第139話「リオネル、鳥となる!?」

「リオさん、『これ』返しまっす。結局、使わないで済んだっすよ」


「あ、私も使わなかった。『これ』すぐ師匠に返さなきゃ!」


カミーユとミリアンが『これ』と言うのは、「万が一の際、護身用に使え」と託された、以前リオネルが購入し、プレゼントした魔法杖である。


葬送魔法『昇天』を込めてあったミリアンとカミーユ自身の魔法杖は、

ゾンビとの戦闘の際に、装填されていた『光球弾』を使い切ってしまっていた。

それゆえ、リオネルとモーリスから代わりにと、ふたりの魔法杖を託されたのだ。


「じゃあ、カラになったお前達の杖に『昇天』を装填しておくよ」


リオネルは受け取った自身の魔法杖を腰から提げ、ミリアンとカミーユから受け取った魔法杖に葬送魔法『昇天』を込めた。


「ふん!」


リオネルの気合と共に、2本の魔法杖は「ぱあっ」と明るく光り、魔力が満ちた事を示した。


「はい、完了。ヤバイと思ったら、どんどん使ってくれ。『昇天』なら、不死者アンデッドのスケルトンにも有効なはずだ」


「わあ、ラッキー! これがあると心強~い!」


と喜ぶミリアンだが、カミーユはリオネルを気遣い、懸念する。


「ありがとうございまっす! でもリオさん、大丈夫っすか?」


「え、何が?」


「いや、何がって、ず~っと戦い続けじゃないっすか? その上、杖に充填じゅうてんまでしてくれて。体内魔力が、もつっすか? 無くならないっすか?」


「おお、体内魔力が、もつかって? ええっと、確認っと……うん! 全然、大丈夫そうだな。カミーユ、心配してくれてありがとう」


体内魔力の残量は『感覚』が教えてくれる。

『内なる声』が警告を発してくれる時もある。


「そうっすか? それなら安心したっすけど……まるでリオさんの体内魔力って、『底なし』っすね」


「あ、カミーユ、『底なし』それいい! すっごくいいわ!」


「はあ? 姉さん、『底なし』が良いって、何がっすか?」


「私が命名、第三のふたつ名『底なしぼっち』!」


「あはははは、『底なしぼっち』! 姉さんナイスネーミング! 『荒くれぼっち』より断然、素敵っすよ!」


「でしょう?」


リオネルの『ぼっちネタ』で盛り上がるミリアンとカミーユだが、

苦笑したリオネルがストップをかける。


「おいおい、お前達、『ぼっちネタ』は封印で良いだろう? 今の俺には、お前達とモーリスさんが居て、もう『ぼっち』じゃないんだからさ」


「うふふ! ですよね~、お兄様んん♡」


「あはは、そうっすねぇ! 兄貴ぃ!」


「ほら! 漫才やってるうちに、スケルトンどもが現れたぞ」


リオネルが視線を移すと、その先にはモーリスが出現した数多のスケルトンと正対、

身構えている。


「ああっ、ホントだあ!」


「すぐに師匠を助けないと、いけないっす!」


「よし、行くぞ! スケルトンと戦闘の際の注意! まず囲まれない事、そしてゾンビよりも素早い事。死者だから人間とは違う動き方もする事。武器を持つ個体には特に気を付ける事」


「はい!」

「はいっす!」


「格闘戦の戦い方は、ふたりが得意とするヒットアンドアウェイを守れ。相手の動きを良く見極め、ダメージを受けないよう間を取り、相手が攻撃した際に生まれる隙を狙い、基本はカウンターを狙って行け」


「はい!」

「はいっす!」


「相手と戦って、こいつはヤバイと思ったら、武器、魔法杖も含め持てる力を全て使え。きついと思ったら、限界前に、必ず仲間へ離脱を宣言し、一旦退いて、後方から戦う仲間を援護。これは全ての敵に通じる事だ。以上! けして油断をするなよ!」


「はい!」

「はいっす!」


リオネル、ミリアン、カミーユは顔を見合わせ頷き合うと、

勢い良く、駆け出していたのである。 


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


モーリスの下へ、リオネル、ミリアン、カミーユが駆け付けると、

既に戦闘は始まっていた。


敵中へ踊り込んだモーリスは、奮戦。

破邪聖煌拳と、葬送魔法を駆使。

片端から、スケルトンを倒している。


モーリスが懸念した通り、スケルトンは多かった。

個体は、200体以上居る。


ここでリオネルが提案。


「ぐずぐず出来ない! 急ぐぞ! 俺が、背後から奴らを攻撃する」


「ええっ? リオさんが背後から? いくら、相手が人外の不死者アンデッドとはいえ、ちょっち卑怯では?」


そんなカミーユの疑問も、姉ミリアンが吹き飛ばす。


「ちょっと、カミーユ。相手は情け無用の人外よ、それにリオさんが、キャナール村で教えてくれた『ルール変更』を忘れたの? 私達の人数と相手の個体数を比べてみてよ!」


「あ! そうだったっす!」


「そもそも! 私達は『騎士ではなく冒険者』よ。この戦いも1対1のルールありきの試合ではないわ。まず大事なのは、私達の命、そして身の安全。勝利する為に何が必要なのか、しっかりと優先順位を考えなさい!」


リオネルは思わず微笑む。

自分の言いたい事を、ミリアンが代弁してくれたからだ。

弟カミーユだけでなく、姉ミリアンも確実に成長している。


そして、リオネルも新たな能力を試そうとしていた。


大鷲の視力。

猪のダッシュ力とパワー。

馬の速度。

ウサギの前方、もしくは垂直ジャンプ力。

リスのすばしこさ、身軽さ。

ムササビの滑空。

狼の持久力。

そして、猫の空中バランス維持と落下緩和。


習得した動物の能力を合わせ、つい先日、誰も居ない森の中や草原で試してみたら、

とても上手く行った。

仲間が見たら、驚くはずだ。


「よし! ミリアン、カミーユ。俺が背後からスケルトンどもを攻撃したら、突っ込んでモーリスさんを助けてくれ! さっき注意した事を忘れずにな!」


「「了解!」」


「行くぞ!」


リオネルはダ~ッシュ!

素晴らしい速度で助走を駆け、高さ10mへジャ~ンプ!

そのまま空中をすい~っと滑空、モーリスを飛び越し、

スケルトンどもの頭上をすいすい飛ぶ。


驚いたのはミリアンとカミーユ。


「わおっ! リオさん! すっごいジャンプ! そして鳥みたいに飛んだあ!!」

「うっわ! まさに鳥っす! リオさん! 空、飛んでるっすよぉ!!」


そして、モーリスも驚愕。


「おおおお!? リ、リオ君!! き、君は!! す、凄いな!! 凄すぎるぞっ!! ど、どんどん『人間離れ』して行くぞぉぉ!!」


確かに『人間離れ』し続けてはいるが、モーリスがほめているのかどうなのか……


しかし!

それだけで終わらないのがリオネルだ。

ただ飛ぶだけではなかったのである。


リオネルは空中を滑空しながら、葬送魔法『昇天』を乱射、連射。

眼下のスケルトンどもを20体ほど倒し、塵にした。

まさに『空飛ぶ攻撃要塞』である。


そして、20mほどゆうゆうと滑空して、スケルトンどもの背後に軽々と降り立ち、

更にリオネルは『昇天』を容赦なく乱射。

群がるスケルトンどもを容赦なく薙ぎ払ったのである。

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