第140話「猛き使い魔、降臨!!」

上空から、そして背後からリオネルの葬送魔法『昇天』乱射――連射を受け、

スケルトンどもの隊列は完全に崩れ去った。


「よ、よしっ! 今よっ! カミーユ!」

「は、はいっすう! 姉さんっ!」


リオネルが「空を飛ぶ」のを驚き呆然と見ていたが、

事前の指示通り、ミリアンとカミーユが突入する。


「おお、お前達ぃぃ!!」


「師匠! 助けに来たわよっ!」

「休養充分の援軍が、ただいま到着っすう! 師匠!」


「うむ! よしっ! これで万全だ。スケルトンなど、軽く蹴散らしてやるわい!」


いくら不死者戦が得意とはいえ、1対100以上で少々難儀していたモーリス。


だが、リオネルの空中殺法がさく裂。

ミリアンとカミーユの劇的な帰還で、一気に戦局は変わった。


今まで敵は正面にたったひとりだったのが、3人に。

そして上空と背後から、葬送魔法を乱射、連射されたら、

100体以上とはいえ、スケルトンに勝ち目はない。

どんどん倒され、数を減らして行く……


モーリス、ミリアンとカミーユの破邪聖煌拳はじゃせいこうけんがスケルトンを圧倒するのと同様、リオネルも新たなイメージを持ち、戦っている。


見た目は今まで通り、破邪聖煌拳の、拳と蹴りでスケルトンを粉砕し、

葬送魔法『昇天』を撃ちながらも……

習得済みだが、いまだ秘する属性魔法、火属性攻撃魔法『炎弾』、

地属性攻撃魔法『岩弾』を撃つイメージで、スケルトンどもと戦っていたのだ。


その『イメージトレーニング』は今のところ上手く行っている。

リオネルは確かな手ごたえをつかんでいた。


スケルトンどもが燃やされ、岩に潰されるイメージが脳裏にはっきり浮かんでいたのだ。

やがて、スケルトンどもは全滅した。


リオネル、ミリアンとカミーユは安堵する。


しかし、モーリスはまだ戦いの構えを解かない。


リオネルは気になって尋ねる。

自分もほんの少し嫌な予感、『不穏な気配』を感じる。

索敵能力が更にアップしているらしい。


「モーリスさん」


「うむ、リオ君! 油断をするな、まだまだ敵が来るぞ。……どうやらこの王立墓地は『結界』が、ところどころ破れ、邪霊が入り込んで来ているようだ」


「結界?」


「ああ、結界は防御魔法、『魔法障壁』の一種だよ」


「ああ、成る程……思い出しました」


そう、リオネルはギルド王都支部の図書館で魔導書を読んだ記憶がある。

この世界のおける結界は、特定の場所へ邪なる存在が入らぬよう、

物理的、魔法的な処置をする事である。


そしてモーリスの言う結界とは……

亡くなった人々がこの王立墓地で、永遠且つ安らかに眠れるよう、創世神教会の司祭が施した魔法障壁なのである。


リオネルが記憶をたどっていたら……


ぼこ! ぼこ! ぼこ! ぼこ! ぼこ! ぼこ! ぼこ! ぼこ!

ぼこ! ぼこ! ぼこ! ぼこ! ぼこ! ぼこ! ぼこ! ぼこ!


いきなりあちこちの墓標前の土が盛り上がり、手が足が、そして顔が突き出された。


やがて、おぞましい幽鬼が土中から全身を見せ、数十体も現れた。


ミリアンとカミーユが小さく悲鳴をあげる。


「うっわ! またゾンビ!」

「うお! カンベンっす!」


しかし、モーリスは首を横へ振る。


「いや、放つ波動が違う! 奴らはゾンビではない! 低級悪魔グールだ!」


モーリスの声に反応する、リオネル、ミリアン、カミーユ。


「グールか!」


「え? グールぅ!?」

「小悪魔グールっすかあ!?」


補足しよう。

グールとは、屍食鬼ししょくきと呼ばれる魔物である。

墓地に眠る遺体に低級な悪魔が憑依し、怪物化するのだ。

その為、グールの範疇はんちゅう不死者アンデッドであるのだが、

その正体は低位悪魔なのである。


グールは屍食鬼の文字通り、遺体を食い荒らし、生きた人間も襲う。

また男をグール、女はグーラと呼び、区別をする。


正体が悪魔である為、小さな肉食獣に変化したり、再生能力も強い。

今回出現した敵の中では一番の強敵かもしれない。


「うっわ! 何だか綺麗な女性が居るっすう! それも何人も居るっすう!」


カミーユが一瞬、見惚れる。

彼の視線の先には、グールどもとともに、数人の美しい女子が立っていた。

しかし、


「ごら! カミーユ! 相手は外見が死体だよ! しっかりしなさい!」


「え? うわ!」


姉ミリアンの一喝で、我に返ったカミーユ。


改めて見れば、数人の女子達は、全員おぞましい死体である。

グーラが魅了の能力を持ち、男子のカミーユを混乱させたのだ。


「あ、危なかったっすう! 姉さん、サンキュっす!」


カミーユは冷や汗を流す……


「もう!」


とミリアンが苦笑した、その時!


ともに苦笑するリオネルの心の中へ、『内なる声』が聞こえて来た。


あるじよ、我を呼べ……』


否!

この声は違う。


リオネルの心の声ではない。

心に感じる波動で分かる。

こいつは、先日召喚した使い魔の『犬』――ケルだ。


しかし何故、単なる使い魔のケルが……しゃべれるのだ?


リオネルの疑問は尽きない。


『おいおい、……お前、しゃべれるのか?』


『つまらない議論は不要、今、論点はそこではない』


『ええっと、今、論点はそこではないって……あのな』


『そんな事よりもあるじよ、何をぐずぐずしている。さっさと我を呼べ、「あんな雑魚ども」などさっさと潰してやる』


『自分をすぐ召喚しろ!』淡々と言い放つ使い魔のケル……それも偉そうに?

「あんな雑魚ども」とは、目の前に現れた悪魔グールどもの事だろうか?


これは何かある!


内なる声も聞こえて来る。


召喚したケルを呼べ、そして命じるのだ。


ここは……心の内なる声に従おう。


リオネルは決意し、使い魔の犬『ケル』を呼ぶ事を決めた。

3人の反応は様々である。


「モーリスさん、ミリアン、カミーユ、ケルを呼ぶぞ!」


「おいおい、リオ君、いきなりここで使い魔を呼ぶのかい?」


「リオさん! ケルちゃん呼ぶの?」

「どうしたんすか? リオさん! 犬の使い魔をグールにけしかけるんすか?」


さすがだ、カミーユ、当たりだ!


しかし、リオネルはこう答えるしかない。


「確かにケルは犬……でも、何かが、起こる気がするんだ」


「苦労して習得した」と、謙遜していたが、講座受講後、何度も練習し、

今やリオネルは、ほぼ詠唱なしで、使い魔を呼ぶ事が可能であった。


召喚サモン!』


と、心の中で短く叫び、召喚魔法を発動すると、

リオネルの少し前の地に輝く『魔法陣』が浮かび上がった。


そして魔法陣の中から、一体の灰色狼風の巨大な犬が飛び出して来る。

体長は軽く2m、体高は1mを超えていた。


「うおん!」


短く吠えた犬――ケルは、リオネルを見つめ、念話で言う。


あるじ、改めて我に命じよ。奴らを排除し、滅ぼせと』


『よし! 行け! ケル! グールどもを排除し、滅ぼせ!』


「うおんっ!」


ケルは、リオネルのふたつ名、『荒くれぼっち』……否!

『疾風の弾丸』の如く、駆け出し、グールどもに迫った。


そして、グールどもの正面10m手前で止り、「かっ!」と口を開けると、

凄まじい咆哮を発する。


「ごおはあああああああああっっっ!!!」


対してグールどもは、


「「「「「ぎゃあああああああああああっっっ!!!」」」」」


と、情けない悲鳴をあげ、力なく崩れ落ち、全てが斃れてしまった。

いわゆる「スタンされた」状態となる。


再度ケルは、「かっ!」と口を開けると、


ごおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!


裂けたような真っ赤な口から、この世のものとは思えない真っ青で巨大な炎を吐き出し……

斃れたグールどもを一瞬のうちに焼き尽くしていたのである。

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