第226話「たぐいまれなリオネル君の能力を信じるしかない」

宝箱のふたが「ばん!」と勢いよく開くと同時に、


カミーユをかばったリオネルの姿は、煙のように消え失せていた。


呆然とするカミーユは、慌てて周囲を見回した。


しかし、リオネルは影も形も、痕跡こんせきさえもない……


完全に脱力したカミーユは、その場に、がっくりとひざをついた。


「リ、リ、リオさあんっ!? ど、ど、ど、どうしてっ!? な、な、な、何が起こったっすかあ!!??」


自分をかばったリオネルが消えた!?


言葉が……上手く出て来ない。


大きなショックを受け、カミーユは頭を抱え、絶叫する。


「うおわああああああっっっ!!!???」


大混乱するカミーユ。


「こら! 落ち着け、カミーユ」


ここで「さっ」と動いたのがモーリスである。


混乱するカミーユへ、素早く『鎮静』の魔法をかけた。


片や、リオネルが消えたのを目の当たりにし、一旦は驚いたものの……

すぐに冷静となったブレーズが、起きた現象を想定する。


「ふむ、これは……多分、この世界では失われた転移魔法……特異なテレポーターの罠ですね」


特異なテレポーターの罠!?

全員が一斉にブレーズに注目した。


「リオネル君は、罠に仕掛けられた転移魔法で、どこかへ飛ばされてしまった、跳んだとも言いますが……間違いありませんね」


「………………」


どこかへ飛ばされてしまった……

リオネルが……


淡々と語るブレーズ以外、皆、無言だ。


ブレーズは更に、話を続ける。


「ふむ……それも、カミーユ君が宝箱に触らないのに作動したとは……無差別な効果を狙ったとんでもなく悪意のあるものか、何か、意図的なもののどちらかです」


ここで、ミリアンが叫ぶ。


「ブレーズ様! それで! リオさんは! リオさんはどこへ行ったの!?」


悲痛なミリアンの叫び。


対して、ブレーズは顔をしかめ、首を横へ振る。


「ふむ、ミリアン君。冷たい言い方で申し訳ないのすが……この罠を仕掛けた術者じゃないと残念ながら、分かりません」


「わ、分からないって、そんな!」


「リオネル君が、どこへ強制転移されたのか、私達には全く不明なのです」


「全く不明って、ブレーズ様!」


「最悪の場合……もしも運が悪ければ、迷宮の石壁の中へ放り込まれてしまったか」


「さ、最悪の場合!? め、迷宮の!? い、石壁の中って!! それじゃあ、すぐ死んじゃうじゃないですかあ!」


「ミリアン君、少し落ち着きなさい……ここで私達が騒いでも慌てても、事態は好転しないのです」


全く動じず、堂々として冷静沈着なブレーズ。


「ブレーズ様……」


か細い声で応えるミリアンに対し、ブレーズは柔らかく微笑む。


「ひとつだけ、リオネル君と落ち合う方法があります」


「え? リオさんと落ち合う方法……ですか?」


「はい、可能性はあまり高いとは言えませんが……たぐいまれなリオネル君の能力を信じるしかない」


ブレーズの言葉を聞いたミリアンは、カッと目を見開いた。

そして数回、大きく深呼吸をした。


「ブレーズ様……私、大丈夫です。その方法、リオさんと落ち合う方法をおっしゃってください」


「……分かりました。我々全員で最下層地下10階層を目指しましょう。リオネル君が無事ならば、彼も地下10階層を目指すはずですからね」


ブレーズの言う事はもっともである。

今回の冒険者ギルド総本部発行、公式地図の確認依頼、

英雄の迷宮、最終目的地は、最下層地下10階層なのだから。


ミリアンも納得。

ぽんと、手を叩く。


「な、成る程! 確かに! リオさんも無事ならば、絶対に地下10階層を目指します! 地下10階層で落ち合えますねっ!」


「ふむ、あるいは……」


「あるいは?」


まだ、何か『朗報』があるのだろうか?


ミリアンは、真剣な表情で身を乗り出した。


ブレーズは苦笑し、「まあまあ」と言いながら、


「ミリアン君、リオネル君は魔力感知を行使した索敵能力に長けています。彼がシーフ職として、接近する敵の捕捉を完璧にこなしてくれたから、私達は事前にしっかり対策を立て、戦う事が出来ました……」


「そ、そうです! そ、その通りです! ブレーズ様!」


とミリアンは、当然肯定。


ブレーズは、次にモーリスへ向き直る。


「モーリス殿も、そう思いますね?」


対して、モーリスは大きく頷く。


「はい、ブレーズ様のおっしゃる通り、リオネル君は敵を捕捉するのがあれほど容易ならば、我々の現在位置の把握も、たやすいでしょう」


「はい、お見事、正解です。リオネル君が迷宮内で無事ならば、探索を継続し、私達の下へ、ひょっこり戻って来る可能性もありますよ」


ここでゴーチェも「はい!」と挙手。


「ブレーズ様、自分は絶対このまま戻ったりしませんよ」


「ほう!」


「リオネル君には、ブレーズ様と自分を連れ帰るオプション依頼を受けて貰いましたからね! 必ず一緒にワレバットへ帰還します!」


忠実な副官の言葉を聞き、ブレーズは大きく頷き、


「当然です! では、メンバーのフォーメーションを組みなおしますよ。モーリス殿、宜しいですね?」


「は、はい! ブレーズ様のご指示に従います」


モーリスの了解を得たブレーズは、


自分、ゴーチェ、ミリアンとカミーユ、モーリスと順番を組み替えた。


「よし! では行きましょう! 出発です! 我らに建国の英雄、ソヴァール王国の開祖、アリスティド・ソヴァール様のご加護あれ!」


テレポーターの罠で、リオネルを欠いてしまった一行ではあったが……

地下10階層における再会を祈願し、改めて出発したのである。

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