第177話「堂々としていれば」
「カミーユ! 絶対3階!」
「いやいや! 姉さん! この2階が良いっすよ! っていうか、3階はNGっす!」
ここは、英雄の迷宮地下2階層……階下3階層近くの小ホール。
虫軍団を散々討伐し、地図記載の確認が終わって、
勃発したミリアンとカミーユの論争は続いていた。
内容を聞くと、些細な問題に見えた。
しかし当人達にとっては由々しき大きな『問題』なのである。
その『問題』とは……
今夜、地下2階層、3階層のどちらにキャンプを張り、泊まるか……である。
『冒険者ギルド総本部発行、英雄の迷宮地図、公式版』そして、この迷宮探索経験者モーリスによれば……
次に降りる地下3階層は
出現するのは、
ゾンビ、亡霊、スケルトンという、王立墓地管理人代行の依頼において、
既に戦った相手であり、そして一行が戦った事のないポルターガイストなども出現するという……多士済々のメンバーである。
『虫』のフロアの小ホールか、『
「さあ、今夜はどちらでキャンプを張ろうか?」
という問いかけがモーリスから出され、双子姉弟の論争となったのである。
もうお分かりだろう。
倒すことは倒せるが……
ミリアンは『虫』、カミーユは『
そんな奴らに囲まれて寝たくはない、安眠は不可能だ! というのが、ふたりの、
主張のロジック。
しかし、よくよく考えてみれば……
ここから地下10階層まで、ず~っとず~っと、魔物のオンパレードである。
5階層が唯一、魔物を排除する破邪の障壁に守られたフロアだが、
今回の依頼は公式地図発行の為の各フロアの確認。
じっくりと各階の探索をしなければならない。
5階以外は、どうせ人外に囲まれて眠るのだ。
「どの階でも所詮は同じだろ?」というのが、モーリスの主張である。
「ミリアン」
「はい!」
「カミーユ」
「はいっす!」
「ふたりとも、良く聞いてくれ」
「師匠、聞きます」
「聞くっす、師匠」
「うむ! どちらにしても、この英雄の迷宮内でキャンプを張る場合は、魔物だらけの中で眠るのだ。私が魔法の結界を張るし、リオ君が召喚したケル、……魔獣ケルベロスが周囲を巡回し、敵を退けてくれる」
「まあ、そうですね」
「師匠の言う通りっす」
「ケルベロスは『レベル60』以上の
「そうは言っても、師匠! 私、自ら選んで、うねうね、にゅるにゅるした気持ち悪い虫に囲まれて眠るのはイヤ! 全身に鳥肌立っちゃう!」
ミリアンの主張を聞き、大きく肩をすくめたモーリス。
今度はカミーユへ言う。
「おいカミーユ。愛するミリアン姉さんがそう言ってるぞ。お前が、『シスターファースト』で譲ってやれ」
「いやっす! 師匠! 俺だってどろどろに腐りかけた臭い死体に囲まれて眠りたくないっす! いくら『シスターファースト』で大好きな姉さんでも、俺にも絶対に譲れない部分はあるっすよ!」
お互い譲らない双子の姉弟……
師匠で義父のモーリスは嘆息する。
「はああ……これでは今夜の予定が立てられん。リオ君、今回の探索でリーダーたる君が、ふたりを説得してくれ」
「はあ、分かりまし……」
モーリスから懇願され、リオネルも苦笑、
ミリアンとカミーユをとりなそうとした時。
突如、リオネルの心の中に念話の声が響いた。
ケルこと、『魔獣ケルベロス』からの念話である。
『
しかし、リオネルは首を傾げる。
索敵に侵入者の反応はない。
『え? 敵だって? おかしいな? ケル、俺の魔力感知を使った索敵には人間の反応しかないぞ』
対して、ケルの答えは意外なモノであった。
『うむ、そうだ、主よ。敵とは……人間だ』
『え? 敵が人間?』
『ああ、そちらに向かっている。そうだな……約10分後に遭遇するはずだ』
『約10分後か』
『うむ……
『
リオネルが問うと、ケルベロスは「愚問だ」というように笑う。
『ふっ……そんなドジは踏まん。我は
『そうか、失言だった。申し訳ない』
『……気にしていない。それより、主ならば、こんな奴らは簡単に追い払えるが、どうする?』
『ええっと、……どうするかな』
少し考えて、決めたリオネル。
『……よし、どんな奴か、まずは見てやろう。こういう奴らの対策は準備してある。後は成り行きだ』
心身にダメージを与えない魔法、スキルを習得済みのリオネル。
ケルベロスに追い払わせるのもありだが……
以前の山賊のように、スキルの実験台にするのも一興。
相手の出方しだいではある。
それに悪意を持つ者を放置しておけないという正義感も、リオネルにはあった。
決めたら早速、モーリス、ミリアン、カミーユに告げる。
「後、10分ほどで、この小ホールへ人間の敵が複数来ると、ケルから報告がありました」
「何? 人間の敵が複数だと? ふむ、
「懺悔が必要な悪党どもって、何者? リオさん」
「相当、やばそうな奴らっすか?」
緊張するモーリス達3人へ、リオネルは余裕の笑顔を見せる。
魔獣ケルベロスの言葉、『主ならば、こんな奴らは簡単に追い払える』という言葉を思い出したのと……
『堂々としていれば仲間や下の者は、君を頼もしく思い、深き信頼が生まれる。窮地に陥った時でも、君にならついていける……そう考えるはずだ』という、
総マスター、ローランドのアドバイスが聞こえたからである。
「まあ、大丈夫です。でも念の為、全員で戦闘準備をしましょう。俺は威圧のスキルを使いますが、ダメなら、他の手を考えます」
リオネルの笑顔を見て、頼もしい言葉を聞き、
モーリス、ミリアン、カミーユは、落ち着いた表情で大きく頷いたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます