第165話「機を逃さず学習」
「うふふっ、私ったら! ローランド様のお
頬を紅く染め、エステルは照れている。
だが、リオネルは彼女の放つ心の波動で分かる。
ブレーズもゴーチェも、不動産部の職員マルセルも、
そしてこの業務部のエステルも皆、
深く尊敬していると。
「ではではっ! 今回、皆様にご依頼する案件のご説明を致しますっ!」
気を取り直して姿勢を正し、エステルは冊子をひとつ取り出した。
そして左右に開き、『見開きの形』にして、リオネル達へ見せる。
……冊子は地図である。
それも迷宮の地図らしい。
開かれたページの見出しには、第一階層と記載されていた。
ハッとしたリオネルが、やや上ずった声を発する。
「もしや、その地図……英雄の迷宮の、ですかっ!」
「ピンポーン! リオネル様、ご名答! これはあ、冒険者ギルド総本部発行、英雄の迷宮地図、公式版でっす!」
「あはは、エステル姉さん、「でっす」って、カミーユみたいな言い方っ」
「そうっす。それで、エステル姉さん、その地図がどうかしたっすか?」
「はあい! それをこれから、ご説明しま~っす。ひと通りお話ししますので、質問は後でお願いしま~っす!」
エステルの声に釣られ、リオネル達は全員、大きな声で返事をする。
ギルド総本部の応接室は、建築仕様と魔法で完全防音だから、安心である。
「「「「はいっ!」」」」
「この冒険者ギルド総本部発行、英雄の迷宮地図、公式版は、5年ごとに内容を更新し、再発行されま~っす!」
「「「「………………」」」」
「この地図は4年前に発行されましたあ。来年には新版が出まあす!」
「「「「………………」」」」
「新版を出すにあたって、毎回、現地で実地調査をしまあす!」
「「「「………………」」」」
「その実地調査依頼を、皆様に請け負って頂きま~っす!」
「「「「………………」」」」
「と、いう事でぇ、今回の依頼者は当、冒険者ギルド総本部で~す!」
「「「「………………」」」」
「現版の地図を基に、皆様にはじっくりと迷宮内の探索をして頂きぃ、ご確認の上、もしも変更があれば、現状ともにご報告をお願いしま~す!」
「「「「………………」」」」
「報酬は、金貨300枚で~す!」
「「「「………………」」」」
「お手間の割に、報酬は少額ですがあ、迷宮内で獲得した宝物や、討伐した魔物の討伐料もゲット出来ますからあ、トータルでそこそこの金額になると思いま~っす!」
「「「「………………」」」」
「依頼完遂リミットは、今日から5日後の開始から、45日以内で~っす。早く報告して頂いた場合、1日につき、金貨1枚が割り増しされま~っす! とりあえず以上で~っす! 後はご質問タ~イムう!」
エステルの説明がひと通り終わり……
リオネル達は、不明な部分を根掘り葉掘り、エステルへ尋ねた。
対して、エステルは懇切丁寧に答え、説明してくれた。
こうして
……エステルから依頼を受け、帰宅したリオネル達は、じっくりと作戦を練った。
各自が現版の地図を貰って、その日は全員が夜遅くまで……
地図の隅から隅まで読み込んだ。
そして、リオネルは約束を守り、
ローランドとの謁見の様子をシンプルに報告。
期待していると励ましてくれた事をモーリス達へ告げた。
対してモーリス達は大いに喜んでくれたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日……
英雄の迷宮――出発まで4日。
リオネル達は、買い物に奔走。
事前に連絡をしておいた事もあり、エステルが買い物に付き合ってくれた。
女子用商品の買い物にも付き合ってくれ、ミリアンが感謝したのは言うまでもない。
使い切ったり、不足していたもの。
必要だと思い、新規で購入したもの。
買い物は多岐にわたった。
水、食料、予備の武器防具、寝袋、肌着、タオル、魔法薬等々……
翌日は、ギルド総本部の訓練場でじっくりとフォーメーションのチェック。
英雄の迷宮に出没する魔物はほぼ判明しており……
無期限の公式依頼も、エステル経由で受諾した。
迷宮デビューするカミーユは、罠解除の訓練にも力が入っていた。
リオネルも王都で罠解除の基礎は習っていたが……
念の為と思い、しばらくぶりに、カミーユとともに訓練を受けてみた。
すると……ここでまたも!
お約束のイベントが発生。
チャララララ、パッパー!!!
リオネルの心の中で、あの独特のランクアップファンファーレが鳴り響き、内なる声が淡々と告げて来る。
チートスキル『見よう見まね』が発動しました。
技能『シーフ』初級を習得しました。
チートスキル『エヴォリューシオ』の効果により、
習得済みの『猫』の能力と『シーフ』初級から派生し、
特異スキル『忍び足』と『隠形』を習得しました。
かちゃ、かちゃ、かちゃ、かちゃ、かちゃ、かちゃ、かちゃ、かちゃ、
……ピーン!
かちゃ、かちゃ……ピーン!
「うっわ、リオさん、集中力すご! 宝箱の罠解除、すごいっすう!」
リオネルの巧みなピックさばきととんでもない解錠の速さに、カミーユも感嘆。
次いでふたりは、訓練場で、疑似罠の解除にも挑戦。
通路や壁に仕掛けられた、罠を察知し、仲間に報せ、解除するか、破壊するか、避けるかを訓練する。
ミスれば、雷撃を受けるという仕組みである。
アニマル軍団の危機回避能力に底上げされたリオネルの鋭い感覚は、
罠の9割以上に対応。
わずかなダメージしか受けなかった。
「リオさんって、本当にすっげ~つす! 俺、もっともっと頑張ろうっす!」
リオネルの結果を見て、更に感嘆し、決意を新たにするカミーユ。
……実際、英雄の迷宮ではケルベロスを呼び出し、先頭に立たせ、先行して貰う予定だ。
なんやかんや言いながら、カミーユのシーフとしての腕だって著しく向上している。
それゆえ……
シーフの訓練はリオネル自身にはさほど必要ないかもしれない。
しかし、機を逃さず学習に励むリオネルの向上心は、どこの誰にも止められなかったのである。
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