第215話「まずは…… やるべき事をやろう」
「ふ! 皆さん、頑張っているみたいですね」
面白そうに短く笑ったのは、超多忙なはずのゴーチェの上司、
冒険者ギルド総本部サブマスター、ブレーズ・シャリエだった。
ワレバットの冒険者ギルド総本部において多忙な日々を送っているはず。
そんなブレーズ・シャリエが何故、英雄の迷宮地下5階層の
さすがに、「ブレーズ様、お暇ですねえ」とは言えない。
リオネルは「ちら」と副官のゴーチェを見た。
直立不動となったまま、ゴーチェは苦笑に近い笑みを浮かべていた。
心を読まずともリオネルには分かる。
ブレーズがここへ来る事をゴーチェは知っていた。
来た用件も、大体想像出来る。
「ゴーチェ、ご苦労様」
「は! ブレーズ様、お疲れ様です!」
ここで、リオネル達が挨拶する。
「「ブレーズ様、お疲れ様です、こんばんは」」
と、モーリスとリオネルが、
そしてミリアンとカミーユも。
「こんばんは。ブレーズ様」
「ブレーズ様、こんばんはっす」
「こんばんは、皆さん」
と、笑顔で応えるブレーズ。
リオネルが、探りを入れてみる。
「ブレーズ様、いきなりお会いしてびっくりしました。……単にお食事だけで、この英雄の迷宮地下5階層へは、いらっしゃいませんよね?」
「ええ、違いますよ。……私もたまたまこの迷宮に任務がありまして……こうして来たという次第です」
しれっというブレーズだが……
たまたま任務があった?
それは違うだろう……
と、リオネルは思う。
しかし、リオネルは異論を唱えるほど、『空気読み人知らず』ではない。
「任務ですか、成る程」
「それで、ですね、ついでにリオネル君達へ、新たな依頼をお願いしたいと考えて、ここで待っていたのですよ」
「新たな任務ですか? ゴーチェ様からも、『帰還同行』というオプション依頼を受けておりまして、俺達、公式地図確認の依頼もあり、既に『お腹いっぱい』になりそうなんですが」
「いえ、大丈夫です。けして『お腹いっぱい』にはなりません。私の依頼も受諾して頂いて、全く問題はありませんよ」
「けしてお腹いっぱいにはならない? 全く問題ない? ……という事は、ブレーズ様も俺達と一緒に『帰還同行』という形でワレバットまでお帰りになるって事ですね? 迷宮探索後に」
「はははは、さすがですね、当たりです」
「まあ……そういう事なら……」
と言い、リオネルはモーリスを見た。
「……………」
モーリスは黙って頷いた。
ひと呼吸置き、リオネルは了解する。
「構いませんけど」
「ありがとう。では私の『ワレバットへの帰還同行』というオプション依頼を、『受諾』という事にしますね」
「はい、お受けします。宜しくお願い致します」
リオネルは前向きに考える事にした。
単純に最強レベルのメンバーが増えると。
地下8階層以降の敵は更に協力となる。
同伴者ということで基本は、傍観だろうし、「あてにしすぎる」のもいかがなものかもしれない。
だが、いざとなればブレーズも、ゴーチェも「共闘してくれる」はずだと読む。
思惑を考えるリオネルへ、ブレーズは微笑む。
「ふふふ、私には分かります……男子、三日会わざれば
「ええ、聞いた事があります」
「はい、つまり、日々、鍛錬し成長する者が居れば、その当該者は3日も経つと、見違えるほど成長している。それゆえ、良く注意して見なさい、という意味ですね」
「ありがとうございます。改めてお聞きすると勉強になります」
「はい、そのことわざ通り、リオネル君は、君の有する底知れぬ才能をどんどん開花させているようですね」
「はあ、開花しているかどうかは分かりませんけど、レベルは少しだけ上がりました」
リオネルが曖昧に答えると、ブレーズはニッと笑う。
「リオネル君」
「はい」
「私は君の事で『ひとつ』だけ分かった事があります』
「ひとつだけ?」
まさか?
と、リオネルは懸念した。
だが、違った。
「はい、君のレベルは実力に全く見合っていない。強さの目安にはならない……という事です」
「……確かにそうかもしれません」
リオネルは表情を変えなかった。
しかし、ホッと胸をなでおろしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
こうして……
明日からブレーズまでも探索に参加する事となった。
ゴーチェは「ここぞ!」とばかりに、
昨日、本日の探索における報告を、ブレーズに対し行っていた。
ビルドアップしたリオネルの聴力は、ふたりの会話を捉える。
探索が無事に進んでいることをさらりと告げ、
殆どがリオネルが見せた能力の話に終始していた。
ゴーチェの報告を聞くブレーズは、満足そうに何度も頷いている。
ブレーズが「合流した」目的は、多分ゴーチェと同じ、
リオネルの実力を見極め、何とか引き止め、どこかの貴族家へ『養子』として放り込む事だろう。
それが故国ソヴァール王国への多大なる貢献につながるからだ。
更にブレーズの
ローランド・コルドウェル伯爵への忠義の
しかし、とリオネルは考える。
念話を習得してから、リオネルは他者の心が読めるようになった。
だがマイルールでやたらと勝手に人の心をのぞいたりはしない。
緊急や特別な場合を除いては。
そんな事をせずとも分かる!
ゴーチェ、ブレーズ、そしてローランドから放たれる波動は、
リオネルに対する畏敬、信頼、親愛、友情であり、それぞれが深く純粋であるものだと。
確かに、立場上、自分を貴族家に入れる事は分かるし、仕方がないと思う。
だが3人はリオネルに対し、
シンプルに「同じステージに立つ仲間になろう!」「親しき友となろう!」
悪意なく、好意から、心より呼びかけているのだ。
ありがたい!
とリオネルは思う。
そしてこれも分かる!
ゴーチェ、ブレーズ、そしてローランドも、
己の人生において、運命の邂逅を遂げた3人なのだと。
しかし、自分の旅はまだ道半ば。
どこかで待つと信じる『運命の想い人』を始め、もっと数多の人達と逢いたい!
ここで終わらせるわけにはいかない。
つらつらと考えるリオネルであったが……
まずは……
目の前のやるべき事をやろうと決めた。
この英雄の迷宮を探索。
立てた課題を目標に己を鍛え、ミリアンとカミーユの面倒を見ながら、モーリスさんにも貢献する。
そしてギルドの依頼を完遂する。
リオネルは、決意を新たにし
「では、食事の前に、明日の、地下8階層探索の打合せをしましょう」
メンバー全員を見て、落ち着いた口調で言い放ったのである。
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