第216話「リオネル君は、全くブレませんね!」

「では、食事の前に明日の、地下8階層探索の打合せをしましょう」


リオネルは、メンバー全員を見て、落ち着いた口調で言い放った。


ただ、この『場』ではサブマスターのブレーズが遥かに『格上』である。

ひと言、おうかがいを立てておいた方が良いだろう。


「まずブレーズ様が、お話しになりますか?」


しかし、ブレーズは微笑みながら、首を横へ振る。


「いや、私とゴーチェはあくまで君達クランの同行者さ。そちらのリーダーが仕切ってくれて構わない」


「そちらのリーダーって……」


リオネルは口ごもり、モーリスを見た。


一応、今回の英雄の迷宮探索ではリオネルが暫定的なクランリーダーとなり、各自へ指示を出している。

しかし、『本来のクランリーダー』は、モーリスなのである。


そのモーリスは、悪戯っぽく笑い、


「うむ、リオ君、頼む」


と、リオネルへ責務を託した。


「分かりました」


対して、リオネルは頷き、改めて話し始める。


「明日から探索する地下8階層、そして続く地下9階層は、共通の敵がランダムに出現します。順不同であげますが、魔物オーガ、不死者アンデッドマミー、疑似生命体ゴーレム、ガーゴイル、半人半獣ウェアウルフ、ミノタウロス、合成魔獣マンティコアです……マミーなど、特殊攻撃を仕掛ける者もおりますが、基本はパワー系です」


「………………」


モーリス、ミリアンとカミーユ。

ブレーズ、ゴーチェの主従も黙って聞いていた。


リオネルは頷き、話を続ける。


「探索の基本スタイルは変えません。従士ケル、新たに従えた魔獣アスプを斥候、牽制役として先導させ、バトルは前衛メンバー中心で戦い、中段以降のメンバーは、主にクランのバックアップにあたります」


リオネルが「アスプを従えた」と聞き、

目を閉じて話を聞くブレーズのまぶたがぴくっと動いた。


しかし、言葉は発さない。


「………………」


「今回、俺達は冒険者ギルド総本部からの依頼、公式地図発行に伴う英雄の迷宮内の確認という依頼で赴きました」


「………………」


「しかし、各自が課題を持って、迷宮内を探索し、戦い、成長して戻る事も心がけ、依頼を遂行します」


「………………」


「モーリスさんと俺は、まあ、俺自身もまだまだ半人前なのですが……ミリアンとカミーユの育成も念頭に置き、探索し、戦います」


「………………」


「フォーメーションに関しては、地下6階、7階層と同じ形を考えています。従士ケル、魔獣アスプを先行させ牽制させつつ、俺がスキル『威圧』で相手の動きを封じ、戦います。頃合いを見て、ミリアンとカミーユを前衛に入れ、交代で戦います」


「………………ちょっと、いいかな?」


ここで、手を挙げたのがブレーズである。


「新参で分をわきまえず申し訳ないが、私も前衛へ加わりたい。今回はリオネル君とともに戦ってみたくてね」


ブレーズの真意が、リオネルには分かる。

リオネルの実力を自身で見極め、確かめる……

放つ波動ではっきりと伝わって来るからだ。


しかし、ブレーズが見ていようが、リオネルは自分の決めた戦い方をするだけだ。

そう、超レアスキル『エヴォリューシオ』同じく『見よう見まね』の存在、

また『全属性魔法使用者オールラウンダー』に覚醒した秘事を伏せる事。

得たスキルを臨機応変に、試しつつ使い、確認する事。 


なので、リオネルは、ブレーズの申し入れをあっさりと受け入れる。


「……俺は構いません。ですが」


「ですが、……何でしょう?」


「……それではブレーズ様を護衛して帰還するオプション依頼の趣旨に反するかと思います」


「いえいえ、構いません。そもそも先日の小村の依頼では、いろいろあってゴーチェに任せっきりにしていましたからね……リオネル君が了解してくれれば、私も我が剣を振るいたいと思います」


ブレーズはそう言うと、にっこり笑った。


そんなブレーズの笑顔を見て、リオネルは記憶をたぐった。


『冒険者ギルド総本部秘書室長』で総マスターの第一秘書、ソランジュ・デグベルが

言っていたし、その後、モーリスからも聞いた。


剣聖と称えられるランクSの魔法剣士ブレーズ・シャリエ。


彼が行使する水属性魔法から、

『氷のやいば』もしくは『凍結の魔剣士』というふたつ名を持つという。


リオネルの素は魔法使いである。

しかし、未熟なゆえに、心の支えになればと我流で剣と格闘を学び、下手くそながら、地道に訓練を続けて来た。


それが今、戦う上で役にたっている。


こうなると魔法同様、剣技も上手くなりたいと思うのだ。


以前、王都のギルドで一流と称される剣士達の剣さばきを見たが、

『見よう見まね』は全く発動しなかった。


習得する為に必要なレベルに到達していません!

と、冷たく心の内なる声から言われてしまった。


上級レベルの剣技を体得するには、当時の身体もついていかなかった。


だが、今の自分ならば……

『見よう見まね』が、発動するやもしれない。


チートスキル『見よう見まね』はまともな修行ではなく、文字通りズルい、スキルかもしれない。

しかし眠っていたリオネル自身の才能が、開花し、得たスキルである。


正々堂々と使い、その上で得た魔法、スキル、技法の熟練度をあげるべく、

自身を鍛えたい!

遥かなる高みを目指したい!


否!

発動せずとも、剣聖の奥義の一端を垣間見る事が出来たら……

わずかでも自分の強さの糧となる。


ポジティブに、プラス思考で行こう。


そう、俺は強さを求め、学んで行く!

俺なりのまっすぐなやり方で!

その強さが自分を支え、いろいろな人を支える力となる。


「分かりました。ありがとうございます。ぜひブレーズ様の剣にて支えて頂き、今回の依頼を完遂したいと思います」


「ふむ、リオネル君。こちらこそ宜しくお願いしますよ」


「ですがブレーズ様、ただひとつ、お願いがあります」


「ん? お願いですか?」


「はい! ミリアンとカミーユの育成です。前衛で戦うのなら、ブレーズ様にも俺と交代で、ご協力をお願い致します」


「ふむ、確か、リオネル君は以前にも、ミリアン君、カミーユ君の件を私に頼んでいましたね」


そう、リオネルは業務担当者を、ミリアンとカミーユに相性の良き人にと、

ブレーズへお願いしていた。

その結果、エステルが担当となった。


「えええっ」と、驚いたのはミリアンとカミーユ、そしてモーリスである。


「「リオさん!」」

「リ、リオ君!」


しかし、リオネルはきっぱりと、


「はい、ブレーズ様。この件は、依頼の完遂よりも、優先するくらい大事だと俺は考えていますから」


リオネルの言葉を聞き、何と!


「はははははははははは!!! いつも同じですね。リオネル君は、全くブレませんよ!」


ブレーズは大きな声で笑った。


普段の冷静沈着なあるじとは全く違う様子に、

こちらも驚いたのは副官のゴーチェである。


「ブ、ブレーズ様!」


しかし、ブレーズはゴーチェを手で制し、


「宜しい! 私もミリアン君、カミーユ君の育成に大いに協力しましょう!」


と、しっかりと約束してくれたのである。

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