第220話「こういう事か……勉強になった」

リオネルが葬送魔法『鎮魂歌レクイエム』を行使し、オーガの死体を処理すると、ブレーズは感嘆し、小さく拍手をした。


「リオネル君、ゴーチェから随時、報告は受けていましたが、やはり鮮やかな手並みですね。この鎮魂歌レクイエム以外に、葬送魔法は聖印、昇天も行使可能……ですよね?」


「はい、ブレーズ様のおっしゃる通り、行使可能です」


「成る程、回復魔法も行使すると報告を受けていますが……行使可能ですか?」


「はい、ひと通りは、こなせます」


「ははは、ひと通りは、こなせます、ですか? リオネル君は本当に凄いですね! 攻防の武技、魔法に長けていて、単に強い、というだけではないですよ」


「は、はあ……」


「破邪魔法の破邪霊鎧はじゃれいがいといい、葬送魔法、回復魔法といい、リオネル君は賢者の素質を見せています。将来が本当に楽しみです」


「俺が賢者なんて……過分にお褒め頂き、ありがとうございます……頑張ります」


「ええ、頑張ってください。……では、行きましょう」


「はいっ! ブレーズ様」


という会話をリオネルとブレーズは交わし、勢いづいた一行は地下8階層を進む。


当然、公式地図の記載と丁寧に付け合わせをして、

各所の確認をしながら……である。


しばし経ち、また『敵の反応』があった。

当然、初見の相手であり、魔獣ケルベロスの報告が入る。


あるじ、先ほどのオーガどもは、やはり『押しかけクールダンディ』が倒したな』


念の為、ケルベロスがいう『押しかけクールダンディ』とはブレーズの事。

離れていても、波動で全て把握しているらしい。


『あ、ああ、そうだな』


『ふむ、我には放つ波動で分かる。主の破邪霊鎧はじゃれいがいを見て、奴は相当、上機嫌だぞ』


『そうみたいだな』


『うむ、奥義を交互に見せるとか、下手に張り合う必要はない。したでに出て、『押しかけクールダンディ』にどんどん奥義を披露させてやれ。奴の奥義を見る事も主が成長するかてとなるはずだ』


ブレーズが上機嫌だから、おだてて更に奥義を使わせる?


……「それは、ちょっとずるいのでは?」と、リオネルは考えた。

しかし、ケルベロスからせっかくのアドバイス。

一応、同意はする。


『りょ、了解』


そんなリオネルの気持ちを、ケルベロスは読み取ったようである。


『うむ、主は純粋な人間だと思うが、それだけで世の中は渡っては行けぬぞ』


『そうかあ……俺、単純だしなあ……』


『まあ、悪党の如く、裏ばかり読むように、ずるがしこくなる必要はない』


『うん、俺、相手から、こずるい悪党だと思われるのは嫌だな』


『うむ、主は相手の機微きびを読む事はそこそこ長けているようだから、更にもう少し……自然に相手を活かす事を考えれば良い。変にへりくだるのではなくな』


『自然に相手を活かす……変にへりくだるのではなくか、成る程』


『要はだな。相手が自ら、自然に気持ち良く行動するようにと、心がけるのだ』


『な、成る程。相手が自ら、自然に気持ち良く行動するようにと、心がけるか』


『ああ、先に勧めた話術の上達とともに、そちらも地道に磨くが良い……という事で、新たな敵だ』


『ケル、ありがとう、また頼むよ』


『ふむ、主と話しているうちに縮まったから、距離は400mだ。岩石タイプのゴーレムが3体、レベルは40。奴らのスペックは理解しているな?』


『岩石タイプのゴーレムか、……ああ、大丈夫だ』


『うむ、再び忠告しておくが……敵襲をしらせた上で、主は、変に逆らわず、したでに出れば良い。……では、またな』


『了解』


頷いたリオネルは、


「敵襲です! ……距離は約400m、相手は岩石タイプのゴーレムが3体、レベルは40、全員、戦闘態勢に入ってください!」


と、全員へ敵の出現を報せたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


リオネルの敵襲報告を聞き、ブレーズが不敵に笑う。


「ほう、岩石ゴーレムですか? リオネル君はゴーレムと戦った事がありますか?」


「いえ、まだゴーレムとは戦った事がありません。どう戦おうか、迷っています……考え中です」


ケルベロスの忠告通り、リオネルはしたでに出た。

一応、戦いのシミュレーションは作ってある。

だが、敢えて模索中だと告げた。


すると、ケルベロスの読み通り、ブレーズはにっこり笑い、


「ふむ、リオネル君はゴーレム戦は、どうするのか、考え中ですか。……ではもう少し、私の奥義を見せましょう」


「本当ですか?」


「うむ、まあ見ていてください」


「ありがとうございます、ブレーズ様、宜しくお願い致します」


こういう事か……

勉強になった。


納得したリオネルは、左手を挙げて大きく振った。

先述したが、これはブレーズが戦うという合図である。


またも同時に、モーリスがミリアンとカミーユを前に押し出した。


全員が身構え、戦闘態勢へ入った。

魔法を使う者は皆、体内魔力を上げて行く……


やがて……岩石ゴーレムが3体、現れた!


ここで、この世界のゴーレムについて補足しよう。


ゴーレムとは、無機質な物体に術者が魔力で刻んだ特別な文字、

真理エメット』により動く、疑似生命体である。

または、低位の精霊、魂の残滓、亡霊のようなものが自然に宿り、

ゴーレムになるという説を唱える学者も居る。


特別なケースを除けば、ゴーレムは基本、膂力りょりょくのみで、魔法は使わない。


強さは千差万別だが、一番脆弱なゴーレムは土くれで生成されたモノだ。

レベル40の岩石タイプゴーレムは、上位ランカーからしたら、そこそこの敵という位置づけ。


素材が金属や鉱石になる程、防御力が増し、中にはダイヤモンド、ミスリルなど高価な鉱石、金属で生成されたゴーレムも存在する。

そのようなゴーレムを狙い、わざわざ倒す冒険者も居るようだ。


さてさて、話を戻そう。


『押しかけクールダンディ』こと魔法剣士ブレーズ・シャリエは、

岩石タイプのゴーレムと、どのように戦うのだろう。


全員が注目する中、ブレーズは抜刀術の『居合』ではなく、

「すらっ!」と、最初から愛用の剣を抜き放ったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る