第145話「本当に終わり良ければ総て良し」
……ミリアンにしつこく言い寄っていたナンパ冒険者男子がリオネルの威圧によって気絶し、何とか事件は収束した。
ミリアンとカミーユは、リオネルへ「ありがとう」と感謝の意を告げてから、
急ぎ、エステルへ駆け寄った。
「エステル姉さん、かばってくれて本当にありがとお! 大丈夫?」
「けがはないっすか、エステル姉さん、ミリアン姉さんを守ってくれて、大感謝っす!」
ミリアンとカミーユが礼を言い、気遣って心配するが、
エステルは「平気だ!」と晴れやかに笑っていた。
「全然、ノープロブレム! 大丈夫だよぉ! それよりも、ウチの警備員を呼ぶからねぇ!」
リオネルの回復魔法『全快』により著しく元気になったエステルが、手を振って、
ギルドの警備員へ通報。
すっ飛んで来た元冒険者の屈強な警備員は、すぐに治癒士を呼び、
治癒士は「ナンパ冒険者男子が気絶しているだけ」だと診断。
その間、警備員は被害者のエステルとミリアン、そしてリオネルとカミーユから事情を聞いた。
そもそも冒険者男子がミリアンにしつこくつきまとった末、制止しようとしたエステルの注意と警告を完全に無視。
暴言を吐き、暴力をふるった事。
エステルを助け、かばったリオネルは先に手出しされて殴られそうになり、
「防いだだけである事」……等々の事実が明らかになり……
相手の冒険者男子も外傷がない事から、完全に正当防衛が認められ、
リオネル達全員に『おとがめ』は一切なしとなった。
警備員は、ワレバッドの衛兵を呼び……改めて事実確認をし、
衛兵は警備員と同じ判断をして、気を失ったままの冒険者男子を抱え、連れて行った。
容疑は、現行犯で、度重なるつきまといのストーカー行為、
そして同じく現行犯で、ギルド職員エステルからの制止警告を無視、
及び同職員への暴行である。
冒険者男子は入牢し、その後は、裁判にかけられるらしい。
総マスターを兼務するワレバッド領主ローランド・コルドウェル伯爵の方針で、
冒険者のコンプライアンスは特に厳しく、違反者には厳罰が処されるという。
一般市民が「冒険者は無法者」という悪いイメージがつくのを防ぐ、
『抑止力』にする為……という事だ。
今回は職員エステルへの暴言と暴行があったので特に『重罪』となるようだ。
ワレバッドの法律にも詳しいエステル曰はく、
更には冒険者資格永久はく奪の上、ワレバッドからは追放され、永久の出入り禁止……となるのは確実との事。
また街、村、場所を問わず、再度ミリアンへ『故意に接近した事』が判明したら……
即座に逮捕され、今度は辺境地への10年強制労働になる可能性が高いという。
想像以上に重い処罰がされると聞き、リオネル、ミリアン、カミーユは驚く。
リオネルが言う。
「エステルさん、ローランド閣下……そこまで徹底しているんですね」
「そりゃ、そうです。閣下とサブマスターは普段から冒険者に対するイメージが良くなるよう腐心されていますから。模範となる冒険者は称え、表彰し、有能な者を雇用するほどです」
「な、成る程……」
「逆に違反者、犯罪者には相当厳しいですよぉ。まあ犯罪者に関しては、冒険者うんぬんは関係ないですけどねぇ」
「そうですか。今回の事件……明日は我が身ですね……あいつを『反面教師』にして気をつけないと……」
考え込むリオネル。
そんなリオネルを見て、エステルはミリアンとカミーユにも元気良く言葉を返し
「はいっ! 皆様もよ~く気をつけてくださいね」
更に助けて貰った礼も告げる。
「それとリオネル様。ミリアンさんだけでなく、私も助けてくださり、手当もして頂き、本当にありがとうございましたあ!」
「そんな! 当たり前だし、こちらこそミリアンをかばって頂き、エステルさんには感謝しています。俺からもお礼を言わせてください。ありがとうございます!」
リオネルが恐縮し、丁寧に礼を言えば、エステルは悪戯っぽく笑う。
「うふふ、当たり前の事をしただけですよぉ! それより! リオネル様が私にかけた回復魔法は上位の魔法、そして容疑者を威圧し、無傷で気絶させたのは特別なスキル……ですよねぇ?」
さすがに、サブマスターのブレーズが見込んだ優秀な職員である。
エステルは優しく世話好きなだけでなく、勇気と正義感を持ち合わせる。
業務、法律にも精通、そして鋭い観察力があるのだ。
対してリオネルは、ブレーズやモーリスが突っ込んだ時と同様、
自分が習得した魔法やスキルに関し、曖昧に答えるしかない。
「え、ええっと……まあ、そんなところです」
「ご安心をっ! 今回の件は職務上、他の事案とともにサブマスターとクローディーヌへ報告は致しますが、必要以上に吹聴などは致しませんから」
「エステルさん、いろいろご配慮くださりありがとうございます」
「いいええ! とんでもないっ! 私は皆さんの担当だし、当然ですよぉ!」
エステルは、にっこり笑い、更に言う。
「念の為に申し上げますと、リオネルさんがこれまでにおやりになった事は、サブマスターとクローディーヌとは共有しております。難儀する人々を助ける事……冒険者以前に、人として、とても素晴らしいと、私は思います」
「あ、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ、深く感謝です! 今回の件も手際が鮮やかで、とっても素敵でしたよ♡ リオネル様は凄い魔法とスキルをお持ちだっていう事を、私は身をもって実感しました」
エステルから褒めに褒められ、照れるリオネル。
「励みになるお言葉を頂き、嬉しいです。改めて頑張りたいと思います」
「リオさん、最高! 大好きぃ♡」
「やっぱ、リオさんは俺の最終目標っすよ!」
ミリアンとカミーユも、誇らしげにリオネルを称えた。
ふたりにとってリオネルは、とんでもなく強いヒーローであり、
頼れる優しくて気配りが出来る兄貴分でもあるのだ。
そんなこんなで、だいぶ遅くなってしまった。
モーリスは自宅で3人の帰りを待ちわびているに違いない。
「じゃあ、エステルさん、俺達そろそろ失礼します。エステルさんの事はモーリスさんにも良く伝えておきます。お気を付けてお帰りください」
「はあい! ではまた明日、宜しくお願いしますねぇ!」
「さよなら! エステル姉さん!」
「エステル姉さん! また明日、宜しくお願いしまっす!」
いろいろあった日ではあったが……
本当に終わり良ければ総て良し……
リオネル、ミリアン、カミーユは意気揚々と帰途についたのである。
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