第264話「ねえ、今夜は食べて飲んで歌って踊ろ!」

「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」


とんでもなく、大きなどよめきと叫びの後、

アルエット村の正門は大きく開かれ……


門扉の向こうは、リオネルの『帰郷』を大歓迎する、

エレーヌ、アンナの母娘、エレーヌの父・村長のクレマンなど、

アルエット村の村民達で、いっぱいに満ちていた。


馬車は村内に入り、正門はゆっくりと閉められて行く……


「わあおっ!! リオにいちゃん!! リオにいちゃんだあ!」


ひときわ大きな声で叫んだのは、

かつてリオネルがエレーヌと共に、オークどもから助けた愛娘のアンナである。 


御者台に居る、リオネルを見つけ、脱兎の如く、駆けて来る。


「アンナちゃん!」


リオネルは、大きな声で応えた。


心の底から、懐かしさが込み上げて来る。


アンナは、ミリアンと同じく、可愛いもうひとりの妹だから。


「カミーユ、悪い、御者を代わってくれ!」


「了解っす!」


打てば響く、心得た! とばかりにカミーユが頷いた。


リオネルが馬車をく馬の手綱たづなを、

隣に座っていたカミーユに渡す。


そしてパッと、飛び降り、地上へ降り立つと、

既にアンナは、リオネルのすぐそばまで、接近していた。


「リオにいちゃ~ん!!」


転がるように走って来たアンナ。


リオネルへばっと、飛びついた。


そして、ぎゅ! とリオネルに抱き着くと、

再会に感極まったのか、わ~ん! と、大泣きしてしまった。


リオネルもそっとアンナを抱きしめ、


「久しぶりだね、アンナちゃん。元気そうだけど……変わった事はないよね?」


と、優しく尋ねた。


「ううん! 皆、元気! アンナも、ママも、おじいちゃんも! ついでにドニも!」


『ついで』にされてしまった、可哀そうな門番の少年ドニ。


苦笑したリオネルだが、

アンナの言葉から、アルエット村の村民達が全員元気だと知り、大いに安堵した。


ここで、遠巻きにしていた村民達の間から、

アンナの母エレーヌと、エレーヌの父で村長クレマンが進み出た。


「リオネルさん! お帰りなさい! お久しぶり!」


更に貫録を感じさせるエレーヌが声をかけ、クレマンも、


「良くぞ、戻って来た、リオネルさん! お元気そうで何よりじゃ! ……ところで、そちらの方々は?」


と尋ねたので、リオネルは、


「はい、この3人は、このアルエット村を出てから出会い、ずっと一緒に旅をして来た、大切な仲間達です!」


きっぱりと言い切った。


そんなリオネルに、クレマンは目を細め、


「おお! それはそれは、リオネルさんの大切な『お仲間』なら、我がアルエット村の大切なお客様方じゃ、大歓迎致しますぞ!」


父クレマンの言葉にエレーヌも大きく頷き、


「さあさあ、とりあえず、村の中へ奥へ。馬をいたわってから、馬車を止めて、ゆっくり、皆さんとお話し致しましょう」


と笑顔で告げたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


モーリス、ミリアン、カミーユと、

クレマン、エレーヌ、アンナの双方が名前だけ名乗り……

リオネルはアルエット村の村民達全員へ、顔見世し、簡単に挨拶した。


歓喜し、笑顔の村民達はリオネルへ対し、握手攻めの嵐で、再会を喜んだ。


リオネルを大歓迎する村民達の様子を見て、モーリス達は再び驚いた。


その後、リオネル達が案内されたのは、

以前リオネルが寝泊まりしたクレマンの別宅である。


懐かしい!

と、リオネルは微笑み、目を細めた。


まずは馬車のケアと、リオネルとカミーユで、別宅の脇に馬車を止め、

ハーネスから外した馬を植わっている木につないだ。

馬に飼い葉と水をやり、労わる。


その間、別宅では、モーリスとクレマンが話し、

ミリアン、エレーヌ、アンナが菓子とお茶の用意をしていた。


リオネルがおみやげで、好物の紅茶をたくさん持参したので、

エレーヌとアンナは大喜びである。


5人全員、リオネルの話で、もう『プチ盛り上り』しているようだ。


やがて、馬の世話が終わり、戻って来たリオネルとカミーユ。


全員集合して、改めて互いに挨拶をする。


「改めまして! アルエット村の村長クレマン・ルヴィエですじゃ!」


「同じく! 村長代理のエレーヌ・ルヴィエです! クレマンの娘です!」


うわ!

びっくり!


エレーヌさん、村長代理になったのかあ……

道理で、更に貫録かんろくがついたと思ったよ。


などとは、言えず曖昧に微笑むリオネル。


「改めまして! アンナ・ルヴィエで~す! クレマンの孫で、エレーヌの娘で~す!」


と、アンナも可愛く挨拶。


対して、


「改めまして! モーリス・バザンです。隣村キャナール村の副村長兼副司祭です。冒険者と商人もやっております」


『副管理官』だと、モーリスが告げなかったのは……

挨拶がやたら長くなるのと、堅苦しくなるのを避けたのであろう。


そんなモーリスの気配りを、リオネルも見習おうと思う。


ミリアンとカミーユも元気良く挨拶する。


「改めまして! ミリアン・バザンで~す! モーリス・バザンの娘で、カミーユの双子の姉で~す! 父とリオさん、弟と4人一緒に仕事をしてま~す!」


「改めまして! カミーユ・バザンでっす! ミリアン姉さんの双子の弟っす。以下同文っす!」


ここでミリアンが教育的指導。


「ちょっと、カミーユ、何よ、以下同文って! これから皆さんとお隣同士、長いお付き合いになるのに! そんないい加減な挨拶じゃ、あんたのファーストインプレッション最悪でしょ!」


「わああ! 姉さん、勘弁っすう!」


「わはははははは!!」

「あはははははは!!」


姉弟の、この掛け合いに全員が爆笑。


7人は更に打ち解けた。

話がどんどん盛り上がる。


「エレーヌさんが村長代理となっていて、驚いた」


と、リオネルが言うと、エレーヌは頬を紅くし、少し照れた。


そんなママを見て娘のアンナが、


「ママはどうしても! って、村のみんなに何度も何度もせがまれて、引き受けたんだよ! 村長代理を!」


と、就任の経緯を明かしてくれた。


しかし、やはりというか、話題はリオネルが中心である。


お互いのリオネルとの出会い。

やりとりが、いろいろと語られた。


まずエレーヌとアンナが、オークの襲撃から助けられた事を……

クレマンからは、

リオネルがアルエット村近郊の洞窟でオークの大群どもを掃討した事を聞き、

モーリス、ミリアンとカミーユは驚き、喜んだ。


一方、モーリスが、リオネルと出会った際、ゴブリン200体を単独で、

キャナール村でも、ゴブリン1,000体を単独で倒したと聞き、

エレーヌ、アンナ、クレマンは、やはりびっくり。


そして現在の状況も。


リオネルが、ワレバットの領主ローランド・コルドウェル伯爵に単独で謁見した事。


また英雄の迷宮を全員で、最下層まで探索し、リオネルがランクAに、

続いてモーリスもランクAになった。


……という話を聞き、クレマン達はまたも大いに驚いた。


さすがに、リオネルの数々の秘密は話せなかったが……


そんなこんなで、更に更に、話は盛り上がった。


請け負った、ワレバットの街周辺の『町村支援施策』の話も出た。


リオネルがフォルミーカ迷宮へ旅立ってからも……

キャナール村へ在住するモーリス達は『町村支援施策』を引き続き行うと聞き、

クレマン、エレーヌは、意義がある仕事だと称えた。

アルエット村にも、『町村支援施策』の評判が伝わっていたようである。


6人があまりにも熱く語るので……

リオネルは基本、相槌あいづち&聞き役。

たま~に補足するのみ。


まだまだ話し足りないという雰囲気で、クレマンが、


「皆さん! 今夜はぜひ! 我がアルエット村へ泊って行ってください。宿は、この家を使って構いません」


と、言えばエレーヌも、


「ええ、それに今夜は、村の中央広場で、リオネルさん帰郷お祝いのうたげを行います。皆さんは、全員参加してくださいね! リオネルさんが帰って来るから、村民全員で準備をしていたんですよ」


と微笑む。


そしてアンナも、


「リオにいちゃん! モーリスおじちゃん! ミリアンお姉ちゃん! カミーユにいちゃん! ねえ、今夜は食べて飲んで歌って踊ろ!」


と、満面の笑み。


こうなると、断るわけには行かず、

リオネル達は快く、宿泊と、もてなしを受け入れたのである。

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