第175話「完全覚醒! もう大丈夫だ」
カサカサカサカサカサカサ………
カサカサカサカサカサカサ………
く、来るっ!
こ、この音は!
奴らが来るっ!
奴らが来るんだあっっ!!
ビルドアップしたリオネルの聴力は、迫り来る『コードネームG』の足音をしっかり捉えていた。
アリに、ハチに、カマキリの各魔物と戦い……
何とか!
見て倒すまでは出来るようになった!!
しかし、コイツらを倒した上、もしもコードネームGを倒せば!
倒す事が出来たら!
俺は虫が嫌い! 苦手! という
よ、ようし!
再び気合を入れ直したリオネルであったが……
『コードネームGの魔物』を見て、仰天した。
虫が苦手とはいえ、他の虫は何とか正視出来た。
身体が動き、心は折れなかった。
しかし!
現れたコードネームGの魔物――『ミドルコックローチ』は何と!
体長が1m超!!
それが10体!!
並みのコードネームGでさえ見るのも嫌なのに!
魔物となれば!
その迫力は半端ではない!
大きい触角、そして大きい羽根付きの身体。
細いとげ付きの手足をすんごい速度で動かし、リオネルへ向かって来る!
つやつや! てかてか! ぴかぴか!
全身が茶色く妖しく光っている!!
そして奴らは……飛んだ!
ばたばたばたばた!
ぴらぴらぴらぴら!
生理的な嫌悪感で、リオネルの心がいっぱいになり、思わず身体が硬直した。
「ぐあっ!」
そして!
リオネルは、『金縛り状態』となる!
と、その時。
「リオさんっっ!!」
聞き覚えのある女子の声が、迷宮地下2階層の通路に響いた。
「あ! ね、姉さんっ!」
「ミリアン!」
驚く弟カミーユに、師モーリス。
後方で見守っていたミリアンが脱兎の如く、ダッシュ!!
リオネルに駆け寄って、硬直したリオネルの手をしっかりと握ったのだ!
硬直したリオネルの手に、ミリアンの柔らかな手から温かい体温が伝わって来る。
そして治癒の魔法も。
リオネルの硬直が徐々に解けて行く……
ミリアンは叫ぶ。
リオネルへ必死に呼びかける。
「リオさん、しっかり! しっかりしてっ!」
「ミ、ミ、ミリアン!」
「私も虫が嫌い! 大嫌いっ! だけど虫から逃げずに正面から戦うリオさんを見て、絶対に克服しようと思ったの!」
「ミリアン!」
「だって! このままじゃ! 私、虫がいっぱい居る、緑あふれたキャナール村で暮らせないからっ!」
「ミリアン!」
「大事な事だから、もう1回言うわっ! 私もリオさんと一緒よ! 虫が嫌いっ! 特にゴキブリが一番大嫌いっ! だからっ! 逃げずに、一緒に戦うっ! リオさんと一緒に虫を克服するわあっ!」
ミリアンはきっぱり言い放つと、彼女の得意な水属性魔法を発動する。
リオネルの手を握ったままで。
ミリアンから新たな魔力と波動が伝わって来る。
水属性術者の独特の魔力、そして兄と慕うリオネルを頼りに、
怖さに耐え、精一杯勇気を振り絞る、けなげな女子の熱い思いが。
「ビナー、ゲブラー! 水界王アリトンよ!
ミリアンは、ワレバットの街へ来てから、ギルドの講座を受講しながら、修行を積んでいたに違いない。
詠唱、発動、行使は迅速且つ円滑、見事なものであった。
放たれた魔法は『氷結』の魔法である。
効果はすぐに表れた。
びきびきびきびきびきびきびきびき!!
コードネームGを取り巻く周囲の大気が、音を立てて凍り始めたのである!
そして!
ばっりいいいいんんん!!!
粉々に砕け散った!
恐ろしい破壊力である。
「ビナー、ゲブラー! 水界王アリトンよ!
びきびきびきびきびきびきびきびき!!
ばっりいいいいんんん!!!
「ビナー、ゲブラー! 水界王アリトンよ!
びきびきびきびきびきびきびきびき!!
ばっりいいいいんんん!!!
ミリアンは、何回も氷結の魔法を撃った。
手をつないだリオネルには分かる。
氷結の魔法は結構な魔力を消費する。
まだ魔法使いとして、発展途上のミリアンの体内魔力はそう多くはない。
だがなりふり構わず撃っている!
必死に撃ち続けている!
前へ進む為に!!
お、俺も!
奴を!
コードネームGを!
目をそむけずに!
正面から向き合い、倒すっ!
倒すんだああっっ!!
傍から見れば、虫くらいなんだと思う方も居るかもしれない。
だが、虫嫌いにとっては、これから人生においてしかりと向き合わねばならぬ、
リオネルやミリアンにとっては、『虫の克服』は大きな問題なのだ。
……リオネルの心がミリアンの勇気に突き動かされ、心の叫びを!
決意を発した、その瞬間!!
チャララララ、パッパー!!!
リオネルの心の中で、あの独特のランクアップファンファーレが鳴り響き、
『内なる声』が淡々と告げて来る。
リオネル・ロートレックは、
チートスキル『エヴォリューシオ』『見よう見まね』の効果により……
水属性魔法『氷結』を100%習得しました。
『風弾』『風矢』『炎弾』から派生し『水弾』『氷矢』『氷弾』を、
『風壁』『火壁』から派生し、『水壁』『氷壁』を100%習得しました。
習得したチートスキル『ボーダーレス』のリミッターが解除、完全に開放され、
たったいま、リオネル・ロートレックは、
4大属性全ての魔法を習得しました。
内なる声はまだまだ続く。
リオネル・ロートレックは、規定値に達し、
『レベル17』に到達しました。
チートスキル『エヴォリューシオ』の効果により、
身体能力、五感が全般的に大幅アップしました。
体内魔力が大幅に増量しました。
魔力回復力が大幅にアップしました。
魔法攻撃力が大幅にアップしました。
物理攻撃力が大幅にアップしました。
対魔法防御力が大幅にアップしました。
対物理防御力が大幅にアップしました。
……弱点『虫嫌い』が解消されました。
内なる声の最後に通達を聞き、リオネルは心の中で苦笑。
そして感嘆もする。
す、すげーやっっ!!
『エヴォリューシオ』!
能力をビルドアップするだけじゃない!
弱点まで……消しやがったぜ!
リオネルが内なる声に覚醒を告げられていた一方で、
水属性魔法『氷結』を撃ち続けていた、ミリアンの体内魔力が限界に達してしまう。
これ以上の魔力消費は、生命に危険を及ぼす。
さすがに、ミリアンは魔法を撃つのをやめた。
「ううう、もうダメ、限界! これ以上魔法を使えない」
心身に疲れを見せるミリアンだったが……
リオネルの手を握った彼女の手が「きゅっ」と優しく握り返される。
「リ、リオさん!」
ミリアンが驚いて見たリオネルは柔らかく微笑んでいた。
「待たせたな、ミリアン」
「リオさん……」
「もう大丈夫だ。残ったゴキブリどもは、俺が片付ける」
言い切ったリオネルは、ミリアンの手を再び「きゅっ!」と優しく握ったのである。
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