第181話「5年後の約束②」

「そんな事ある! 全然あるよ!」


自信を持ったのは、「ミリアンとカミーユ自身が努力をしたからだ」

とリオネルが告げたら、首を横へ振り、ミリアンは即座に否定した。


「ミリアン……」


「リオさんは、いつも私達に誠実で優しくて、いろいろ気づかってくれた。そして、勇気を出せ、努力しろって、口先の言葉だけじゃなく、有言実行で見せてくれた、たくさんの事を教えてくれたわ!」


「……………」


「何かにつけて、くじけそうになる弱い私達姉弟を親身になって、いつもいつも鼓舞してくれたんだ」


「……………」


「リオさんはね、いつも、一番前面に立ち、私達の盾となって、懸命に戦ってくれているわ」


「……………」


「リオさんが身体を張って、ひたむきに頑張る姿を見ると、私もカミーユも、心が燃えて、凄くやる気になるの。愛する人を守りたい、絶対幸せにしたいって、強く思うわ!」


「……………」


「リオさんはこうも言った。……人生において数回は、必死に頑張らなきゃ、いけない時期があるって」


「……………」


「手抜きをせず、一生懸命にならないと、きまぐれな運命の女神は、自分へ手を差し伸べてくれない。必死にやって、差し伸べてくれた女神の手をしっかり掴まないと、いけない。それが幸せと不幸せの分かれ道となるって」


「……………」


「その通りだと思う。私もカミーユも、今が人生で一番一生懸命、頑張らなきゃいけない時期だと思うの……」


「……………」


「今だけじゃなくて、ず~っと永遠に頑張らなきゃいけない、のかもしれないけれどね……うふふ」


「……………」


「モーリスお父さんは、孤児の私達姉弟を拾い上げ、慈しんでくれて、将来への道を示してくれた大恩人……普段、いろいろ言い合うけれど、大好きだよ」


……以前、モーリスとワレバットの町を探索した時。

モーリスは言い切った。

ミリアンとカミーユが大事だ!と。


「ああ、モーリスさんはミリアンとカミーユの事を本当に大事に思っているよ」


「うん! 分かってる! でもリオさんだって、会った時から私達姉弟の事を、とても大事にしてくれている! いつも表裏なしの本気で考えてくれているよっ!」


「……………」


「さっきみたいに私もカミーユも、何かにつけて、守って貰い、励ましてもくれた。リオさんは、いつも私達をしっかり支えてくれたよ」


「……………」


「リオさんは凄く強くて『ぴかぴか』に輝いている! 私達姉弟の『憧れ』であり『目標』なんだ!」


「……………」


「そんなリオさんが、過去に大きな『挫折』を経験したと聞いた。でも、くじけず、あきらめず、再び立ち上がって頑張った。そして今のリオさんがある。私、そんなリオさんが、ますます大好きになったの……」


「……………」


「ねえ、リオさん、ひとつ聞いても構わないかな」


「……ええっと、何をだい?」


「王都では子供扱いされ、思い切り振られたばかりだ……って言ってたじゃない」


「あ、ああ……初恋の人に思い切り振られたよ」


リオネルは、ふとナタリーの事を思い出した。

だが、ミリアンに気付かれないよう首を横に振る。


愛の告白をしたミリアンを抱きしめていながら、他の女子の事を考えるのは、

とても失礼だと思ったからだ。


「リオさんを振ったのは、リオさんの初恋の相手かあ……その人って……どんな人? リオさんより年上? 同い年? それとも私と同じで年下?」


ミリアンは興味津々きょうみしんしんらしく、更に聞いて来た。

リオネルは少し迷ったが、正直に答える。


「……年上だ」


「あ~! やっぱり!」


「やっぱり?」


「うん! 年下の私をずっと『妹』扱いしているから、そうだと思った。……リオさんの好みって、『年上の素敵な人』でしょ? ブレーズ様の秘書のクローディーヌさんみたいな」


「…………」


「リオさんの初恋の人かあ……王都に居るんでしょ? すっごく素敵な女子でしょうね! 一度その人を見てみたい、会って、いろいろ話してみたい」


「…………」


「じゃあ、改めて、告白します。私ミリアンの初恋の人はリオさんだよ♡ 大好き! リオさん! 愛してる!」


ここで、いいかげんな男子なら……

好きでなくても「俺も好きだ」と、言ってしまうのだろう。


しかし、リオネルにはどうしても言えなかった。


……ミリアンは、やはり『可愛い妹』なのだから。


好意を持ってはくれたが……『亡き弟』のように思ったという、

自分を振った初恋の相手、ナタリーの気持ちが、

リオネルには、分かったような気がした……


「…………」


「あはは、言っちゃった♡ でも、言わないと一生後悔する。絶対、後悔したくないから、良かったあ!」


「…………」


「リオさん、初恋の人に振られたからって、落ち込んじゃダメだよ。自信を持って! リオさんは凄く素敵な男子なんだから♡ この私が惚れたんだもの♡」


「…………」


「リオさんは、優しくて! 思いやりがあって! 強くて! カッコいい! 最高の男子だよ♡」


「…………」


「それにさ。いい加減で不誠実な男子なら、こういう時、とりあえず好きって言って、告白した女子をいいように、もてあそぼうとするじゃない」


「…………」


「王都でも、ワレバットでも、私をナンパする男子って、全員が遊び気分。すっごくちゃらくて、軽いんだもの」


「…………」


「でもリオさんは違う。そんな素振りは全然ない! 私から好きだよって言われて、答えられずに真剣に悩んでいるのが分かる! ミリアンは『俺の恋人』にして良いのか、それともやっぱり『可愛い妹』なのかって♡」


「…………」


「私、リオさんが『初恋の相手』で本当に良かった! 一生忘れないよ、大切な思い出にするからね♡」


「…………」


「うん! よし! 決めた!」


「…………」


「私も大人の素敵な女になる! リオさん好みの大人の女に!」


「ミリアン……」


「5年後に、リオさん、キャナール村へ来てくれる?」


「え? 5年後?」


「うん! 5年後! 5年後にね、20歳になった私に会いに来て♡」


「……………」


「『20歳の大人で魅力的な女』になった私ミリアンと、キャナール村で再会して、お互いに独身で、お互いにまだ好きだったら……絶対に結婚しようね! ……決定!」


「ミリアン……」


「明日も早いから、もう寝るね!」


「……………」


「リオさん、今夜は、ありがとう、話を聞いてくれて。……このまま抱っこしていてね♡」


「……………」


無言のリオネルに、顔を上げたミリアンは、


「……お休み。おでこに、『ちゅっ』とキスして♡ リオさん♡」


「わ、分かった……お休み、ミリアン」


ミリアンの気持ちに応えてやれないリオネルは、

せめてこれぐらいはと、彼女の可愛いおでこへ、「そっ」とくちびるを触れた。


「うふふ♡ やったあ! おでこだけど、ファーストキス♡ 嬉しいっ! お休み、リオさん♡ ぎゅっとして♡」


甘えるミリアンは、再びリオネルの胸に顔をうずめてしまう。

そんなミリアンを、……リオネルは優しく抱きしめたのであった。

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