第238話「英雄との問答①」
英雄の迷宮、最下層地下10階層……
ソヴァール王国建国の開祖アリスティド・ソヴァールの記念碑前で、
ひたすら、建国開祖の冥福を祈る。
……当初は何も起こらなかった。
だが……
リオネルが、以前ローランドに告げた自分の夢と希望を、
アリスティドへ向け、心の中で語ると……
『ふむ! 実に変わっておる!』
と感嘆したように言い、
『面白い! ……お前の夢、我が後押ししてやろう! たぐいまれな『
謎めいた重々しく低い『声』は、はっきりと、リオネルの心に響いたのだ。
これは念話……魂と魂の会話だ、とリオネルは確信した。
そして、驚くべき事に、
リオネルが『
はっきりと把握していた。
更に更に!
もしも伝説の開祖アリスティド・ソヴァール様なら、
このような口の利き方はまずい!
と思いながらも、リオネルはつい、フレンドリーに尋ねてしまう。
「我が後押ししてやろう!」と、
リオネルへ『好意』を示してくれた……からかもしれない……
『へえ、変わっていますか、俺?』
リオネルが尋ねると、やはり『声』は怒る様子もなく、即座に答えを戻して来る。
『うむ! 相当変わっておるわい!』
『はあ、相当変わっていますか? ……まあ、自分でも変わっているとは思いますが、改めて言われると』
『改めて言われると……何だ?』
『自分は、もっともっと変人だと、しっかり自覚して、今後生きて行こうと思います』
リオネルが、素直に心のまま、決意を伝えると、
『もっともっと、変人だと!? ははははははははははははははははは!!!!!!』
と、高笑いが響いた。
そして高笑いは、しばし続き…………………………………………
頃合いと見たところで、リオネルは尋ねる。
『……………………ええっと、あの、そんなにおかしいですか、俺?』
『……………………うむ、最高だ!!! やはり最高に面白い奴だ!!! お前はな!!!』
『俺が? 最高に面白い……ですか? ありがとうございます。素直に
『ははははは! 誉め言葉か! そう受け取って構わん! 何故なら、死して1,000年、古代からの言い伝えも含め、我が知る
『俺のような奴ではない、と、おっしゃいますと?』
『うむ! 例えば……そうだな。……あのふたりを上げるか』
『あのふたり……ですか?』
『うむ! 思い出した! 名前は敢えて伏せるが……記録によれば、ふたりとも人間族であり……ひとりは魔法学者! 創世神様より授かった、たぐいまれな才能をとことん極めたい、それだけを追求し、独りで家へ閉じこもって過ごし、己自身のみ満足して、人生を終えたという』
『成る程……自分の限界に挑むのに徹底し、他の事には眼もくれなかったんですね』
『うむ! そうだ! そしてもうひとりはな、貴族だ! 同じく授かった、たぐいまれな才能を、金、権力、名誉など、己の欲望だけに使い、身内にねたまれ、憎悪された挙句、罠にはめられ、無残に殺されてしまったらしい』
『成る程。こちらも良く言えば、先ほどの方同様、自分の思うがままに生きた方ですね』
『うむ、その通りだ』
『成る程。
『まあ、お前とは違うだろうな』
ここで頃合いと見て、リオネルは名乗る事にした。
『ところで……俺は、貴方様がお創りになったソヴァール王国の国民で、リオネル・ロートレックと申します。本当はリオネル・ディドロという名前なのですが』
リオネルは本名を含め、素性を素直に名乗り、
『ここまでお話ししておいて、今更感が凄いですが、貴方様は、ソヴァール王国建国の開祖様、アリスティド・ソヴァール様でしょうか?』
改めて尋ねると、
『うむ!!! 我はアリスティド・ソヴァールである!!!』
と、謎めいた重々しく低い『声』は、はっきりと、大音声で応えたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
謎めいた声は、ソヴァール王国建国の開祖様、アリスティド・ソヴァール様だと、
はっきり名乗った。
同時に圧倒的なパワーに満ちた強烈な波動が、リオネルを包み込んだ。
この波動のパワーは、今までに対峙したどのような敵よりも、
桁違いで圧倒的であった。
ちなみに……
これまでに最大のパワーを感じたのは、味方でありながら、
冒険者ギルド総本部サブマスター、
『氷の
ブレーズが敵との戦いに身を投じた際、フルの本気でないのにもかかわらず、
感じた波動のパワーは、父ジスランのフルパワーを遥かにしのいでいたのだ。
しかしさすがに伝説の英雄……
亡霊でありながら、アリスティドの放つパワーは、
生者のブレーズを軽く超えていた。
リオネルは、わくわくして来る。
本気のブレーズの力、
そして彼の主、竜殺し――ドラゴンスレイヤー、ローランド・コルドウェル伯爵。
亡霊たる開祖アリスティド・ソヴァールが戦ったら、果たして誰が最強なのか?
そしてやっと『レベル20』となったひよっこの自分は、
この『3巨頭』に対しどこまで通用する、否、食い下がれるのだろうか?
興味は尽きない。
また、上級レベルの念話を習得。
サトリのスキルを得たリオネルには分かっていた。
リオネルへ呼びかけ、今、話しかけている波動は、正真正銘のソヴァール王国建国の開祖様、アリスティド・ソヴァール様だと。
相手の正体を確信したリオネルへ対し、アリスティドは言う。
『リオネル・ロートレックよ!』
『はい』
『先ほどの、お前の問いに答えてやろう』
『はい、ありがとうございます!』
アリスティドは、先ほどのリオネルの問いに答えようとしている。
「お前は変わっているぞ」と指摘した理由である。
『我の経験上、
『……………………』
『己の能力を極める事のみに徹した、ストイック過ぎる『
ストイック過ぎる『
求道者って、悟りや真理などを求めて修行をする人の事だ。
または、魔法、武技、スキルなど、技能を極めるもの全般についても使う……
創世神や天の使徒のような、『人間を超越した存在に近づきたい人』を目指す、
というニュアンスが強い。
また、修行僧のようにストイックに頑張っていたり、禁欲的にその道に励んでいる人も指すだろう。
ストイック過ぎるって、
絶対に甘えを認めないとか、妥協は全くしないで真理を求める者って事か?
他の価値観は全て認めない、とか?
うわ!
怖いなあ、それ。
『……………………』
と、リオネルは思うが、黙っていた。
アリスティドの話は更に続く。
『または、こちらの方が圧倒的に多いのだが……己の能力に溺れ、金、権力、名誉を求め、肥大した欲望の泥沼へ沈む『
こちらは分かりやすい。
言葉のままだ。
人間の欲望に染まり過ぎた者……重き罪を犯し、地獄に落ちるような者の事……
ここでリオネルは口を開く。
『……………………ストイック過ぎる『求道者』か、肥大した欲望の泥沼へ沈む……『下卑た野心家』ですか?』
『ああ、そうだ! あくまでも大まかな分け方だが……リオネルよ!』
『はい……』
『お前はな、その要素は、それぞれ持ちつつも、どちらにも当てはまらない! だからこそ、面白いのだ! ははははははははははははははははは!!!!!!』
アリスティドは再び、思い切り高笑いしたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます