第144話「嬉しい誤算」

『元・同級生ざまあ事件』があって後……

リオネルは『召喚魔法』と『付呪魔法』の講義を受け、無事に終了。


ギルド総本部本館1階フロアのロビーで、ミリアンとカミーユを待っていた。


「リオさ~ん♡」

「リオさんっ!」


「本日も、無事に完了致しましたよ、リオネル様」


やがて……

講義が終了したらしく……

担当職員のエステルに連れられ、ミリアンとカミーユが1階フロアに姿を見せた。


「エステルさん、お疲れ様です。いつもありがとうございます! ふたりもお疲れさん、じゃあ帰ろうか」


リオネルがエステルへ礼を告げ、ミリアンとカミーユへ帰宅を促すと……

ふたりは、


「待って!」

「お願いがあるっす!」


「お願い?」


「うん! リオさんが以前言っていた、ギルドの掲示板が気になって」

「そうっす! リオさんから、いろいろ雑用の依頼もあると聞いたっす。実際に見てみたいっすよ」


すると世話好きなエステルが、


「うふふっ、そういう事なら一緒に行きましょう!」


「わお! エステル姉さんありがとお♡」

「ありがとうっす! リオさんも行くっすよ!」


という事で4人は、王都支部と同じ仕様で、更に大型の掲示板前へと移動する。


『ラッシュ』前で徐々に人が増え始めた業務カウンターとは対照的に、掲示板前は閑散としていた。

この時間に依頼を求める者は殆ど居ないからだ。


冒険者ギルド総本部の掲示板は王都支部と同じく、雑多な依頼であふれていた。


ミリアンとカミーユが、ランクE以下の依頼書を見るのを眺め、リオネルは懐かしくなる。

少し前には自分もこうやって依頼書を見ていたからだ。


「わお! リオさんの言う通りだよ。薬草、鉱石の採取や、各所への荷物運搬関係が多いいねぇ!」


「本当っす! 冒険者への依頼と思えない仕事もたくさんっす! 掃除、洗濯、メッセンジャー的なお使い、庭の草むしり、犬の散歩。これなら孤児院でやっていた仕事ばっかり、楽勝っすよ!」


「まあ……モーリス様、リオネル様という凄腕のランカーがご一緒だと、こちらの初心者向きの依頼は、ほぼ受諾しないですけどねぇ!」


と、その時。

リオネルは、こちらへ近付いて来る気配を感じた。

ミリアンへ、強く興味を持っている波動を放っていた。


やって来たのは20歳を少し超えたくらいの冒険者男子である。

薄っぺらな雰囲気の男子であり、馴れ馴れしい態度で、ミリアンへ呼び捨てにし、

声をかけて来た。


「おう、ミリアン、こんなところに居たのか!」


「……………」


対して、ミリアンは返事もせず、完全に無視である。


リオネルは小さな声でカミーユへ尋ねる。


「コイツ、誰だ」


カミーユも声を落とし、リオネルへささやく。


「同じ講義を受けたアホなナンパ男っす。姉さんが完全無視しているのに、しつこいっすよ。俺とも、マジでケンカになりそうになったっす」


「えらく迷惑な奴だな」


「本当っす、大迷惑っす」


「よし、じゃあ俺が追い払おう」


「リオさん、ぜひお願いするっす。次にケンカしたら、俺、絶対にコイツをぶっ殺してしまうっす」


と、その時。

エステルが割って入る。


「貴方、やめなさいよ。ミリアンさん、嫌がっているでしょ! それにギルド内施設ではナンパは厳禁だよ! あんたもギルド所属の冒険者なら知ってるでしょ? 厳罰になるよ!」


「うっせぇ、そんなの知るか! 無関係のおばさんは引っ込んでろや!」


「こら! 誰がおばさんよぉ! 私は、まだ25歳だっ!」


「俺より年上は、全員おばさんなんだよ! どけえ!」


冒険者男子はエステルを突き飛ばした。


エステルは突き飛ばされ、床へしりもちをついてしまった。

苦痛にうめく。


「いったあ!」


まずい!


リオネルは、ぱぱぱぱぱ!と思考を働かせる。


「カミーユ、ミリアンを守れ。俺はエステルさんを助ける!」


「はいっす!」


カミーユは「打てば響け!」とばかりに「さっ!」と動き、

冒険者男子に対し、両手を広げて立ちふさがった。

姉ミリアンの前で盾となる。


冒険者男子が吠える。


「ごら! まあたクソ弟のお出ましかよ! 邪魔すると、今度こそぶっ殺っすぞぉ!!」


しかし、カミーユはひるまない。


「OKっす! やれるもんなら、やってみろっす!」


その間、リオネルもさっと動き、エステルを抱き起こす。


「大丈夫ですか」


ちょうど良い。

習得したばかりの上位回復魔法『全快』を行使だ!


全快っ!


無言で念じると、例によって、無詠唱且つ神速の魔法発動。

リオネルから放たれた魔力がエステルを包む。


効果はすぐに表れ、エステルは驚愕する。


「え!!??」


「エステルさん、立てますか?」


「は、は、はいっ!! な、何故か!? こ、心が穏やかで!! か、身体中に力がみちあふれていますよっ!!」


エステルは叫ぶように言うと、すっくと元気良く立ち上がった。


そしてにんまりと笑う。


「さすが! リオネル様! 私に使いましたね! 上位の回復魔法!」


「ははは、良かったです。……さってと」


エステルの問いかけを曖昧に肯定したリオネル。

「ずいっ!」と出て、カミーユの前に立つ。


「おい、あんたが誰だか知らないが、ウチの妹につきまとうのはやめて貰おうか?」


「はあ? ミリアンが妹? てめえが兄貴だとぉ! 全然、似てねえじゃねえか! 引っ込んでろ、ごらあ!」


冒険者男子は相当短気のようだ。


いきなり!

思い切り拳をリオネルの顔面へ放って来た。


しかし!

リオネルの『動体視力』は獲物を捕らえる猫と大鷲の能力を得ており、超ビルドアップ!


男が放った拳を、差し出した左の手のひらで、余裕をもって受け止める事が出来た。


「ぱあん!」


左のてのひらから、乾いた音がした。

ほんのわずかな衝撃はあったが、痛みは……全くない。

様々な動物の能力のうち『頑健さ』も何かから受け継いだようである。


リオネルはそのまま男の拳を「ぎゅっ!」と握る。


「はははは、いきなり暴力はいけないなあ……」


「いたたたたた! く、く、くそっ! は、放せっ! 放しやがれっ! ごらあっ!」


ここで内なる声がささやく。


男を見据えよ!

にらみつけろ!と……


リオネルは『内なる声』に従い……


ぎんっっ!!!


という擬音が、ぴったり来るくらい、

リオネルは冒険者男子を「びしっ!」と見据え、にらみつけた。


瞬間!

底知れない地獄の深淵のような恐怖が男を襲う!!


「ひえええええええっっっっ!!!???」


「二度とウチの『妹』につきまとうな……今回だけは許してやる」


「は、はい~! あ、あ、あ、ありがとうございますぅ!」


「だが! お前がわざと視界へ入って来たら……次は、ないぞ」


「わ、わ、わ、分かりましたあああ!!」


冒険者男子は叫ぶように言うと「がっくり」と脱力し、崩れ落ちた。


リオネルに拳をつかまれたまま、呆気なく気絶したのである。


そして、リオネルにまたも『お約束のイベント』がやって来た。


チャララララ、パッパー!!!


リオネルの心の中で、あの独特のランクアップファンファーレが鳴り響き、内なる声が淡々と告げて来る。


チートスキル『エヴォリューシオ』の効果により、

習得済みのギフトスキル『ゴブリンハンター』の所持効果、

『ゴブリン威圧』から派生、進化し……

万能スキル『威圧』レベル補正プラス25を習得しました。


おお、やった!

ゴブリン限定の威圧が、万能タイプになった!?


……試してみなければいけないけど、俺は『レベル16』だから、

『レベル40以下の敵』に対し、『威圧』が有効かもしれないっ!!

これで、いろいろとすっごく便利になるぞ!!


まさに『嬉しい誤算』である。

ナンパ冒険者男子から、ミリアンとエステルを救ったら、

『とんでもないおまけ』が付いて来たあ!!


リオネルは、気絶したナンパ冒険者男子を片手でつかんだまま、

思わず「にこにこ!!」してしまったのである。

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