第176話「うっすい反応」

カサカサカサカサカサカサ………

カサカサカサカサカサカサ………


「氷結!」


迫る1mを超える巨大ゴキブリ――ミドルコックローチの残存勢力へ、

リオネルは短く言葉を発し、習得したばかりの水属性魔法『氷結』を行使した。


ミリアンが言霊を詠唱し、少しインターバルを置いて、魔法発動するのに対し、

リオネルはほぼ無詠唱で、凄まじい速さ――神速で発動する。

ミリアンの魔法発動が本来のモノだが、リオネルは規格外過ぎるのだ。


進むミドルコックローチを取り巻く周囲の大気が、音を立てて凍り始める。

慌てて飛び立とうとしたものも居たが、すぐに動かなくなる。


びきびきびきびきびきびきびきびき!!

びきびきびきびきびきびきびきびき!!

びきびきびきびきびきびきびきびき!!


ばっりいいいいんんん!!!

ばっりいいいいんんん!!!

ばっりいいいいんんん!!!


という事で、迫っていた残りの巨大ゴキブリも、すぐ凍結し、

全てが粉々に砕け散ったのである。


自分と比べ、ほぼ無詠唱で、発動速度も著しく早く、破壊力も段違い。

ミリアンはただただ驚き、感嘆するしかない。


「わあお! す、凄いわ! リオさんが! 氷結の魔法を使った!?」


「ああ、使った! ……ミリアン、お前のお陰で習得出来たよ」


「私のお陰? わけがわからないよ。でも、リオさん! 一緒に戦えたわ! 嬉しいっ!」


ついミリアンのお陰だと告げてしまったが……

さすがに、チートスキル『エヴォリューシオ』以下のスキルの効用とはいえない。

それに、もしも説明したところで、信じては貰えないだろう。


なので、リオネルは互いにゴキブリ恐怖症を克服出来たと喜び合うしかない。


「ああ、お互いに虫が嫌いで、特にゴキブリが大嫌いというか、苦手ではなくなって、良かったな」


「うんっ♡ そうだよね! もう大丈夫! ゴキブリは相変わらず大嫌いだし、出来れば見たくないし近寄りたくない。当然! さわるなんて論外っっ!!」


「まあ、ね。俺もそうさ。進んで近づいたり見ようとは思わない。でもこの戦いで克服した、問題なく倒せるな!」


「うん、私もリオさんと同じ。容赦なく倒せる! 人に害為す奴は、悪即斬あくそくざんよっ!」


「ははは、人に害為す奴は、悪即斬あくそくざんか。ミリアンは怒らせると怖い女子だな」


「うふふ、そう! 私は怒らせると怖い女の子なのよ♡」


リオネルとミリアンが、そんな他愛もない会話を交わしていたら、


「リオく~ん!!」

「リオさ~ん!!」


と、背後に待機していたモーリスとカミーユが駆け寄って来る。


「す、す、す、凄いぞっ! リオ君っっ!! つ、つ、ついにき、君はあ! 全属性魔法使用者オールラウンダーとなったのだなっ!!」


とモーリスが言えば、カミーユも、


「師匠から聞いて本当にびっくりしたっすう!! 全属性魔法使用者オールラウンダーって、とても珍しいと思っていたっすけど! この広い世界でほぼ、たったひとりの術者っすか! た、たまげたっすう!!」


そんなふたりの言葉を受け、ミリアンも大喜びして、にっこにこ。


「わおっ!! もしかして!! 私の氷結発動が、リオさんの水属性魔法習得のきっかけになったのかなあ? どうしてなのか、全然分からないけど、すっごく嬉し~いっ!!」


しかし……

当のリオネルは、チートスキル『ボーダーレス』を習得した時よりも、衝撃は全然小さかった。


あの頃に比べれば、メンタルの強さも、

リオネル自身、遥かにビルドアップしているせいなのかもしれないが……


「モーリスさん、本当にごめんなさい」


「え? ごめんなさい? リオ君、何言ってる?」


「いえ、折角アドバイスして頂いたのに……俺、やっぱり直接、剣で攻撃出来なくて、コードネームGには遠距離攻撃魔法を使いましたから……謝ります」


「い、いいよ! そんな事は構わん! それよりも、リオ君は遂に! 全属性魔法使用者オールラウンダーとなったのだぞ!!」


「ああ、……そうか。俺って、とうとう全属性魔法使用者オールラウンダーになったのかあ。素直に嬉しいですよ」


いつもの通り、偉ぶらず、誇らず、驕らないの3拍子。


そんなリオネルの反応を見て聞いた、モーリス、ミリアン、カミーユは、


「反応うっす~い!」と苦笑し、大いに呆れたのである。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


リオネルの反応は薄すぎるくらい、薄かったが……

全属性魔法使用者オールラウンダーは、

この世界において、とんでもなく稀有けうな存在である。


リオネルは深く頭を下げ、改めて厳秘にする事を頼んだ。


もし他者に知れたら、王国に絶対に引き止められ、囲い込まれてしまう。


先日、ローランドに告げた通り、リオネルはこの広い世界を旅して、

いろいろな経験を積んで行きたいのだ。


加えて、もしも王都の父や兄達に上げた実績と現在の所在を知られたら……

大騒ぎされ、「急いで帰れ」と、実家へ呼び戻される事は確実である。


肉親の3人はこれまでの冷酷さが嘘の如く……

手の平を返したように、リオネルをちやほやするに違いなく、

結果、リオネルは家名を上げる為だけに、徹底的に利用されてしまうだろう。


ディドロ家からあっさりポイ捨てされた事を考えたら、そんな事は全く馬鹿らしいのだ。


そこまで事情を話さなくとも、モーリス、ミリアン、カミーユは、

リオネルの夢に希望、こころざしを良く知っている。

絶対口外しない、オープンにしないと約束してくれた。


安堵したリオネルは地下2階層の虫軍団と徹底的に戦った。

チートスキル『エヴォリューシオ』の効果で苦手意識が払しょくされており、

この戦いは自分がこれまで習得した魔法、スキル、特技が、

虫の魔物相手にどこまでどう通用するのかテストの意味も兼ねていた。


結果、改めて虫達に『威圧』は効果が薄い事を改めて確認した。


また火属性魔法は温度をあげ、一気に燃え尽くせば、モーリスが懸念した事はない事。

風属性魔法も攻撃力をあげれば、有効な事。

地属性魔法だけは、迷宮の破壊につながるし、生成した岩が通行の邪魔となる。

なので、使用を控えたが……


習得したばかりの水属性魔法各種だけでなく、風、地という3大属性魔法を駆使し、

大の苦手だったミドルコックローチ……

コードネームGことゴキブリも含め、思い切り、無双したのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る