第239話「英雄との問答②」

『お前はな、その要素はそれぞれ持ちつつも、どちらにも当てはまらない! だから面白いのだ! ははははははははははははははははは!!!!!!』


アリスティドは再び、思い切り高笑いした。


いにしえの英雄、ソヴァール王国建国の開祖、

血筋を考えれば王族の長、国王たるアリスティドの亡霊。


国王と国民……という身分を考えれば、

こんな時、「御意!」とか「はい!」と言う絶対服従は必須が常識。


更にリオネルは、アリスティドから、

「お前の夢を後押しする」と、ありがたき事も言われている。


だから、ここは素直に従うのが賢明。

下手をすれば、可愛さ余って憎さ100倍となる。


反論など、しない方がベストなのだが……


しかし、アリスティドの話に違和感を覚えたリオネル。

そのままスルー出来ず、「不可解です」という気持ちを戻してしまう。


『あのぉ……アリスティド様、お言葉ですが……俺は学ぶ事がとんでもなく大好きだし、いろいろな欲望にも、どっぷりまみれていると思いますが……』


『ほう、含みのある言い方だ。何か、我へ言いたい事がありそうだな……怒らぬから申してみよ』


『はい! では遠慮なく! ……頑張って仕事をしてガンガン稼ぎたいです! 俺はお金が欲しいですから! レベルアップやランクアップすれば嬉しいし、魔法やスキルを習得したら、満足感を覚えます』


『ふむふむ、まあ至極当然だな。我もかつてそうであった』


『ですか? そして素敵な女子に、もてたいし、いずれ生涯をかけて愛し、愛される「想い人」にも巡り合いたいです。これ、結構切実です。彼女ナッシング18年ですから』


『うむうむ、そんなに女子にもてたいか』


『はいっ! 凄くもてたいです! そして、いろいろな人と関わり、助け合い、支え合い、生涯をかけて名を残し、最後には満足して死にたい……いつもそう考えて旅をしています』


『ほう! そうなのか? いろいろな人と関わり、助け合い、支え合い、生涯をかけて名を残し、最後には満足して死にたい……か』


『はい! ですから、俺は強さ、女子、そして名誉を求めています』


『ふむふむ、分かりやすいな、リオネル、お前は』


『はい、俺、凄く単純なんで……』


『ふむ……』


『アリスティド様があげられた、おふたりの全属性魔法使用者オールラウンダーの方と、俺は生き方こそ違いますが……』


『うむ』


『そして、俺自身は全然ストイックではありませんが……本質的には『求道者ぐどうしゃ』であり、『下卑げびた野心家』でもある、そう思います』


対してアリスティドは、


『ははははははははははははははははは!!!!!!』


とまたも面白そうに笑い飛ばした。


『え? 可笑おかしいですか、アリスティド様』


『ああ、可笑しいわい、リオネル』


『そうですか……』


『ふむ、リオネルよ、確かにお前は、ストイックな求道者であり、下卑た野心家でもある』


アリスティドに言い切られ、リオネルは苦笑した。


『あ、やっぱりですか? 変人同様、しっかりと自覚しています』


『まあ、待て。我は、お前が、その要素はそれぞれ持ちつつあると、先に言ったはずだぞ』


『ああ、確かにそうですね……』


『だがお前が、先にかかげた目的、または今、申した事象は、ストイック過ぎるものでなく、肥大した欲望でもない。人間が本来持つ生存本能の一部だといえよう』


『え? 俺の目的は、生存本能の一部……ですか?』


『うむ! そもそも人間にはな!「生きる」「知る」「仲間になる」という基本的な欲求の本能がある! そして!「生きて行く為には、己自身を守らないといけない」という「自己保存の本能」も加わる!』


『な、成る程……』


『リオネル! お前はな、生存本能、自己保存の本能に従い、素直に自然に生きているだけだ。人間らしい理性を持ってな、しっかりと地に足をつけ生きておるのだ』


『人間らしい理性を俺が持って、しっかりと地に足をつけ、生きている……俺がですか?』


『うむ、そうだ。人間らしい理性とは、人間の真なる心と言い換えても良い……だが、極端なストイックさ、歯止めのきかない欲望は、人間の真なる心を失わせるのだ』


『人間の真なる心を……失わせる』


『うむ、極端なストイックさがあったとしても、我が先に告げた者のように、他者と一切交わらず、授かった全属性魔法使用者オールラウンダーの能力を極める事に徹し、一生を終えるのならば、まだましだ』


『ですね』


『だが……人間の力を遥かに超えた強大な力を有する全属性魔法使用者オールラウンダーが、他者と、かかわった場合、極端なストイックさ、歯止めのきかない欲望を持つのは、危険だ。彼らは目的を達成する為には自分の思想を求め強制し、手段を選ばないだろう。そして、どのような結果を招いても気にはしない』


『うわ、それ、外道そのもの、ですね』


『うむ! まさに外道だ! そして本人は勿論、その強大な力で周囲をも巻き込み、最後には、全てを破滅させてしまう……それが、『ストイック過ぎる求道者ぐどうしゃ』! もしくは、肥大した欲望の泥沼へ沈む『下卑げびた野心家』である! 彼らは堕ちた全属性魔法使用者オールラウンダーの末路なのだ!』


『堕ちた全属性魔法使用者オールラウンダーの末路……ですか。怖ろしいですね、それ……』


『うむ! 怖ろしい。だが、リオネル! お前の性格、これまでの行いから、身を持ち崩す事はないと、我は思う』


『は、はい!』


全属性魔法使用者オールラウンダーの能力はまだまだ奥が深い。天の使徒にも匹敵する力、すなわち創世神様の御業みわざに近い、凄まじき能力も習得出来る可能性がある! まさに底なしの能力だ!』


『は、はいっ!』


『リオネル・ロートレックよ! お前はこれからも修練を重ね、全属性魔法使用者オールラウンダーとして持てる能力を極めよ! 数多の魔法、数多のスキル、そして人間を超えた身体能力、卓越した武技で世界の人々を助けるが良い! お前の故国、我がソヴァール王国にこだわるな! 広き世界へ旅立つが良いぞ!』


『は、はい! 了解致しましたあ! アリスティド様のお言葉、心にしっかりと刻みます!』


『うむ! でも油断は大敵だぞ! しっかりと自戒し、彼らを反面教師とせよ! 絶対に、前車ぜんしゃてつを踏むな !』


反面教師とは、

手本とならない、絶対に真似をしてはいけない人物や物事を意味する。


また、前車の轍を踏む、とは、

前に行った車のわだちを、後の車が踏んで行く。

前の人と同じような失敗を、後の人が繰り返す事だ。


リオネルは、アリスティドの戒めを再び、心にしっかりと刻む。


『りょ、了解です!』


『うむ! 覚醒したお前は、心して認識せよ。全属性魔法使用者オールラウンダーとは、人々を救い支える世界の至宝であるとともに、人々を破滅させる、極めて危険な諸刃もろはつるぎなのだと!』


『はい!』


アリスティドの語る、

全属性魔法使用者オールラウンダーの素晴らしさと危うさを聞き……


リオネルは大きく頷いたのである。

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