第146話「人生の激変」
午後5時30分過ぎ……
ギルドの講座を無事に受講後、ナンパ未遂事件、事情説明、衛兵の取り調べ等々、
いろいろあった日ではあった。
だが……
エステルへ改めて丁寧に礼を告げ、リオネル、ミリアン、カミーユは、
冒険者ギルド総本部を後にし、陽が落ちたワレバッドの街を歩き、家路についていた。
夜の街は昼間とはまるで顔が違う。
魔導灯の街灯が点灯。
街は魔力の淡い光に照らされ、とても幻想的だ。
昼間のランチタイムとは全く趣きの変わった
早くも酔客の喧騒が漏れていた。
リオネルを先頭にし、ミリアン、最後方にカミーユという並びで、3人は歩いて行く。
しかし一度ある事は二度あり、三度もある。
可憐なミリアンは、行きかう男子達から、お誘いの声が絶えない。
つまりナンパの嵐に見舞われていた。
リオネル、カミーユが居てもおかまいなし。
凄まじい女子への執念である。
「ねえ、可愛い彼女ぉ、俺と遊びに行こうぜぇ~」
「良い店、知ってるんだ、来いよぉ~」
「何でも好きなモノ買ってやるぞ~」
「……………」
ミリアンの実力ならば、以前カミーユが言っていた通り、
そこいらのナンパ男子など、撃退可能だ。
しかしミリアンは先ほどのナンパ冒険者男子に対してのリアクションと全く同じ、
無言を貫き、『完全無視』であった。
何故なら、暴力沙汰に及んだり等の、
先ほどエステルの話を聞いたから尚更だ。
そして、ミリアンは「ぴったり」リオネルにくっつき、
ツンツンと後から、リオネルの背をつつく。
ミリアンはエステルの話を聞き、認識していた。
リオネルが『威圧』のスキルを使ったと。
今までミリアンは、リオネルがゴブリンを威圧した光景を散々、目撃している。
それが人間にも通じると、更に改めて認識したのだ。
下手に手を出すと過剰防衛になるが、にらみ怯えさせるだけの『威圧』ならば、
何も問題はないと考えたようだ。
対して、リオネルもミリアンの意図を理解。
迫るナンパ男子達を威圧で次々に撃退して行く。
と、いっても傍からみたら、きりっと鋭い視線を放つだけなので、
誰とも、暴力沙汰のトラブルになる事はない。
つまり、衛兵を巻き込む大事件になる事もない。
「ぐわ!」
「ひえ!」
「わわわ!」
リオネルが習得した万能スキル『威圧』レベル補正プラス25は、
一部の敵を除き、ほぼ有効である。
リオネルはまだ『レベル16』ではあるが、補正プラス25がかかっている。
だから『レベル40』以下の『敵』に有効なのだ。
それに『レベル40』を超えるほどの『大物』は、相当誇り高い。
なので、街中で「へい、彼女」とナンパをするほど、自分を低く見せないのではという想定もある。
つまり、威圧のスキルは魔物を押さえるだけでなく、ほぼ完ぺきなナンパ撃退技なのである。
と、いう事でミリアンが「ぴとっ」と、リオネルにくっつき、甘えて来る。
「うふ♡ リオさん、ありがと♡」
「いや、お安い御用だけど……モノ凄いな」
「うん、最近はさ、頻繁にナンパされるようになったよ」
「そうかあ……俺はそういう事、皆無だしなあ」
リオネルは以前、ナタリー達王都支部ギルド女子職員軍団に、送別会でちやほやされた事はある。
だが、絶対に『お情け』だったと思っている。
「リオさん、カッコいいから、そのうち絶対来るってモテ期がさ!」
「だと、良いけど……あ、あいつ」
すぐ後に気配がないので、リオネルが振り向くと……
さすが美貌の姉ミリアンそっくりな、双子のイケメン弟。
カミーユは遥か後方で、何人もの女子達に逆ナンされ、捕まっていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
逆ナン女子達からようやく解放され……
カミーユは隊列に復帰。
再び3人は、リオネル、ミリアン、カミーユの順番で歩いていた。
「いやあ、参ったっす。キャナール村もそうでしたっすけど、人生初のモテ期っす!」
「カミーユ、あんた、鼻の下すっごく伸びてたよ」
「姉さんこそ、ナンパの嵐だったじゃないっすか」
ミリアンとカミーユの『不毛な言い争い』が始まったので、
リオネルが間へ入る。
「まあまあ、ふたりとも青春してるなあ……って事で」
リオネルの声には、「少し羨ましいぞ」というトーンが感じられた。
すると、ふたりは申し訳ないと思ったのか、リオネルを慰める。
「さっきも言ったけどぉ、リオさんだって、いずれモテ期が来るって!」
「そうっす! いつかは来ると思うっす! 約束は出来ないっすけど」
「あはは、もう良いって、慰めなくても、俺は『彼女なし』のぼっちで、力強く生きて行くから」
ここで気の利くふたりは話題を変えてくれる。
今、3人は『職人通り』を歩いていた。
リオネルが見やれば、いくつもの店が軒を並べている。
鍛冶屋、石屋、仕立て屋、染物屋、金銀細工屋、その他……
時間が時間なので、半分以上閉店しているが、看板はどのような商売をしているのか、分かりやすい意匠のモノが多い。
カミーユも様々な商店を見て、思うところがあるらしい。
「姉さん、気が早いかもしれないっすけど、俺、冒険者やめた後の事を考えているっす」
ミリアンも、笑顔で大きく頷く。
「うん! 私もそうだよ!」
「キャナール村で農民……が基本だとしても、何か別に、生きる
「それも、激しく同意! カミーユは手先が器用だから、職人さんとかはどうなの?」
「実は興味あるっす。でも商人も面白いと思っているっす。姉さんは?」
「ええっと、私は何か、おしゃれな飲食店をやりたいなあ……」
「飲食店っすかあ……それも良いっすね!」
「でしょう? 小村のキャナール村で商売として、飲食店が成り立つか、どうかだけどね……リオさんは何か、考えてる?」
ミリアンから尋ねられ、リオネルは記憶をたぐった。
「俺かい? ……そういえば、周囲が皆、魔法使いだったから、子供の頃から魔法使いになる以外の事は考えていなかったなあ……」
「でもでも! もうリオさんには想定外だった素敵な未来になってるよ! 今やランクAを目指す、一流ランカー冒険者なんだもん、まさに『人生の激変』だよね♡」
「そうっす! それにリオさんは何でも出来る人だから、引退後の選択肢は多いっす。もしも俺がリオさんだったら、どうなるか先が分からない、激変する人生を想像して、わくわくしまっすよ」
「ああ、そうだな、ミリアン、カミーユ。まだ俺は、先の事を具体的に考えてはいない。けれど予定は未定。人生の激変を楽しみにして、大きな夢と希望を持って生きて行くよ」
そんなこんなで、家へ到着した。
遅くなったから、モーリスは心配しているに違いない。
リオネルが魔導鈴を押し、
リンゴン、リンゴンと鳴る中……
3人は、
「「「ただいまあ!!」」」
と大きく声を張り上げたのである。
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