第222話「リオネルVSガーゴイル」

リオネルは、


「敵襲です! 相手はレベル40のガーゴイル10体。距離は約500m!」


と、全員へお約束の警報を発した。


するとブレーズは、


「ほう、ガーゴイルですか、成る程。では、今度はリオネル君のお手並みを

拝見しましょうか」


そう、笑顔で告げて来た。


試されているな?

とリオネルは苦笑した。


そして、


ブレーズ様が見せた奥義は「『撒き餌』でもある」と確信した。

自分の魔法やスキルを引き出す為のエサなのだと。


ならば!

敢えて、そのエサに喰らいつき、誘いに乗ってやろう。


但し、釣り針についた、美味いエサだけ頂戴してやるか?

もし失敗しても、デメリットはない。


人生、トライアルアンドエラーだろ。

但し、安全を確保してからな!


苦笑から、ブレーズなみの『ニヒルな笑い』に変わったリオネル。


ぱぱぱぱぱぱぱ!と考えをめぐらした。


相手が、ガーゴイルならば作戦の大筋は決まった!


さすがに『居合』は真似出来ない。

習得するにしても、誰か名のある師につき、厳しい鍛錬が必要だろう。

謎めいた精霊の剣も、自分にはまだ行使が不可能だと思われる。


で、あれば『水斬剣』を試すのみ。

いや、現状では『風属性』しかオープンに出来ない。

だから、『我流の風斬剣』と言うべきか。


よっし!

来いっ!!


「分かりました、ブレーズ様。ガーゴイルとは俺が戦います」


と返事を戻し、右手を挙げた。

リオネルが戦う!という合図である。


更に、リオネルは声を張り上げる。


「今回は俺が出ます。ガーゴイルどもの、万が一の特殊攻撃に備え、充分な注意を! 全員、戦闘態勢でスタンバってください!」


ブレーズは「ふっ」と満足そうに笑うと、身構え、

モーリスは様子見だとミリアンとカミーユを手で制し、

最後方のゴーチェも面白そうに笑い、拳を握りしめた。


各自の心の波動が伝わり、全員が戦闘態勢に入ったのを知ると、

リオネルも体内魔力を上げ、身構える。


やがて、ガーゴイル10体が現れた。

悪魔型の造形のガーゴイルだ。


補足しよう。


ガーゴイルとは、元々、建築物に魔除けを兼ねた雨どいとして造られた彫像である。


その彫像が活動するものがリビングスタチューとも呼ばれ、

魔法や憑依により、疑似生命体化したものである。


リビングスタチュー、ガーゴイルは膂力が強いのは勿論の事、

造形された対象の能力を持つ事も多い。

例えば、造形がドラゴン、グリフォンならば、そこそこの速度で飛行し、爪と牙で襲って来るという。

また、目の前に現れた悪魔型ならば、低位の魔法を行使する場合もあるのだ。


素材が岩石や金属などで造形されている為、通常の剣ではダメージが与えにくい。

ガーゴイルは、ゴーレム同様、痛覚が無い。

なので、痛みを感じて臆する事がない。

冒険者にとっては、強敵の部類に入る。


ケルベロスは、この迷宮のガーゴイルは、人外等の憑依ではなく、

ゴーレムと同じ原理で動くと言った。


で、あれば、奴らの攻略はシンプルだ。

そして、いろいろ試してやる!


リオネルは、不敵な笑みを浮かべたまま、

魔法剣発動に向け、新たに購入した強化ミスリル製、

スクラマサクスを抜き放ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


リオネルは剣メインで、戦う事は少ない。

属性魔法、スキル、そして格闘術、盾を使ったシールドバッシュも織り交ぜるからだ。


しかし今後は、魔法剣士が良く使う、刀身に属性魔法を宿らせ、戦う事を見込み、

ワレバットの武器防具屋で、予備を含め、

数種の強化ミスリル製スクラマサクスを購入していた。


希少なオリハルコンと並び、魔力伝導率の高いミスリル。

それを更に強化したミスリル製、少し刀身が長めのスクラマサクスだ。


ブレーズが、感嘆する。


「ほう、リオネル君の体内魔力の、凄まじい高まりを感じますね……魔法剣を使うつもりですか……」


「………………」


リオネルは敢えて答えない。

ただただ自分の技能を試すだけに集中していた。


疑似生命体、岩石製のリビングスタチューであるガーゴイルに通じるか、

そして己の能力を見極める為に。


リオネルが剣を振りかざす。

公式発表済み?『表向き』の属性である風の力を宿らせて行く。


いくら強化ミスリルの剣でも、屋外で風雨にさらされる事を前提に造形された、岩石製で頑丈なガーゴイルへ、物理的ダメージは与えにくい。

加えて、属性魔法も効果を及ぼしにくい傾向が、ガーゴイルにはある。


リオネルの『能力テスト用』としては、『最適ともいえる相手』なのだ。


また、ガーゴイルは疑似生命体なのだが、

放つ波動から『行動の意思』は読み取れる。


ガーゴイルの波動が、リオネルへ伝わる。


悪魔型の奴らは、低位の魔法を使おうとしているのが分かる。


岩で造形されている癖に、ガーゴイルの奴ら、備わった悪魔の能力を行使するつもり……

そうか!

水属性……冥界に吹きすさぶ氷結の魔法を、使う気なのか。


だが、てめえらはしょせん悪魔に似せて造られた彫像、発動までには数分かかる。

それにモノホンの悪魔の使う魔法に比べれば、全然低レベルだぜ!


そして、『どこぞの正義の味方』のように、

敵の攻撃をじ~っと待ってから、おもむろに反撃する趣味はリオネルにはない。


地下7階層で行った、敢えて毒と石化の攻撃を受ける破邪霊鎧のテストは、

超レアケースなのだ。


よし、先手必勝。

てめえらの攻撃なんか待たない!

こちらから、一気に行く!


リオネルの心の目には、

ガーゴイルの頭部に魔法文字で刻まれた、

真理エメットの文字がはっきりと見えた。


ケルベロスの言った通り、あのガーゴイルに限っては、ゴーレムと同じ論理で活動している。

ならば!

あの文字を『破壊』すれば良い!


リオネルはスクラマサクスの刀身に風の強大な魔力を宿らせる。


同時に、特異スキル『フリーズハイ』補正プラス40を発動。

魔法発動を試みるガーゴイルの動きを完全に止めた。


動きが止まった『ガーゴイル』なら、百発百中!


そして著しく高圧化した風弾を、スクラマサクスの刀身から超が付く高速で放つ。


高速風弾には更に!

必殺の魔力弾『貫通撃!!』も込めてぇ!!


どごおっ! どごおっ! どごおっ! どごおっ! どごおっ!


5体のガーゴイルの額が、貫通撃に後押しされた風の塊であっさりとぶち抜かれ、

刻まれた魔法文字も吹き飛んだ!


魔法文字が破壊されたガーゴイル5体は、単なる石像と化した。


これはブレーズが、使った高圧の水流でゴーレムを撃ち抜いた技を、

風弾に置き換え、更に『貫通撃!!』を込め、

リオネルがバージョンアップしたものである。


と、同時にリオネルは、だん!と迷宮の床を蹴り、疾走していた。


今度はスクラマサクスの刀身に『貫通撃!!』の風を宿して。


はああっ!!


気合一閃!!


しゅばっ! しゅばっ! しゅばっ! しゅばっ! しゅばっ! 


リオネルが繰り出した硬化した風の刃は、

東方の伝説の魔物『かまいたち』の如く、

残った5体のガーゴイルの頭部、『真理エメット』の魔法文字へ、

次々に叩き込まれていたのである。

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