第164話「迷宮の伝説」

午後の講義終了後……

リオネルは、モーリス達3人、そしてエステルを入れ、ギルド総本部3階の一般応接室で打ち合せをしていた。


ちなみに集合した際、ローランドとの謁見についていろいろ聞かれたが、

「上手く行った。詳細は後で……」と告げて収めた。

自宅へ帰ったら話すつもりだ。


さてさて!

打合せの議題はといえば……

次の依頼内容について。


「このワレバットから、いずれ迷宮都市フォルミーカへ行くリオ君の為に、エステル殿へ段取りを頼んでおいたんだ」


「ありがとうございます!」


「リオ君、フォルミーカ迷宮はな、私も潜った事はある。とんでもなく広いし、深い大迷宮だぞ」


「ええ、その話は聞いた事があります。でもモーリスさんがご存じの事を教えてください。俺、全て吸収しますから!」


リオネルが行きたい3つの都市を上げた時……

王都で世話になった宿の主アンセルムから、フォルミーカ迷宮の話は詳しく聞いていた。


「うむうむ! フォルミーカ迷宮へ潜る前に、『迷宮』という空間がどういう場所なのか、リオ君は経験しておいた方が良いと思う。その上で、私が知りうる事を君に教えて行こう」


「ですね! 重ね重ね感謝です」


「それに今回の依頼受諾は、ミリアンとカミーユにも良き経験になると思った。閉所における敵の察知、つまり特異な場所における索敵の良い訓練になる。洞窟探索とはまた少し違うからな」


「うふふ、でも師匠! 少し怖いけど……私とカミーユは、師匠とリオさんの手ほどきで洞窟探索を経験しているじゃない。だから、今度は少し余裕があるわ」

「本当っす、姉さん。『迷宮探索』なんて、『俺もいよいよシーフだ』って感じっすよ」


「うむうむ、3人とも心の準備は出来たようだな。では、エステル殿、説明をお願いしたい」


「はあい、うけたまわりましたあ。では皆様にご説明致します。ご出発は5日後の予定、赴く場所はこのワレバットから、約15km離れた『英雄の迷宮』で~す」


『英雄の迷宮』……

こちらもアンセルムから話を聞いた事がある。


ソヴァール王国を建国したといわれるのは元々、一介の冒険者だったらしい。

彼はいわれる天才的な魔法と武技の才能を持つ大器であったという。


その天才も、リオネル同様に大器晩成タイプだった。

若き頃、その迷宮で懸命に修行……鍛錬した事から、

後世の人々からそう呼ばれ、定着した迷宮の名称が『英雄の迷宮』なのである。


『英雄の迷宮』は数ある迷宮の中では小規模の部類へ入る。

全10階層からなり、地下深くなるにつれ、構造も入り組み、出現する魔物のレベルも上がる。

また最低でもレベル10以上の潜行が推奨であり、レベル10未満は入場さえ禁止である。

魔法学校卒業したてのレベル『5』のリオネルなら、足を踏み入れる事は許されない。


そして『英雄の迷宮』の上部には、小さな町『ヘーロース』が造られており……

腰を据えて迷宮攻略に勤しむ探索者達の為の宿屋は勿論、武器防具屋、魔法薬を含めたポーション、薬草を扱う薬屋、買取等も行う道具屋、衣料品店、居酒屋ビストロ、食料品店等々、小さな市も立つ。


そして、この迷宮の町『ヘーロース』も、ワレバッドの領主ローランド・コルドウェル伯爵が管理官を置き、統治しているのだ。


そんなリオネルの知識と、エステルの話はほぼ同じ内容である。


エステルは更に、話の核心へと入って行く。


「昔から、英雄の迷宮はあらゆる身分の人々が挑む修行の場として、凄く人気があり、発展して来ました。それは単に、建国の開祖、英雄が修行したという『いわれ』だけではありません」


「「「「………………」」」」


全員が無言で、……エステルの『話』を聞いている。


「英雄の迷宮は、小規模な割に構造も凝っていて、出現する魔物も低レベルから高レベルまでバラエティーに富み、そこそこの宝物もゲット出来るからです」


「「「「………………」」」」


「そして、きわめつけは、迷宮最下層の地下10階へ、たどり着いた者だけがお会い出来る可能性があるという伝説があるからです」


リオネルは、エステルの言う『迷宮の伝説』をアンセルムから聞いていた。

しかし黙って、エステルの話の続きを待つ。


「「「「………………」」」」


「皆様も、その伝説をご存じかもしれません。……否、伝説ではありませんね……」


「「「「………………」」」」


「建国の英雄が死して、既に約1,000年……長き歴史の中で、何と! 限られた何人かが『英雄』にお会いしております」


「「「「………………」」」」


「……実はそのおひとりが、ローランド・コルドウェル様なのです」


ワレバッドの領主ローランドが建国の開祖の亡霊に出会った。

そして……どうなったのだろう。


「「「「………………」」」」


「そう! 建国の英雄、ソヴァール王国の開祖、アリスティド・ソヴァール様の亡霊に……ローランド様は、お会いしたのです。腹心のブレーズ様とともに……」


「「「「………………」」」」


「この事実は、おおやけにされてはおりません。冒険者ギルド総本部でも、ローランド様以外にはブレーズ様、そして一部の者しか知りません」


「「「「………………」」」」


「ですが……今回の依頼をするにあたり、皆様には『特別な厳秘の話』としてお伝えするようにと、ローランド様のご指示がありました」


「「「「………………」」」」


「ローランド様は、アリスティド様の亡霊とお話になった内容は明かされませんが、アリスティド様は、出会った方に進むべき真の道を示してくれると伝えられております。そして特別なスキルを授けて頂けるとも伝えられております」


「「「「………………」」」」


「ローランド様は王国騎士団長を辞され、一介の冒険者となってから実績を積まれた後、英雄の迷宮にて、アリスティド様の亡霊に出会われ、自身の進むべき道を示して頂いたとおっしゃりました」


「「「「………………」」」」


「ローランド様は、開祖アリスティド様の亡霊にお会いになった直後、ずっと求められていた王国のご要望を遂に受け入れ、王国貴族へと戻られ、ご自身からワレバッドのご領主になりたいと申し出られたのです」


「「「「………………」」」」


「以来、ローランド様は、冒険者達を、難儀する数多の王国民の為に尽力する存在に変えたいと腐心しておられます」 


「「「「………………」」」」


「冒険者達を難儀する王国民の為に尽力する存在にする……それは何故なのか……様々な場所で難儀する方々を助けていらした皆さんは、ご実感されているかもしれません」


「「「「………………」」」」


「良く言えば、難儀する王国民達を助けようと、救おうとする騎士、兵士の手が絶対的に足りない」


「「「「………………」」」」


「しかし! 実は、王族、貴族、領主以下、『戦う者』達は、いろいろな事情から……迅速に王国民をケアしようとしない……そのような厳しい現実があります」


「「「「………………」」」」


「そのような現状を打破しようと……ローランド様は冒険者達を活かし、難儀する王国民達を支えようと、ワレバッドのご領主となり、冒険者ギルド総本部の総マスターへ、おなりになったのです」


エステルは、そこまで話すと、大きく息を吐いたのである。

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