返事を貰っているよ」


「そうだったんですか」


「うむ! アルエット村は、キャナール村の隣村。ご領主様こそ違うが、これからもお互いに助け合いながら暮らして行くだろうからな!」


「な、成る程」


「ついでに挨拶をしておくのが賢明だろう。もしリオ君が居れば、初対面の私達でも、打ち解けられるんじゃないかな」


モーリスの言う事はまさに道理である。


キャナール村とアルエット村は隣村で交流があるに違いない。

だが、モーリス達は、新参者でかかわりはない。


リオネルが居れば、仲間であるのは勿論、

『キャナール村の副村長』としても、帰村のついでに送って来たという名目が立つ。


アルエット村村民とのやりとりも、

懇意にしていたというリオネルが居れば、スムーズに行く可能性が大である。


リオネルは自身の報告をしたかった。

ついでに、顔を出そうという気持ちであったが……


よくよく考えたら、モーリス達の今後、

キャナール村とアルエット村の未来を考え、そうした方が良いと納得した。


ふたつの村は領主が違うが……

自分が居れば、あくまでプライベートの範疇はんちゅうという事で、

副村長のモーリスが訪れても、公式の訪問にはならず、話も大きくならない。


万事がOK!

デメリットはない!


ミリアンとカミーユも快諾し、リオネル達を乗せた馬車は、行先を変更。

一路、アルエット村へ、向かったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


アルエット村へ行くと決定した時点で、

御者がカミーユから、リオネルへと代わった。


街道からアルエット村の村道へ……

そして村への到着が、周辺の地理に詳しいリオネルの方が、円滑に行える。


そうリオネル自身が申し出て、交代したのである。

キャナール村への横道を過ぎ、王都オルドル方面へ約30km走る。


横道の村道へ入り、アルエット村へ……

久々に通る道を眺めるリオネル。

感慨深く、懐かしくもある。


しばらく走ると、やがて……アルエット村が見えて来た。


見慣れた正門、同じく見慣れた物見やぐら。


……物見やぐらには、少年ドニが居た。

遠目ながら、少したくましくなったようにリオネルには感じた。


相変わらず門番の役目を果たし、周囲を睥睨していたドニは、

正門に近付く馬車に、既に気が付いていた。


『兄貴』と慕うリオネルの存在も確認したようだ。


ドニは、大きく手を打ち振り、


「兄貴ぃぃぃぃ!!!! お帰りなさあ~~い!!!!」


と、大声で叫ぶ。


「お、お~い!! ドニぃぃぃ!!!!」


対して、リオネルも少し照れながら、大声でドニの名を呼び返した。


馬車の客席ワゴンに乗っている、

モーリス、ミリアン、カミーユはにこにこしていた。


「はははははは! リオ君はどこでも、年下の者に慕われるようだ」

と、モーリス。


「私もリオさんを、今度から兄貴ぃぃ!! って呼ぼ!」とミリアン。


「俺もっす! 思い切り、リオ兄貴!! って、呼ぶっすよ!」とカミーユ。


「…………………」


いろいろ言われ、無言のリオネル。


頬が結構赤い。

やはり照れているらしい。


ドニは、再びリオネル達を凝視。

大きく周囲を見回した。


リオネルの索敵にも危険は感じない。


しっかりとドニは仕事をしているようだ。


そしてドニは、村中に響くような大声で叫ぶ。


「お~い!!!! みんなああ!!!! リオネル兄貴が帰って来たああ!!!! アルエット村へ帰って来たぞぉぉ!!!!」


対して……


少し間を置き、


「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」


とんでもなく、大きなどよめきと叫びが聞こえた。

リオネルが事前に出した『帰郷』の手紙が、村民達に周知されていたに違ない。


「す、凄いな!」


「凄い!」

「凄いっす!」


村民達の反応に、大いに驚くモーリス、ミリアン、カミーユ。


やがて……

アルエット村の正門は大きく開かれ……


門扉の向こうは、リオネルの『帰郷』を大歓迎する、

エレーヌ、アンナの母娘、エレーヌの父・村長のクレマンなど、

アルエット村の村民達で、いっぱいに満ちていたのである。

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