第166話「思い出作り」
1,000年と少し前に生きた、ソヴァール王国建国の開祖たる英雄、
アリスティド・ソヴァール……
『迷宮の伝説』とは……
そのアリスティドの亡霊が、『英雄の迷宮』最下層地下10階に現れるという、
今もなお伝わる
これまで数え切れない者が、英雄に会いたいが為に、
『英雄の迷宮』に挑んだのだが……その伝説を実際に経験した者は極端に少ない。
苦労してわざわざ最下層10階へ赴いても、英雄アリスティドの亡霊に遭遇する事は殆どないからだ。
万が一以下の低確率で運良く、アリスティドに出会えた者は、
己の進むべき真の道を示され、特別なスキルを授かるとも伝えられている。
その数少ないアリスティドの亡霊に遭遇したうちのひとりが、
先日リオネルが謁見したワレバットの領主にして、
冒険者ギルド総本部の総マスター、ローランド・コルドウェル伯爵なのである。
ワレバットから約15km離れた、
『英雄の迷宮』を抱く小さな町『ヘーロース』……
ギルド職員エステルと打合せをした4日後の事……
リオネル達4人の姿は、この町に在った。
ここまで馬車で来て、今夜は宿で一泊。
明日の朝から4人は『英雄の迷宮』探索へ赴く事となる。
依頼は、5年に1回改訂されるという、冒険者ギルド総本部発行、
英雄の迷宮地図の公式版発行に際し、内容確認の為の実地調査である。
現版の地図を基にじっくりと探索をし、確認の上、もしも変更があれば、
現状ともに、冒険者ギルド総本部へ報告を入れるのである。
さてさて!
『ヘーロース』の町は、雰囲気だけでいえば、
砂こそないが、南方の砂漠の国に見られる『オアシス』という趣きがある。
店舗を兼ねた家屋もそこそこ並んでいるのだが……
簡易なテントのみで日光、雨風をしのぎ……
ゴザや敷物を広げ、店主がどっかと真ん中に座り、
商品をむきだしで置いた露店が圧倒的に多いのだ。
そう、『小さな商店街と巨大な市場』というのが、
迷宮の町『ヘーロース』の風景なのである。
このヘーロースへ赴く前、買い物は充分した。
それゆえ、追加の購入品はないのだが、
せっかく来訪した初めての町。
4人は店舗や市場をひやかし、不足していたモノを思い出し、追加購入したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
独特な迷宮の町の雰囲気を感じ、
特にミリアンとカミーユは「うきうき」しているらしい。
「リオさん」
「リオさん」
「何だい、ミリアン、カミーユ」
「迷宮……って、私達姉弟は生まれて初めてだけど、洞窟探索に準じるやり方で構わないのよね?」
「そうっす! 姉さんと俺はリオさんと一緒に洞窟へは2回も入っているっす。きっとその経験が役に立つはずっす!」
やはりミリアン、カミーユと洞窟探索をしておいて良かった。
迷宮に対してのプレッシャーが多少軽減されている。
当然、リオネルもそうだ。
「ああ、俺もそう思うよ。けれど、ふたり同様に俺も迷宮は初めてだから、モーリスさんから手ほどきして貰おう、ね、モーリスさん」
ここでリオネルはモーリスを立て、話を振る。
頼られる事が大好きな元
「おう! 任せておけ! フォルミーカ迷宮だけじゃない、当然この『ヘーロース』にも私は来ている。それも何度もだ」
ここはさすがに長年の付き合い。
ミリアンとカミーユはおだてにおだてる。
「うわ! 力強いお言葉! 頼もしい! さすが師匠! 最高よ!」
「師匠! 俺、心から頼りにしてるっす! 師匠は最強の
「おお、お前達、そうか、そうか!」
そしてリオネルも、
「モーリスさん、俺がフォルミーカ迷宮へ行くなんて言ったから、この依頼を受けて頂きました。お気遣い頂き、ありがとうございます。感謝しますよ」
「うむっ! 私達と居る時に、リオ君は迷宮をしっかりと体感し、対策を立てておいた方が絶対に良い。迷宮の独特の雰囲気や勝手に慣れておけば、その分リスクは減るからな」
「おっしゃる通りです」
「うむうむ! よし! とても気分が良くなって来た。そろそろ昼飯だ。私がごちそうしよう! そこの露店で3人とも、何でも好きなものを食べて構わないぞ!」
へっ、ちょろいぜ!
という、ミリアンとカミーユの心の声が聞こえて来るような展開だが、
この流れだと、モーリスへ「たかる」展開になるのは必然である。
「わお! ラッキー! 私、ミートパイにパテが良い! サラダに柑橘系フルーツも! 食事の後は、さっき見かけた雑貨屋さんへ行きたいっ!」
「俺は、牛、豚、羊に鳥、そしてちょっち贅沢して、猪に鹿も! ジビエの串焼き肉オンパレードっす! それと俺も欲しいものがあったっすう!」
「うむうむ! もろもろOK! リオネル君はどうだ?」
どうだ?と聞かれて、カッコをつけたり、変に意地を張って断ったら角が立つ。
ここはミリアンとカミーユ同様、甘える一択である。
「じゃあ、俺は揚げ肉、ゆで肉各種で、冷たい果汁も! 俺も食後は魔道具屋さんに付き合ってください」
「おう! 全てOKだぞ! では! 打ち合わせを兼ねて全員でランチにしよう!」
「「「は~いっ!」」」
一見、豚もおだてりゃ、木に登る感がなくはない。
「乗せられて、良い気分になったモーリスが大盤振る舞い!」という雰囲気だ。
しかし……
実態は、違っていた。
いずれ……フォルミーカ迷宮へ旅立つリオネルとの別れを惜しみ、
4人全員による『思い出作り』をする為なのだ……
わざとおだてに引っかかったモーリスが、明るく振舞っているのを、全員が気付いていたのである。
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