第243話「お前に転移魔法を授ける布石だ!」

リオネルがお礼を言うと、アリスティドは何かを思いついたようである。


『うむ! そうだ! お前に伝える事がある!』


と、大きな声で叫んだ。


『何でしょう? アリスティド様』


『うむ! 決めた! 我もお前とともにあろう!』


『決めた? 我も、お前とともにあるって……どのような意味でしょうか?』


リオネルが尋ねると、アリスティドはきっぱりと言い放つ。


『文字通りだ! ……お前は上位対象を呼べる、召喚魔法を習得しておる! その魔法で冥界の魔獣ケルベロスを忠実な従士として、ともに戦っておる』


『それは、そうですが……』


やはり、アリスティドはリオネルの事を熟知していた。


自分のレベルを遥かに超えた上位の召喚対象魔獣ケルベロスを呼び、

共闘している事も指摘して来たのだ。


アリスティドは更に言う。


『リオネルよ、我は今や亡霊だが……邪悪なる者ではない! 立ち位置としては、「英霊」と呼ばれる存在なのだ』


『英霊!?』


補足しよう。


英霊とは戦死者の霊を敬い、呼ぶ言葉である。


そして、この世界の英霊とは、

邪念を一切持たず、当該者を守り戦う、『強大な守護霊』の事を意味するのだ。


一説によれば……

聖人や英霊が昇華……つまり高次元のものへ移行すると、

ランクアップし、更に上の存在、『天の使徒』などにもなるという。


いにしえの時代には、

人間が、創世神の麾下である『天の使徒』になったという伝承もある。


アリスティドは、


『リオネル、お前の求めに応じ、ケルベロス同様に、我を異界より召喚すれば良い! 力や労を惜しまず、お前に加勢しよう!』


と、きっぱり言い切った。


『えええ!? アリスティド様を召喚するのですか!』


『うむ、召喚せい! ちなみに我はレベル88だが、呼べそうか?』


レベル88!?


さすがに古の英雄は、超ハイレベルだ。


アリスティドに問われ、リオネルは考え込む。


『うわ! レベル88って……いや、俺が習得した召喚魔法は50の補正がかかっていますから、相当上位の存在を呼ぶ事は出来ますが……』


『ふむ、そうか』


『はい、俺が現在レベル20ですから、呼べるのはレベル69の対象まで……だから、アリスティド様をお呼びするのは当分、無理そうです……まあ、諦めず、一生懸命頑張りますよ! 俺のモットーは、トライアルアンドエラーですから!』


しかしアリスティドは、落胆した様子があまりない。


『うむ! 分かった! リオネルよ! トライアルアンドエラーで頑張れ!』


『はい!』


『もしも呼べずとも! お前の心の内なる声とともに、気が向いたらアドバイスを送り、同じく加護を与えてやろうぞ!』


『おお! アドバイス、そして加護ですか、ありがとうございます! 嬉しいです! 少しでも早くアリスティド様を『英霊召喚』出来るよう、頑張ります!』


『うむ! リオネル! その意気や良しっ! 我を『英霊召喚』する事を忘れるな!  

お前とともに、難敵に立ち向かおう!』


『はい!』


『それと、リオネル!』


『はい!』


『お前が、高貴なる4界王様方と邂逅した際は我も呼べ!』 


『了解です! 確約は出来ませんが、最大限努力します!』


アリスティドは、しっかりと最上級精霊邂逅の際、『同席』を求めて来た。


『うむ! 良い返事だ! 我は気長に待つぞ! じっくりと地道に頑張れよ! ……さあ! そろそろ行くが良い! 仲間とともに地上へ送ってやろう! 転移魔法でな!』


ここでリオネルは「ハッ」とした。


アリスティドへストップをかける。


『……ええっと、地上へって……待ってください、アリスティド様。ありがたいお話で感謝致しますけど、出来れば地下5階層手前へ、転移魔法で送って頂けますか?』


『何? 出来れば地下5階層手前へ送って欲しいのか?』


『はい、仲間の荷物が5階層の宿へ置いてありますし、地上だと、いろいろ、ややこしくなりますから』


リオネルの懸念はもっともだ。


自分以外の仲間の荷物、ブレーズとゴーチェの荷物も5階にあるはずだ。


それに地上に出ると、迷宮の出入りをチェックする守衛、

地上の『ヘーロースの町』の衛兵も、

いきなり迷宮探索中のリオネル達が、地上へ現れたら、

ひどくいぶかしがるであろう。

特にブレーズとゴーチェは、VIPなのだから、目立つに違いない。


そう考えてリオネルが言うと、アリスティドは高笑いする。


『ははははははははは!! 相変わらずお前は気配りのやからだ! 良いだろう、この迷宮地下5階層の手前へ、送ってやろう』


『ありがとうございます!』


『うむ! 転移魔法は慣れないうち、転移時に少し気分を害する! だが、お前は先ほど我の転移魔法を経験済みだからな!』


『え!? アリスティド様の転移魔法を!? 俺が経験済み? って、……あ、ああっ!!』


最後に『とんでもない事』をアリスティドは、カミングアウトした。


あの謎めいた転移魔法の罠、テレポーターの宝箱は、

アリスティドの『いたずら』だったのだ。


『ははははは! 全てが計算通り! 仲間をかばった優しいお前を、地下9階層へ飛ばす事が出来た! お前に転移魔法を授ける布石だ!』


『はあ、了解です……』


がっくりと脱力したリオネルに対し、


『うむ、転移魔法発動の際は、そのようにリラックスせい! それと、我が啓示を与えた内容は、転移魔法の伝授も含め、全て厳秘だ! 啓示を受けた事ぐらいは認めても構わんが、問われたら、単に我から「後押しされた」とでも申しておけ!』


『分かりました』


『うむ! 最後に、我が言葉を贈るぞ! 力なき正義は悪。正義なき力もまた悪だ! お前が道に迷った時、改めて肝に銘じておけ! では! また会おう!』


最後に、アリスティドから別れの言葉が心に響いた瞬間。


リオネルの身体は「すううっ」と、軽くなったのである。

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