第178話「ルーキーキラー」

魔獣ケルベロスの告げた通り……約10分後。

よこしまな悪意を持った人間複数……

モーリスが言う懺悔ざんげが必要な悪党どもが現れた!


事前に索敵で察知していたが、現れたのは全員が人間族で人数は8人。

多分、冒険者でこの迷宮の探索者であろうと推測した。


しかし、存在は把握していたが、ケルベロスが離れて察知したように、

『読心魔法』的な――ヤバイ相手だと当該者の心を読むレベルには到達していない。


またリオネルの習得した念話――『読心魔法』は、

対象たる存在を己の視界に捉えるか、

放つ波動をほぼ完全に心に刻んでから発揮するものであり、

索敵――魔力感知のレベルアップと共に「もっと修行が必要だ」と改めて実感する。


以前、旅立ってすぐリオネルは、原野で強盗3人に襲われた事があった。

心構えとしては、まずは相手の正体、意図を確かめ対処。

こちらから先に手出しはせず、ヤバイ危険がない限り無力化させ、ケガをさせたり、命までは取らない。

但し、相手次第や状況で例外はあるとした。


さてさて!

現れたのはやはり、一見、冒険者クラン風の8人。

全員が30代以上、革鎧姿で、武装もしている。

小ホールに来たのは、リオネル達同様、キャンプや小休止という目的が大半なので、

このような場合、冒険者同士、挨拶し合うのが通例だ。


なので、現れた8人に対し、リオネル達は「こんにちは」と簡単な挨拶を投げかけた。

キャンプする際は一旦武装を解くが、リオネル達も探索中のままの武装で、

戦闘スタンバイをしていた。


現れた8人はリオネル達の挨拶に対し、返事もせず……

じろじろと、ねめつけるように見ながらコソコソ小声で話していた。


リオネルが意識して聴力を上げると、彼らの会話が聞こえて来た。

「おっさんひとりにガキ3人か」

「周囲に他の奴らは居なさそうだし、やっちまいましょう」

「女はガキだけど充分楽しめるでしょう」

「こっちは倍の8人居る。負けるわけがねぇ」

「終わったら、殺して身ぐるみはぎましょう」


……やはり男どもは『強盗もどき』であり、相当凶悪な奴らである。


会話が終わり、男どもは早速凶行に移る。

男どもは、少し離れた場所で身構え、リーダーらしきひげ面の男が剣を抜き、

声を張り上げる。


「おい、てめえら、武器を捨てて、おとなしくしろ。命までは取らねえが、抵抗すれば殺す!」


対して言葉を戻したのはリオネルである。

この時点で、念話を発動、男どもの心の中を読んで行く。


……男どもは、一応冒険者だが、経験の浅い冒険者を専門に狙う強盗だ。

冒険者の間では『ルーキーキラー』と呼ばれる外道である。


気になるレベルは、リーダーが『32』で他の男どもは、『20』から『25』だ。

『レベル17』のリオネルより上だが、大した事はなかった。

威圧もスキルも充分に楽勝で通用する。


多分、ベテラン冒険者のモーリスが、半人前のリオネル達3人を引き連れていた……と、見ての凶行に違いない。


奴らの記憶の履歴を読めば、余罪も数多あり……

ソヴァール王国の法律では、極刑が相当となろう。

ローランドやブレーズは、冒険者の評判を落とすこのような悪党には特に厳しい。

だから、奴らが逮捕されれば、「即、死罪!」となるのは間違いない。


ちなみに、

「このように特別な事情や緊急の場合でない限り、念話で他人の心をのぞかない」と、リオネルは自分へ『マイルール』を課している。


微笑みながら、リオネルは尋ねる。


「へえ、あんたらは、冒険者の恰好をした強盗って事ですか?」


対して、リーダーは舌打ちをし、脅して来る。


「ちっ! 黙れや、くそガキ。こっちはお前らの倍で8人。魔法使いも3人居るんだ。下手な真似すりゃ、攻撃魔法を喰らわせるぜ」


ここで、他の男達も叫ぶ。

次々と剣を抜いた。


「そうだ! さっさと武器を捨てろ!」

「女、武器を捨てて服を脱げや! すっ裸になるんだ!」

「お嬢ちゃん、一緒にお楽しみだ。俺達が楽しみ方を教えてやるぜ!」

「ひゅう! 俺達は陽気なパーティピーポー! さあ! 乱痴気パーティのスタートだぜぇ!」


露骨に舌なめずりし、紅一点のミリアンを好色な眼差しで見る8人の男達。


対してミリアンは身を硬くし、リオネルに「ひしっ!」としがみつく。


「こ、このヤロー!」

「バカな真似はやめないか、おまえら!」


思わず身を乗り出したカミーユとモーリスを手で制止。


リオネルは、淡々と警告する。


「おい、おっさんたち、いいかげん、やめた方が良いぜ、こういう悪事は」


「うるせぇ! 殺すぞガキ、てめえ!」


「本当にやめた方が良いよ、おっさん」


どしゅ!

ばっ!


リオネル達の足元で『炎弾』が弾けた。

男どものうち、言霊を詠唱していた魔法使いが放ったのだ。


しかしリオネルは念話で、魔法使いの行為を読んでいた。

なので、敢えて魔法を撃たせた。


着弾を見たリーダーは、勝ち誇る。


「どうだあ、ガキぃ! 今のは警告だ! 次は生意気なてめえにぶち当てて燃やしてやる! 殺されたくなきゃ、さっさと武器を捨てるんだあ!」


「良いでしょう。お遊びは終わりです。あんたらの運も尽きました」


「が!」

「ぐあ!」

「うお!」

「あぐ!」


キッとリオネルににらまれた男達は、突如脱力し、崩れ落ちる。


リオネルは万能スキル『威圧』レベル補正プラス25、

そして特異スキル『フリーズハイ』レベル補正プラス40を連発で、

『ダメ押しの合わせ技』として行使したのだ。


からん! からん! からん! からん! からん!


石の床に剣が落ち、男達もその場へ伏した。

魔法使い3人もひっくり返っている。


リオネルは「つかつか」と倒れている『ルーキーキラーども』へ近付き、

まずは、リーダーの胸倉をつかんで引き起こすと、


ぱん! ぱん! ぱあんんん!!

と頬を張った。


「ぐげぇぇっっ!!」


情けない悲鳴をあげるルーキーキラー、リーダー。


音は派手で、痛みは感じる。

だが、気を失うほどではない。


痛みに悲鳴をあげ、脱力したルーキーキラー、リーダーを「ぽいっ」と打ち捨て、

リオネルは次々と、動けない男達の頬を張った。

「卑怯などとは、絶対に言わせないぞ」と、冷たい殺気を放っている。


『最後のひとり』の頬を打ち、投げ捨てると、


「おっさん達は、迷宮の守衛に引き渡します。先に剣を抜いたし、脅しとはいえ魔法も撃った。完全にこっちの正当防衛ですね」


「……………」


「あと、言い逃れも無駄です。これに記録していますから」


リオネルが取り出したのは、ワレバットの魔道具屋で購入した魔道具である。

普段は伝言、もしくは遺言状等にも使用する。

『魔導音声録音水晶』であった。


小さな魔法水晶に、リオネルが魔力を込めると……


「おい、てめえら、武器を捨てて、おとなしくしろ。命までは取らねえが、抵抗すれば殺す!」


「へえ、あんたらは、冒険者の恰好をした強盗って事ですか?」


「ちっ! 黙れや、くそガキ。こっちはお前らの倍で8人。魔法使いも3人居るんだ。下手な真似すりゃ、攻撃魔法を喰らわせるぜ」


「そうだ! さっさと武器を捨てろ!」

「女、武器を捨てて服を脱げや! すっ裸になるんだ!」

「お嬢ちゃん、一緒にお楽しみだ。俺達が楽しみ方を教えてやるぜ!」

「ひゅう! 俺達は陽気なパーティピーポー! さあ! 乱痴気パーティのスタートだぜぇ!」


「こ、このヤロー!」

「バカな真似はやめないか、おまえら!」


「おっさんたち、いいかげん、やめた方が良いぜ、こういう悪事は」


「うるせぇ! 殺すぞガキ、てめえ!」


「本当にやめた方が良いよ、おっさん」


どしゅ!

ばっ!


「どうだあ、ガキぃ! 今のは警告だ! 次は生意気なてめえにぶち当ててやる! 殺されたくなきゃ、さっさと武器を捨てるんだあ!」


「良いでしょう。お遊びは終わりです。あんたらの運も尽きました」


リオネルとリーダーの会話。

カミーユとモーリスの怒りの声、攻撃魔法『炎弾』の着弾音もしっかり記録されていた。


さあ、クロージングである。

リオネルは、相変わらず淡々としゃべる。


「あんたらを引き渡す際、これも証拠品として守衛へ渡します。ふたつに記録しておきましたから、守衛から奪うとか、買収しても無駄です。後で俺が予備を冒険者ギルド総本部にも直接提出しますから」


あまりにも鮮やかで完璧なリオネルの対応を見て聞き……

意識の残っていた8人の男どもは、観念し、床に伏したまま、

「がっくり」とうなだれたのであった。

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