第237話「ふむ! 実に変わっておる!」

先に地下9階層へ飛ばされた事もあり、

リオネルが勝手知ったるという雰囲気で、どんどん進んで行く。

その傍らをブレーズが周囲に気を配りながら進んで行く。


10階層への階段も確認済み、すぐに一行をいざなう事が出来た。


階段入口で、リオネルは大きく頷き、いよいよクライマックスとアピール。

全員で階段を下りてゆく。


ちなみに、魔獣ケルベロスとアスプは、時間差でこの階段付近へ待機して貰った。

誰か、他の冒険者が来れば、スルーして貰うよう指示をし、了解して貰う。


アスプは、地下10階層へは、破邪の魔法障壁効果の為、降りられない!

と意思を戻して来たが、

ケルベロスはこのようなちゃちな魔法障壁など、喰い破る!と余裕しゃくしゃく、意気盛んであった。


さてさて!

階段が終わり、全員が地下10階層フロアへ。


ブレーズが言った通りである。


これまでの英雄の迷宮とは全く違う光景が広がっていた。


そして真っ暗闇ではなかった。


地下5階層まであった、魔導灯が復活していたのだ。

魔導灯の淡い明かりがホール全体を照らしていた。


ここでモーリスが声を張り上げる。


「リオ君! ミリアン! カミーユ! 開祖様へ祈りをささげる前にまずは公式地図の確認を忘れるな! 依頼の遂行を、優先だ!」


心得たとばかりに、リオネルも声を張り上げる。


「了解です! まずはフロア全体の確認、仕掛けや罠の有無等々、リスク確認を行います! 皆さんは、俺とカミーユの背後についてください! ……という事で、カミーユ来いっ!」


「はいっす!」


リオネルの求めに応じ、カミーユが脱兎のごとく駆け寄った。


昨日のリオネル転移事件?で、カミーユは責任を感じたらしく、落ち込んでいた。


そこでリオネルは「あれは偶然の事故だ」と労わり慰め、今日カミーユを引き立て、

共にシーフ職の仕事をする事で、前向きになるよう取り計らったのである。


リオネルの傍らに立ったカミーユを始め、全員がリオネルに従った。


基本的にこのフロアに元々罠は存在しない。


しかし悪意を持つ何者かが、仕掛けた罠がある可能性はゼロではない。


実際、結果的に無事だったとはいえ、地下8階層に出現した謎めいた宝箱の罠、

テレポーターにより、リオネルは強敵がひしめく地下9階層へ、

たったひとりのぼっちで飛ばされてしまったからだ。


しかし、


転んでもただは起きぬ。


逆境に負けない 。


ピンチをチャンスに変える。


挫折にめげない。


ひと筋縄ではいかない等々。


全てがリオネルの為にあるような言葉である。


4大属性の魔法を全て試し、スキルを駆使。

数多の魔物を倒して、実戦訓練を行った。


加えて、ゴーレムの筐体きょうたいを仕入れ、

最後に隠形、忍び足のスキルをブレーズにまでテストするおまけまでついた。


さてさて!

ショックが癒え、元気になったカミーユとともに、

リオネルは丁寧に地下10階を探索し、リスク確認をする。


結果、危ない罠や仕掛けは皆無であった。

同時に、冒険者ギルド総本部公式地図の確認依頼も終了した。


後は、ワレバットへ戻り、総本部へ赴き、報告するだけだ。


否!

サブマスターのブレーズと副官のゴーチェが同行し、

この場で『完了』を目の当たりにしているのだ。


報告はするが、99%完遂したと言って過言ではない。


リオネル達4人が歓びに満ち、拳を突き上げるのを、

ブレーズとゴーチェは笑顔で見守っていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


地下10階層フロアの確認を終了。

公式地図の確認依頼も終了。


という事で、リオネル達は全員で、

ソヴァール王国建国の開祖アリスティド・ソヴァールの記念碑前に集まる。


柵に囲まれたミスリル製の巨大な記念碑は、周囲から淡く照らされる魔導灯の明かりで幻想的な趣きを漂わせていた。


念の為、補足しておこう。


約1,000年前、

ソヴァール王国建国の開祖アリスティド・ソヴァールが亡くなった直後……

残された遺児、つまり現ソヴァール王家の祖と、

円卓の騎士と謳われた忠実な配下達が改めて、かつて開祖が修行した迷宮を冒険。


全員が無事、最下層に到達すると、ミスリル製の記念碑を立てたのである。


その記念碑へ、アリスティドの普段のモットーであり、亡くなる間際に言い残した『遺言』を刻んだのである。


それは、

力なき正義は悪。

正義なき力もまた悪。


というシンプルな言葉であった。


地下10階層へ到達した冒険者達は、

ありし日のアリスティドへ想いをめぐらせ、

その石碑へ祈りをささげる事が慣例となっていた。


その歴史的な記念碑が、今、リオネル達の前にある!


リオネル達はゆっくりとひざまずき……


一心に祈り始めた。


約1,000年前、一番最初にアリスティドの冥福を祈ったのは、

残された遺児、つまり現ソヴァール王家の祖と、円卓の騎士と謳われた忠実な配下達であっただろう。


それから約1,000年過ぎ……

この記念碑前には、冒険者を始め、様々な人々が訪れ、祈りをささげた。


祈りをささげた数多の中で、ごくわずか限られた者たちが、

開祖アリスティドの啓示を受けたと伝えられる。


その啓示を受けた者が、その後どうなったのか、記録にはなく定かではない。


ただ、ひとつはっきりしている事実は……

ローランド・コルドウェル伯爵は、

『お前にはまだまだ生きてやるべき事があるぞ!』とアリスティドから啓示を受け、

全てにおいて前向きとなり、再起、復活したのである。


話を戻そう。


アリスティドの冥福さえ祈れば、後は何を祈ってもお願いしても自由だと言う。


それゆえリオネルは跪いたまま目を閉じると、

以前ローランドに告げた自分の夢と希望を、アリスティドへ向け、心の中で語る。


『アリスティド様! 申し上げます! 俺は広い世界を見たいです! 多くの人達と邂逅し、心の絆を結びたいです! いろいろな分野において、自分の限界を突破したいです! 自分が生きた確かなあかしをこの世界に残したいです! 人生を全うし、満足して眠るように死にたいです!』


リオネルは言い終わると、目を閉じたまま、軽く息を吐いた。


静寂が辺りを包んでおり、物音ひとつない。


……………………………何も起きない。


しかし、リオネルは満足であった。

満ち足りた充実感と開放感が心身を満たしていた。


その瞬間!


重々しく低い『声』が……驚いたように叫ぶ。


『ふむ! 実に変わっておる!』


更に謎めいた『声』は、


『面白い! ……お前の夢、我が後押ししてやろう! たぐいまれな『全属性魔法使用者オールラウンダー』よ!』


はっきりと、リオネルの心に響いたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る