第141話「使い魔の正体」
リオネルが呼び出した使い魔『灰色狼風の犬――ケル』は、念話でしゃべった上、
轟く咆哮でグールを「スタン!」させた上、凄まじい青き猛炎を吐き、
低級悪魔グールどもを一気に塵にしてしまった。
そして「ふん」とばかりに鼻を鳴らし、堂々と座った。
体長2mを超える巨大な灰色狼風という際立った体躯だけでなく……
どう考えても、ただの犬、そして使い魔レベルではない。
仰天したのは、やはり超臆病……否!
とても慎重で用心深い、『気にしい』な、カミーユである。
「な、な、何なんすかあ! リ、リ、リオさんの召喚した犬う!!??」
「おい、カミーユ、犬ってストレートに言うな」
「はあ? じゃあ何すかあ!? どう言えば良いんすかあ!!」
「ちゃんと名前で呼べ、教えておく、ケルだ。まあ、犬って言っても使い魔だけど、な……」
「ち、ち、ち、違うっすよぉ! ぜ、ぜ、絶対使い魔なんかじゃないっすよお!」
「ああ、まあ、そうだろうな」
「だってだってえ! あ、悪魔グ、グールを! ただの使い魔が、吠えてスタンさせたりぃ!! あ、青い炎を『ごおっ』と吐いて、跡形もなく燃やしたりしないっすう!!」
「おう! 多分ケルは、ただの使い魔じゃないんだろ」
「はあ!? 何なんすかあ!! リオさんのそのドライな反応、とんでもない冷静さは、一体、何なんすかあ!!」
「まあ、そう興奮しないでくれよ、カミーユ」
「うおおおおい!!」
驚愕し、興奮しすぎてまともな言葉にならず、ただただ吠えるカミーユ。
ここで「はい!」と挙手をしたのがミリアンである。
さすがに興奮し、声が震えていた。
「リ、リオさんっっ! こ、今回はさすがにカミーユを
「ああ、ミリアン、驚かせてスマンなあ」
リオネルがミリアンに謝れば、割って入るのがモーリスである。
「お、おい! リオ君、もしや!」
「何ですか、モーリスさん」
「ひとつ聞こう。そもそも! リオ君は何故、その犬に『ケル』という名をつけたんだ?」
モーリスの質問は尤もだ。
リオネルがつけた名前に、「何か秘密があるやも」と考えたのであろう。
しかし、リオネルの答えはあっさりしていた。
「はあ、心の内なる声がケルと名付けろと……」
「何だ、リオ君! こ、心の内なる声だってえ!? それって、もしや! 熟考した私の推理により、導き出された答えによればあ!」
「はあ、熟考した私の推理で導き出された答えですか?」
「うむうむう! 仮説が確信に変わる完璧な答えだあ! も、もしやあ! リオ君のケルって……冥界の魔獣『ケルベロス』ではないのかあっ!!」
一気に本丸へ突っ込むモーリスだったが……
実は「モーリスの指摘が当たっている」と、心の内なる声は告げていた。
また本来リオネルは、性格的に他人に大げさに自慢したり、やたら威張ったりする事は苦手であった。
なので、淡々としたリアクションは変わらない。
「ま、そうかもしれないっすね」
「おいおい……ま、そうかもしれないって、あのな……反応薄すぎるだろ……」
思い切り脱力したモーリスへ、今度はミリアンとカミーユが突っ込む。
「もう! 師匠も、そこまで気合入れて、熟考するほどのレベルじゃないっしょ!」
「そうっすよ! 勿体ぶっても無駄っす! 『ケル』って名前なら、ちょっと考えれば、誰でもすぐ分かるっす」
「何だとぉぉ! ミリアンにカミーユ、お前達は、また余計な事を言いおってえ! せっかくここは『決まった!』と思ったのにぃ!」
「師匠は全然ダメっす、決まってないっすよ。思い切り滑っているっす」
苦笑するカミーユ。
そしてミリアンはまたも挙手。
「はい、ここで提案! それより! 確かめようよ!」
「はい? 確かめるって? 何を姉さん」
「ケルちゃんの正体よ」
「ケルの正体っすか?」
カミーユが繰り返すと、ミリアンはリオネルに「ずいっ!」と迫る。
「ケルちゃん、召喚主のリオさんの言う事は聞くでしょ? ね、リオさん、そうでしょ?」
「多分……」
「じゃあ、リオさん、一瞬だけ……ほんのちょっとだけ、ケルちゃんへ本体になってって、お願いするのよ」
「本体にねえ……良いのかなあ、本当に」
リオネルの懸念は尤もである。
灰色大神風の犬に擬態したケルベロスの本体とは……
3つの頭を持つ異形かつ巨大な犬であり、竜の尾と蛇のたてがみを持つ姿をしている。
そんな怖ろしい姿を、ミリアンとカミーユが見たら、気絶するのは確実である。
「良いの! 良いの! 構わないって! 仕事は、さっきの『グール討伐で』完全に終わったでしょ? 師匠」
「ああ、ほぼ終わったぞ。もう邪悪な気配は一切ない。後は破損していた墓地の霊的境界に、私が結界を発動したら、完了だ」
「じゃあ、さっさと仕事を終わらせましょ! 先に結界を、師匠!」
「うむ! 了解!」
ミリアンに促され、モーリスは破邪魔法の魔法障壁を発動した。
邪悪な存在が墓地へ足を踏み入れないような霊的な処置であり、これで依頼は完遂となる。
ちなみにリオネルは、後学の為、結界発動をしっかりと見学した。
「よっし! 依頼完遂! じゃあケルちゃんが一体何者なのか、本体になって貰い、正体を確かめましょう!」
興味津々のミリアンは、きっぱりと言い切り、リオネルをじっと見つめた。
仕方ない。
リオネルは「ちらっ」と、灰色狼風のケルを見て、念話で告げる。
『ケル、ウチの「妹ちゃん」が本体を見せろと言ってるんだけど、どうだい? ……っていうか、お前の正体はケルベロスなんだろう?』
『うむ、我は魔獣ケルベロスだ』
リオネルが尋ねると……
灰色狼風の犬、使い魔ケルは淡々と告げ『自分の正体』をあっさりと認めたのである。
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