第179話「ミリアンの甘い提案」

英雄の迷宮地下2階層……階下3階層近くの小ホール。


リオネル達一行を半人前と思い込み、

襲って来た『おっさんず』のルーキーキラー8人。


人数を頼んで剣を抜き、攻撃魔法『炎弾』を脅しで撃ち……

金を要求し、ミリアンをもてあそぼうとした。


しかしリオネルは、リオネルは万能スキル『威圧』レベル補正プラス25、

そして特異スキル『フリーズハイ』レベル補正プラス40を連発で、

『ダメ押しの合わせ技』として行使し、あっさりと無傷で倒した。


リオネルは更に、特異スキル『シャットダウン』レベル補正プラス40を、

『ルーキーキラーの悪党男ども8人』を行使、全員を『終了』させ、

完全に無力化させてから、確保し縛り上げた。

当然ながら命に別状はない。


リオネルは次に、念話で灰色狼風に擬態した魔獣ケルベロスを呼び、モーリス達の護衛を指示して残すと……

自慢の俊足を飛ばし、迷宮地下1階層入口へと戻った。

途中、魔物が数種出たが、遊んではいられないので、

全てをかわし華麗にスルーした。


入口へ戻ったリオネルは、守衛へ名乗った上で理由を話し、『魔導音声録音水晶』へ記録された音声を『証拠』として聞かせた。


結果、しばしその場で待たされたが……

守衛の連絡により『ヘーロースの衛兵』10名が迷宮地下1階層へすぐに駆け付けた。

リオネルは衛兵達へ、再度、『魔導音声録音水晶』の音声を聞かせた上で、

モーリス達が待つ2階の小ホールへ……


いろいろ余計な突っ込みがされないよう、

ケルベロスは衛兵達と入れ替わりに一時退場。

素早く、身を隠した。


というわけで、現場にはモーリス、ミリアン、カミーユと、

気を失った悪党どもの『人間族のみ』が居た。


衛兵達へ事情を再び話し、

悪党どもを特異スキル『リブート』レベル補正プラス40で、

全員を『再起動』。

改めて『魔導音声録音水晶』へ記録された音声を証拠として再生した。


こうなると、もう完全に言い逃れは不可能。


リオネルは『証拠品』として『魔導音声録音水晶』を渡した。


ちなみに、『魔導音声録音水晶』は『予備』をたくさん買ったから、

全くノープロブレムだ。


もしかしたらこの『ルーキーキラー』どもは、

変装し、身分を偽った『賞金首』かもしれないと、衛兵達は言う。


犠牲者から奪ったらしい、冒険者ギルドの所属登録証等々を、

たくさん所持していたからだ。

偽名を使用し、この迷宮へ入った可能性が高い。


という事で、衛兵達からは「後日連絡する」と言われ、悪党どもは逮捕され、

彼らの武器も証拠品として没収、地上へ連行されて行ったのである。


しかし……

なんやかんやで相当な時間が経ち、地下3階層への移動は取りやめ。

今夜はこのまま『この場でキャンプ』という事となり……

『虫大嫌い』のミリアンはがっくり。

対して、『不死者アンデッド大嫌い』のカミーユは勝ち誇り、拳を突き上げ、ガッツポーズをしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


結局……

ふらちな『おっさんず』のルーキーキラー8人以外、

リオネル達がキャンプを張る小ホールを訪れる者は居なかった。


という事で、小ホールはリオネル達の『貸し切り』となる。


虫嫌いなミリアンの為、『虫軍団』が小ホールへ一切近づかないよう……

モーリスとリオネルはいろいろとケアをする。


モーリスは結界という名の魔法障壁を周囲に二重に張り……

リオネルは、魔獣ケルベロスを巡回させ、習得した魔法障壁を内緒で、モーリスが張り巡らした外側に張った。


その上で大型テントを張り……

同じテント内で、各自が『寝袋』を使い、睡眠を取るのだ。


就寝前に全員で食事を摂る。


もはや完全に食事係となったリオネルが腕を振るい、

魔導コンロを使って、フライパンで肉、野菜を炒め、卵を割りスクランブルエッグと、鍋で風味豊かなコンソメスープを作ると……

モーリスが『ヘーロースの町』で購入したパンとともにミリアンが各自へ料理を小分けして配り、カミーユが淹れた濃い紅茶を配り、全員ですする。


魔物が跋扈ばっこする恐ろしい迷宮内とはいえ……

『心の絆』を深く結んだ仲間との食事は楽しい。


いずれリオネルは、キャナール村へ移住する3人と別れる。

ひとりフォルミーカ迷宮へ旅立つ事となる。


……思い起こせば、原野で襲って来たゴブリンと戦う事で3人を助けて、出会ってから……

キャナール村を経由し、ここワレバットまで旅を続けて来た。

3人と共に戦い、共に学び、共に暮らした日々は一生忘れられない思い出のひとつだ。


そして今夜は、

リオネルが4大属性全ての魔法を習得し、全属性魔法使用者オールラウンダーへ覚醒した記念すべき夜……なのだ。


少し感傷的になったのか……

ミリアンがとんでもない『提案』をして来た。


それは……


「リオさん、今夜は一緒に寝よ♡ 私と手をつないで、全属性魔法使用者オールラウンダーになった記念にね♡」


「あ、ああ、良いよ。テントの中で寝袋をくっつけて並べるんだな。そして俺が手を伸ばして、ミリアンの手とつなぐんだろ?」


「全然ちが~う! 私とリオさんが同じ寝袋で一緒に寝るの♡」


「えええっ!? ね、寝袋で一緒って!? じょ、冗談だろ!?」


「いいえ! リオさん、私本気マジだから!」


「ミ、ミリアン!」


「はいっ!」


「よ、用意した、ね、寝袋は、お、大型だけど! い、一緒に寝れば! と、とんでもなく! み、密着するぞ!? お、おい! カミーユ! ミリアンを! 姉さんを止めてくれよ!」


女子と密着して眠った事など母親以外、人生では皆無!


ひどく「うろたえる」リオネルはカミーユへ助けを求めるが……


「ははは、何を言ってるっすか! リオさんなら姉さんを任せて全然安心っす!」


「ははは、だな! リオ君、甘えん坊のミリアンは君に任せたぞ!」


と、『父親』のモーリスにまで言われてしまった。


そして、いよいよ就寝!!

ひとつの寝袋の中でリオネルとミリアンは抱き合うように密着した。


「リオさん、しっかり私を抱いて」


「あ、ああ……」


一緒に眠るのが初めてなら、女子を抱きしめるのも生まれて初めて!

普段は完全に『妹』として見て扱っているが、シチュエーションがまるで違う。


緊張しまくるリオネルは、恐る恐る、そ~っと、ミリアンを抱いた。

ミリアンの身体はとても柔らかく甘い香りがする。


そのミリアンは抱きしめられながら、リオネルの胸に顔をうずめ……


「リオさんは……あったかいね」


「ん、ん!?」


「わ、私……リオさんが好き……大好き」


と、小さな声でささやいたのである。

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