第125話「ビッグサプライズ連発!!」

クローディーヌとエステルに連れられ、戻って来たミリアンとカミーユであったが……息も絶え絶えという感じ。

相当疲れているらしい。


「も、戻って来ましたあ……師匠、学費、ありがと……」

「戻って来たっすぅ……師匠に感謝っすう」


「おお、エステル殿、そしてクローディーヌ殿も、ウチの弟子ふたりが大変お世話になりました。ありがとうございました。見たところ、ふたりともだいぶ頑張ったようだな。で、どうだった? ランクは?」


「……………」

「……………」


ミリアンとカミーユは登録手続きに伴う緊張とストレスもあったらしく、相当疲れていて、モーリスの問いかけに対し、まともに返事をする気力もないようだ。


担当のエステルが微笑む。


「ミリアンさんとカミーユ君、大勢で冒険者心得の講義を受けたり、教官とギャラリーに見守られて、実戦試験を受ける事が初体験という事で、だいぶ緊張していましたけど、本当に良く頑張りましたよぉ!」


そしてクローディーヌも、微笑み大きく頷いている。


「はい、おふたりのご登録は無事、終わりました。ご安心ください」


と、ここでリオネルの気配りが。


「うん! ふたりとも、良く頑張ったな、お疲れ様。俺の『治癒』をかけておこうか?」


「……………」

「……………」


リオネルが回復魔法のケアを伝えたら、ふたりは無言のまま、ゆっくりと力なく手を挙げた。

両名とも「かけて欲しい」という意思表示であろう。


「了解、ほいっと!」


リオネルは無詠唱の高速発動で、回復魔法『治癒』を発動。

みるみるうちに、ミリアンとカミーユの体力が回復する。


「やったあ! リフレッ~シュ! リオさん、ありがと♡」


「うおっ! 心と身体がすっきりしたっす! リオさんに感謝っす!」


「おお、回復魔法では低位の治癒とはいえ、リオ君の治癒は単に体力回復だけではない、特別な付加効果があるようだな。それに無詠唱と発動の素早さ、完璧だぞ」


「モーリスさんのご指導のお陰です。ありがとうございます! 回復のプロから太鼓判を押して貰うと、自信になりますよ」


「おお、そうか、そうか」


と、その時。


チャララララ、パッパー!!!


リオネルの心の中で、あの独特のランクアップファンファーレが鳴り響き、内なる声が淡々と告げて来る。


リオネル・ロートレックはチートスキル『エヴォリューシオ』の効果により、

習得済みの回復魔法『治癒』、回復魔法『鎮静』から派生し、

病気、けがの症状を大幅に緩和し、体力を100%戻す回復魔法『全快』を習得しました。


いきなりの最上位に近い回復魔法の習得。

つい、リオネルは口に出してしまう。


「え? 全快?」


リオネルの発した言葉を聞き、首を傾げたのはモーリスである。


「ん? いや、『全快』は治癒よりも遥かに上位の、病気、けがの症状を大幅に緩和し、体力が満タンになる魔法だろう? いくら付加効果があるとはいえ、リオ君が行使する治癒では、ほんの少し体力が回復するだけだぞ」


「は、はは……モーリスさん、そうですよね? 俺ったら、モーリスさんから褒められて、少しぬか喜びしてしまいました」


苦笑し、頭をかくリオネルだが、内心は『ぬか喜び』ではなく、

『ビッグサプライズ!』に『大喜び』である。


これで『治癒』『鎮静』そして『全快』と、回復魔法にめどがついた。

更に気絶状態を解消する特異スキル『リブート』レベル補正プラス15――再起動も習得しているから、『治癒士』としては、なかなかの能力を得たと言えよう。


そんな事はつゆ知らず、モーリスは笑顔である。


「ははははは。ぬか喜びか、確かにそうだな。それにリオ君はたまに、意味もなく、『にやっ』とするな。何か思い出し笑いでもしているのかな?」


「ははは……まあ、そんなところです」


ここでミリアンから、カミーユへ提案が。


「カミーユ、完全復活したところで、今日一日お世話になったエステル姉さんへ、改めてお礼を言おう!」


「そうっすね! 大賛成っす!」


「じゃあ、私から! エステルお姉様、改めてお礼を言います! 今日はありがとうございましたあ!」


「じゃあ、俺も! エステル姉さん、改めて、ありがとうございまっすう!」


ミリアンとカミーユから重ねて礼を言われていたらしく、エステルは微笑む。

『姉さん』と呼ばれるくらい懐かれて、相当嬉しいらしい。


「何度も何度も言わなくて良いって! ふたりとも本当に良く頑張ったわよぉ!」


礼儀正しく、エステルへお礼を言うミリアンとカミーユを見て、モーリスは目を細める。


「うむうむ、宜しい、宜しい! 世話になった方への感謝の気持ちを忘れてはいかんぞ。……ところでミリアン、カミーユ、お前達、ランク判定の結果はどうだったのかな?」


先ほどモーリスが聞く事の出来なかった、登録に伴うランク判定の結果……

リオネルは最低位のランクFから始めた冒険者生活。

果たしてミリアンは……


「はあ~い! 私は文句なくランクEで~す! カミーユには勝ちましたあ!」


ミリアンはランクEの所属登録証を誇らしげに掲げた。


「ははは、じゃあカミーユは?」


「くっそ! ギリギリで姉さんに負けたっす! 試験官曰く、限りなくEに近いランクFっす! ちっきしょぉ! 修行頑張るっすよお!」 


カミーユも自分の所属登録証を突き出し、モーリスとリオネルへアピールした。


「ははははは、やる気があって、結構! 結構! そんなお前達に嬉しい知らせがあるぞぉ。ビッグサプライズだ! もしかしてエステルさんやクローディーヌさんから聞いているかなあ?」


ここでエステルとクローディーヌは、茶目っ気たっぷりに否定する。


「モーリス様、私は何にも言ってませ~ん!」

「私もですわっ! 申し上げておりませ~ん!」


「おお、そうですか? さすがにおふたりとも、気が利きますな。ではまずひとつめのビッグサプライズだ! 今日から1週間、サブマスター、ブレーズ様のご厚意で、私達4人はギルド総本部敷地内にあるホテルに宿泊するぞお!」


ホテルに宿泊!

それも1週間の連泊!

これはモーリスの言う通り、ミリアンとカミーユにとって『ビッグサプライズ』である。


「わあお!! 憧れのホテルに1週間も宿泊って、マジぃ!? もう最高ぉぉ!! 感激ぃぃ!!」


「本当っすかあ! 俺もミリアン姉さんもホテルに宿泊って生まれて初めてっすよ! ! 夢みたいっすう!! 頑張って良かったあ! いや! 生きてて良かったっすう!!」


そして意外にも、リオネルも改めて大いに喜んでいた。

リオネルの家柄、ディドロ家ならばホテル宿泊くらい経験がありそうだが……


「ホテルに宿泊なんて、俺も赤ん坊の時以来なんで、とても嬉しいです」


そう、リオネルはまだ亡き母が生きていた赤ん坊の頃、家族全員でホテルに宿泊した事がある。

当然ながら憶えてはいないが、母が亡くなる少し前、笑顔で話してくれた事があった。

先ほどブレーズからホテルに宿泊させると聞き、懐かしい母の笑顔が浮かんで来たのである。


「ははははは、ミリアン、カミーユ、ビッグサプライズはまだある!」


「え? 何々? ビッグサプライズがまだあるって?」

「何すか? 師匠! 早く教えて欲しいっす!」


「うむ! 今日、家を探しに行ったが、決めずに帰って来た」


「え? 何で?」

「何故っす、師匠!」


「うむ! 本日5つ見た物件は全て私が出した条件、この冒険者ギルド総本部から徒歩で至近距離、居間、厨房、シャワー付きの風呂とトイレ、馬車の為の駐車場付き厩舎がある、庭の広い一軒家……4名各自の個室と倉庫兼用の地下室が付き……肝心の家賃は相場より著しく安い! を全て満たしていた!」


「え~! だったら何で決めなかったのぉ?」

「そうっすよぉ!」


「ははは、慌てるな! 5軒の内、リオ君と相談し、候補を3軒に絞った。明日お前達にも3軒全てを見て貰った上で相談して、最終的に決めたいと思う。午前中に家を決め、午後は家具や生活必需品の買い物だ!」


「わおわおわおぉ! 家選び! 家選び! 買い物も楽しみぃぃ!! ビッグサプライズ第二弾!! 師匠ありがとう!! 大好きぃ!!」

「うっわ! 俺達も事前に家が選べるっすね! それに買い物もわくわくするっす! ビッグサプライズ連発って、ありがとうございまっす!! 最高っすよ、師匠!!」


住む家に関して自分達の意思も反映される!

そして、楽しみな買い物まで!


ミリアンとカミーユは、『ビッグサプライズ』の連発に嬉しくて感極まったらしく、手を取り合って踊り出した。


そしてリオネルは再び自分へ起こった『ビッグサプライズ』上位の回復魔法『全快』習得の嬉しさが込み上げて来て満面の笑み……


そんな3人を慈愛のこもった視線で見守りながら、モーリスは「うんうん」と頷いていたのである。

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