第218話「俺はまだ道半ば」

翌朝7時……


リオネル達4人、ブレーズ、ゴーチェ主従は地下6階層への出入り口前で待ち合わせして合流。

総勢6人で探索へ出発した。


リオネルはいつもの手順を実行。

照明魔法で魔導光球を呼び出して、周囲を照らすと、召喚魔法でまず魔獣ケルベロスを、そして収納の腕輪から、アスプ6体を出し、先行させた。


ちなみに、アスプ6体は偽の魔法陣を出し、そこへ登場させ、

いかにも召喚魔法で異界から呼び出したように見せるという、念の入れようだ。


そんなリオネルの様子を、ブレーズとゴーチェは興味深そうに見守っていた。


さてさて!

という事で、6人は出発。


昨夜、打ち合せした通り、フォーメーションは、

先導役のケルベロス、アスプ6体、前衛がリオネル、ブレーズ、中段がモーリス、ミリアンとカミーユ、最後方にゴーチェという並びである。


何もなければ6階層、7階層はケルベロス、アスプにより敵を排除。

そのままスルーし、通過という事なのだが、ブレーズと交わした『約束』がある。


6階層を通過した一行。

7階層へ入る。


ここで、リオネルが作戦開始。

体内魔力を高めて行く。


「ブレーズ様」


「ん? 何だい、リオネル君」


「早速ですが、ここで奥義をお見せします」


「へえ、昨日探索を終了した、このフロアでかい?」


「はい……皆様へお見せするのは、破邪魔法奥義『破邪霊鎧はじゃれいがい』です。ブレーズ様は、ご存じだと思いますが、究極の防御効果を得られる奥義です」


「あ、ああ! と、当然知っているよ。リオネル君の言う通り破邪魔法の奥義だ」


「はい」


「うむ、『破邪霊鎧はじゃれいがい』か。それは……凄いな!」


リオネルから『破邪霊鎧はじゃれいがい』を行使すると聞き、ブレーズはだいぶ興奮気味のようだ。


「はい、では行きますね。ビナー、ゲブラー、『破邪霊鎧はじゃれいがい』!」


リオネルの魔法はほぼ無詠唱。

複雑な言霊、呪文を使わず、詠唱せずとも魔法が行使可能である。


当然、魔法発動に言霊の詠唱が必要なのは、ブレーズ自身も承知している。

高度な魔法を行使する為には、難度も著しく上がるという常識も。


ぱああああっっっ!

と、発動と同時にリオネルの身体がまばゆい発光に包まれた。


「ブレーズ様、奥義『破邪霊鎧はじゃれいがい』発動しました」


「う、うむ! こんなに簡単にか!? す、す、凄いな!」


ブレーズが感嘆するのも無理はない。

破邪霊鎧はじゃれいがい』を完全に習得したのはこれまで数千年の間、

創世神教会所属の聖職者を始めとして20名に満たないからだ。


「これで、毒、石化はほぼ無効化出来ます……ゴーチェ様」


主のブレーズ同様、圧倒されるゴーチェへ、

発光状態のリオネルが声をかける。


「む! な、何だ?」


「昨日は申し訳ありません。俺が毒や石化の攻撃を受け付けなかったのは、実はこの『破邪霊鎧はじゃれいがい』の能力なのです」


「わ、分かった! よ~く分かった!」 


引き気味のゴーチェへ向かい、一礼したリオネル。


……しばし経ち、現れたバジリスク、コカトリスの毒、石化攻撃をあっさりと退け、

威圧、魔法、そして剣を使い、圧倒的な強さで勝利。

ブレーズとの『約束』を見事に履行したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


そんなこんなで、地下8階層へ降りた、リオネル達一行。

既にリオネルは発光していない。

そう『破邪霊鎧はじゃれいがい』の発動を停止していた。


何故なら、発動せずとも、無効化能力の殆どは効果が維持されるからだ。


いち早く、約束が履行され、ブレーズは上機嫌である。


「ふふふ、『破邪霊鎧はじゃれいがい』かあ。初めて見ましたよ」


「そうですか」


「はい、それと、リオネル君がバジリスク、コカトリスを倒す手並みも鮮やかでした。いろいろな流派が混在しているような雰囲気でしたが……剣は我流ですか?」


リオネルの剣は基本が我流。

そして、チートスキル『見よう見まね』により、各派のいい所取りをした、

雑種の剣である。

誇れるものではないが、実用第一だと思っている。


但し、剣聖ブレーズにそんな事は、けして言わない。 


「はい、そうです。正統な剣技をお使いになるブレーズ様に比べて、お恥ずかしい限りです」


リオネルがそう言うと、ブレーズは褒めてくれた。


「いや、実戦向き、戦場の剣という趣きで良かったですよ。……次は私の番ですね。リオネル君の奥義には及びませんが、私が命を預ける奥義のひとつを見せましょう」


「ブレーズ様が、命を預ける奥義のひとつですか、それは楽しみです」


「ふふふ、まあ見ていてください」


「はい、拝見させて頂きます」


という事で、一行が進むと、敵の反応を捕捉した。

この8階層に出現するのは全てが初見の敵。

なので、ケルベロスが報告を入れてくれる。


あるじ……敵だ。いつものように初見の際は、敵の名と構成を伝えてやろう……ノーマルタイプのオーガ3体、レベルは40だ……奴らのスペックは知識としてあるだろう?』


『ケル、いつも報告を、ありがとう! オーガの知識はあるよ。ノーマルタイプか、じゃあ完全にパワー系だな』


『うむ、力任せの脳キンどもさ。主ならば、瞬殺、楽勝だろう』


『ああ、多分。でも、張り切っていらっしゃるから、戦うのは多分、ブレーズ様だな』


『ふっ、騎士同様、押しかけた『クールダンディ』か……その男からは、主を引き留めたい! という強き波動を感じるな』


『押しかけた『クールダンディ』って……』


ブレーズにまであだ名をつけるケルベロス。

……リオネルは苦笑し、


『皆さんから、俺を引き留めたい! そうおっしゃって頂けるうちが、確かに華なんだけど……』


『うむ……』


『俺は人生の道半ば、いやまだほんの駆け出しだから、もっともっと旅を続けたいよ』


『うむ、主は信じる道をまっすぐに歩いて行けば良い……何か、あれば指示を出せ』


『了解!』


頷いたリオネル。


そしてもう慣れたもの。

アスプ達へ「攻撃不要、牽制!」とだけ命じると。


「全員! 聞いてくれ! 敵襲だ!」


と、大きな声で叫んだのである。

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