第242話「夢が……更に大きく大きく、広がる」

『はいっ! 俺は希望を全て叶え、人生を全うしますっ!!』


アリスティドから、気合が満ちたエールを送られ、

リオネルの心は大いに奮い立った。


眼を閉じ、ひざまずき、祈るままのリオネルだが……

体内に濃厚な魔力が満ちて行くのが分かる。


『さあ! かつての我へ、アマイモン様が行ったのと同じく! リオネル! お前の心深くに眠った素質と才能を揺り動かそう! そして転移魔法の極意を刻むぞ!』


『はい! お願い致しますっ!』


応えた瞬間!

リオネルの心へ、とてつもなく不可思議な感覚が刻み込まれた。


レベルアップ、魔法やスキル習得の際に報せてくれる、

いつもの内なる声はしないし、ファンファーレも鳴らない。


だが、どうやら……転移魔法の極意習得は為されたらしい。


アリスティドの声が響く。

歓びの波動も伝わって来る。


『うむ! お前の持つ、チートスキル『エヴォリューシオ』の力も加わり、転移魔法伝授は上手くスムーズに行ったぞ!』


何と何と!

アリスティドは、チートスキル『エヴォリューシオ』の存在も認識していた。


心を見られた際、これまでのリオネルの経験、習得した魔法、スキルもほぼ、

アリスティドに見られたに違いない。


しかしアリスティドは邪悪な存在ではない。


アリスティドが放つ心の波動で、リオネルは確信する。


親しみを込め、リオネルを慈しみ、熱いエールを送り、

『転移魔法』という、とてつもない古代精霊魔法を授けてくれた。


それゆえ、リオネルは不満など全くない。


『はい!』


『転移魔法の発動に、詠唱は不要だ。心で距離、行き先を念じれば、瞬時に移動出来る! また熟練度やレベル等に比例するが、同行者を連れて行くのも、荷物の運搬も可能だ!』


『はい!』


『但し、未熟なうちは、時たまイレギュラーで上手く行かぬ場合もある! 今後は制御コントロールと移動距離延長の修行を限りなく続け、熟練度を大きく上げ、更なる上達を目指せ!』


『はいっ!』


『うむ! 我は結局、地界王アマイモン様にしか会えず、他の、失われた古代精霊魔法を習得する事は出来なかった……』


アリスティドは残念そうに言い、更に、


『リオネル、お前が憧れたのと同じく、我は、大空を自由に飛ぶ鳥にはなれなかったのだ』


『アリスティド様……』


『もしも大空を舞い飛ぶ、鳥のようになれたら! 我は転移魔法とともに大空を飛び、舞い、世界中を存分に回り、もっと数多の人々と出会う事が出来たやもしれぬ……そして新たな人生が開けたやもしれぬ』


自身の夢を切々と語るアリスティド。


『ええ、そうかもしれませんね』


リオネルが同意すると、アリスティドは言う。


『ああ! 残念ながら我は、「転移魔法」と同じく! 失われた古代精霊魔法――「飛翔魔法」の極意を知る、空気界王オリエンス様にお目見えする事は遂にかなわなかったからな』


『……空気界王オリエンス様、ですか』


『うむ! しかし、リオネルよ! 全属性魔法使用者オールラウンダーたる、お前ならば! いつの日にか、オリエンス様にお会い出来るやもしれぬ』


補足しよう。


空気界王オリエンス……

高貴なる4界王のひとりであり、東西南北、世界全てに吹き抜ける風のみなもとである。

オリエンスは、風の精霊シルフ達の支配者であり、

あらゆる天候を司る最上級精霊なのだ。


そして、オリエンスは属性上、極めて敏捷びんしょうにして、性格は明朗快活。

しかしその反面、気侭きままであり、奔放、そして残酷だともいう。


また、オリエンスの容姿は抜けるように肌が白く、

優美で透明感にあふれている美しい少女だと伝えられえている。


『いや! オリエンス様だけではない! お前ならば水界王アリトン様、火界王パイモン様とも邂逅し、絶対零度、灼熱の爆炎など、全ての属性魔法の最上位の究極魔法を習得出来るやもしれぬ!』


水界王アリトン……

高貴なる4界王のひとりであり、

あらゆる水の円滑な変遷を管理する存在であり、

水の精霊ウンディーネ達の支配者である。


またアリトンはとても誇り高く、容姿は、端麗な顔立ちをした、

色白で細身の、たおやかな妙齢の女性だと伝えられている。


火界王パイモン……

高貴なる4界王のひとりであり、西の方角を治める事から、西界王とも呼ばれ、

火と熱の円滑な伝達を管理する存在である。

また、火の精霊サラマンダー達の支配者でもある。


パイモンの性格は沈着冷静、当然ながら、誇り高い。


容姿は、豪奢ごうしゃな、

まるで王族が着るような凝った趣きの衣装に全身を包んだ、

長身瘦躯ちょうしんそうくの、若き優男やさおとこだと伝えられる。


高貴なる4界王と邂逅し、失われた古代精霊魔法のみでなく、

全ての属性魔法の最上位の究極魔法を習得し、極める。


そう考えただけで、リオネルの魂と身体は打ち震えて来る。


『アリスティド様、夢が……更に大きく大きく、広がりますね……』


壮大なアリスティドの言葉に感銘し、リオネルはしみじみと言った。

本当に、これから先の冒険が楽しみである。


アリスティドも同じ気持ちのようである。


『うむっ! リオネル! お前は高きこころざしを持ち、必ず高貴なる4界王様達と邂逅せい! そして! 失われた古代精霊魔法のみならず! 全ての属性魔法の最上位の究極魔法をも習得し、極めるのだっ!』


『は、はい! 俺、頑張りますっ!』


『うむ! 我が夢を託す、お前の行く末! しかと見守らせて貰おう!』


『ありがとうございます! 心強いです!』


リオネルがお礼を言うと、アリスティドは何かを思いついたようである。


『うむ! そうだ! お前に伝える事がある!』


と、大きな声で叫んだのである。

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