第225話「罠だ!!」

おもむろに手を挙げたリオネルは、

破邪聖煌拳はじゃせいこうけん奥義、破魂拳はこんけんに、

スキル『貫通撃!!』の魔力を込め、思い切り放った。


ぼしゅっ!


スキル『威圧』により、『戦闘不能』となっていたマミーが、

あっさりと消し飛んだ。


……消し飛んだマミーが倒れ、地に伏していた辺りは……何の痕跡もない。

完全に、『無』となっていた。


よし!

手ごたえあり!


通常でも不死者に絶大な効果のある破魂拳はこんけんの数倍、

いやそれ以上の威力だぞ!


そして、威圧、フリーズハイのスキルも充分に有効だ。


納得し、頷いたリオネルは更に、


ぼしゅっ!

ぼしゅっ!


と、フリーズハイ、威圧で倒れていた2体も続いて、撃破。

計3体のマミーを倒した。

この間、約30秒。


……残るは2体。


「ふう……」


軽く息を吐いたリオネル。

指示通り、後方に控えたミリアンとカミーユ。

ふたりへ向き直る。


「ミリアン!」


「はい! リオさん!」


「カミーユ!」


「はいっす! リオさん!」


「……ふたりとも、待たせたな」


リオネルの顔つきはひどく真剣であった。


「………………」

「………………」


戦闘開始から、リオネルが、マミー3体を倒したのは、たった30秒。


「待ったうちに入らないっす」と、

いつもなら、軽口を叩くカミーユも、リオネルの気迫に押され、

まじめな表情で、姉ミリアンとともに無言であった。


「……奴らは俺のスキルでしばらく動けず、攻撃も防御も出来ない」


「………………」

「………………」


「当然、『束縛の呪い』も行使不可能、お前達は、破魂拳はこんけんでも、物理攻撃でも、魔法でもやりたい放題だ」


「………………」

「………………」


「ふたりで、各自1体ずつ、思う存分、フルボッコしてみるんだ。魔法の誤爆だけは避けろよ」


「………………」

「………………」


「よし! 行け! GO!」


「はいっ!」

「はいっす!」


リオネルの号令に応じ、ミリアンとカミーユは、マミーどもへ突撃した。


ミリアンは、カミーユに一瞬待つように言い、

マミーに対し、課題として考えたらしい水属性の攻撃魔法を試したが、

効果は今ひとつ。


すぐ切り替えて、解除の合図を出し、突撃。

蹴りを数発打ち、与えるダメージを確かめたた上、

破魂拳はこんけんを放ち、マミーにとどめを刺した。


一方のカミーユ。


姉が水属性魔法を放つのを待ってから、蹴りを連発。

20発以上打つと、これまた必殺の破魂拳はこんけんを放ち、

マミーにとどめを刺したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


現世に未練を持つ不死者アンデッドには、地縛霊となる残滓が残らないよう、

破邪魔法をかけておく……というのが、モーリスの持論である。


マミーとの戦いが終わり、笑顔でリオネル達に近づいて来たモーリス。

リオネル達をねぎらう。


「皆、お疲れ様。多分、大丈夫とは思うが、呪いを消す魔法、解呪ディスペルを、ミリアンとカミーユに施しておこう。その後、葬送魔法で、この場を浄化しよう。それで、終了だな」


対して、晴れやかな表情で応える3人。


「モーリスさん、ありがとうございます! ではミリアンとカミーユへ解呪を。それと、念の為、俺にも解呪……お願いします」


「ああ、お安い御用だ」


対して、モーリスは快諾。


これまた笑顔で近づいて来たブレーズとゴーチェも見守る中、

モーリスが解呪の言霊ことだまの詠唱を開始する。


「ビナー、ゲブラー、……災厄や不幸をもたらせし、底知れぬ悪意よ、偉大なる創世神様の御名みなにおいて、消え失せよ!」


体内魔力を高めたモーリスが、言霊を詠唱。


軽く息を吐き、『決め』の言霊を発する。


解呪ディスペル!」


まずはミリアン、カミーユ。

そして、リオネルにも行使される。


その瞬間。


チャララララ、パッパー!!!


いつものように……

リオネルの心の中で、あの独特のランクアップファンファーレが鳴り響き、

『内なる声』が淡々と告げて来た。


リオネル・ロートレックは、チートスキル『エヴォリューシオ』の効果と、

習得した破邪聖煌拳はじゃせいこうけん奥義『破魂拳』、

『貫通撃!!』との『派生』により……

破邪魔法奥義『破魂貫通撃!!』を習得しました。


チートスキル『見よう見まね』の効果により、

回復魔法『解呪ディスペル』を30%習得しました。


内なる声を聞きながら、立ち尽くすリオネル。


軽く息を吐く。


そんなリオネルに、モーリスが、


「では、リオ君。浄化をするから、手伝ってくれないか。あ、ミリアンも浄化の訓練をやろう」


「……了解です」


「分かった、師匠!」


リオネルとミリアンはモーリスとともに葬送魔法『昇天』を行使。

現場に邪悪な残滓がないよう清めて行く。


ブレーズとゴーチェも、解呪魔法に引き続き、

浄化の様子を見守り、何やら話していた。


ただひとり、手持ち無沙汰になったカミーユ。

片隅をふと見ると……今まではなかったのに、

いつの間にか、豪奢な宝箱が出現していた。


「おお! やったあっす! マミーどもを倒したから、宝箱が現れたっすかね。どんなお宝が入っているのかすっげえ楽しみっす! 早速、中身をゲットするっす!」


カミーユは、宝箱の罠を解除し、鍵を開錠するシーフである。


自然に宝箱へ近づいて行くが……


浄化を行っているリオネルの心に、がん!と嫌な予感が走る!


嫌な予感は、カミーユが近づく、宝箱から感じられていた。


リオネルは思わず叫ぶ。


「カミーユ! 駄目だ! その宝箱へ近づくなあ!!」


「へ?」


ただごとではない、リオネルの絶叫。


驚いたカミーユは、慌てて歩みを止めたが、既に宝箱の近くまで接近していた。


リオネルは身をひるがえし、全速で猛ダッシュ!


あっという間に、カミーユと宝箱の間へ割って入った。


と同時に、


ばん!


と、いきなり!

宝箱のふたが思い切り開いた。


誰も手を触れていないのに!


「罠だ!!」


ブレーズも絶叫。


何と何と!


宝箱のふたが開くと同時に、


カミーユをかばったリオネルの姿は、煙のように消え失せていたのである。

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