第235話「聞こえたのはいつもの内なる声だ」

ブレーズの話が終わった。


各所に、興味深い話がたくさんあった。


全員が最も知りたいのは、

開祖アリスティド・ソヴァールの亡霊から、

ローランドが、どのような啓示を賜ったかという事だ。


しかし、ローランド本人が口をつぐんでいる以上、知りようがない。


ふるき時代に啓示を賜った他の者も同様という話だし、

語ったブレーズも含め、誰もが『推測をする』しかない。


ただ……

ひとり息子を亡くし、失意のうちに沈んでいたローランドにとって、

アリスティドの与えた啓示は人生の転機となったのは確かだ。


結局、質問は地下10階層の構造確認をメインに、到達までの道筋、

6階から9階層まで出現する魔物に対する戦法の再確認となった。


魔物との戦い方は、基本変更なし。


魔獣ケルベロス、同アスプ6体を先行。

前衛はリオネル、ブレーズ、中段はミリアン、カミーユ、モーリス。

最後方はゴーチェと、

フォーメーションは、地下8階層と同じ並びで行く事となったのである。


気になる地下10階層の構造も地下1階層から9階層までと全く違っていた。


モーリスは地下10階層へ行くのは初めて、

ゴーチェは主に任せる。


という事で、説明するのはブレーズ、聞き役と確認役はリオネルである。


「ははは、地下10階層の構造といっても、とってもシンプルです。何せ、ワンフロアですからね」


「ワンフロア……ですか?」


「ええ、そうです。9階層までのフロアと同面積のだだっぴろいホールが広がっています」


「な、成る程」


「安心してください。終点・地下10階層に敵は出現しません。記念碑を建てた円卓の騎士達が、聖なる魔法障壁を10階層全域へ仕込み、邪悪な魔物の侵入を阻んでいます」


「聖なる魔法障壁を10階層全域へ……そうなんですか」


リオネルは、モーリスの発動から、スキルにより魔法障壁を習得していた。

というか、魔法学校で習った以外の魔法はスキルによるものが多い。

まさにチートといえるだろう。


しかし、習得した魔法を修行と実戦経験で磨き、ビルドアップする。

リオネルはそうして強くなって来たのだ。


と、ここでブレーズが「ぽん!」と手を叩く。


「はい、……ああ、そうだ! ひとつ思い出しました」


ブレーズは何を思い出したというのだろう。


リオネル始め、全員が身を乗り出した。


「最近、とある貴族家で発見された古文書の記載です。『開祖様は精霊の力を欲し、失われた魔法を追い求め、発見。英雄の迷宮最下層へその力を封印した』とあったそうです」


精霊の力……

失われた魔法……

英雄の迷宮へその力を封印した……


「しかし、開祖様が封印したという、その力は誰も見つけてはおりません。開祖様の啓示を受けられたローランド様を始め、これまで啓示を受けた方が失われた魔法を得た……という記録は一切ないのです」


苦笑したブレーズは、ゆっくりと首を横へ振った。


「まあ、英雄の迷宮を探索した誰かが、単なる願望を記しただけかもしれません。参考記録程度に考えておけば宜しいでしょう」


最後にブレーズから、謎めいた古文書の記載を聞き、

食事会はお開き……となったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


食事会終了後……

一行はリオネル達、ブレーズ、ゴーチェと二手へ別れ、それぞれの宿へ戻った。


宿へ戻ったリオネル達は、各自が装備品、所持品を確認。


リオネルはへこんだ盾、少し切れ味が鈍ったスクラマサクスを新品と替え、

魔法杖の数種に様々な魔力を込めた。


モーリス、ミリアンとカミーユの魔法杖にも、魔法を込めてやった。


最後に兜につける携帯魔導灯の点灯確認を終え、準備は完了。


明日も早朝の出発である。


全員がベッドへ潜り込む。


今日のようなイレギュラーなアクシデントが無ければ、

いよいよ明日は最下層地下10階層へ到達する。


そう思うと興奮して、誰もがすぐに眠れなかった。

無理もない。


地下1階層から出発し、ここまで来たのだ。


そしてこの英雄の迷宮探索が終了したら……

リオネルはあまり間を置かず、隣国アクィラ王国の迷宮都市フォルミーカへ旅立つ。


そして、モーリス、ミリアン、カミーユは、

キャナール村へ移住し、新生活を始める……


いわば、明日の地下10階層への到達が大きなターニングポイントとなる。


なかなか寝つかれない4人も、今日の探索はリオネルの失踪事件もあり、

疲れがあったのだろう。


いつの間にか、眠りに落ちた……


薄れゆく意識の中……リオネルの心に、内なる声が聞こえて来る……


リオネル・ロートレックよ、汝は、明日、地の底で大きな力を得るだろう……


しかし、聞こえたのはいつもの内なる声だ。


ローランド様のように、開祖様が夢枕に立ったんじゃない……


明日は開祖様の啓示は……ないだろうなあ……


苦笑したリオネルはゆっくりと眠りへ、落ちて行った。

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