第124話「まあ、今更かな……」
冒険者ギルド総本部、不動産部の職員マルセル・デュプレに連れられ……
ワレバッドの街において、5軒の貸家を新居候補として、
外観チェックと内見を行ったモーリスとリオネル。
何と!
モーリスが出した条件……
この冒険者ギルド総本部から徒歩で至近距離、居間、厨房、
シャワー付きの風呂とトイレ、馬車の為の駐車場付き厩舎がある、庭の広い一軒家……
更に!
4名各自の個室と倉庫兼用の地下室が付き……肝心の家賃は相場より著しく安い!
という「内容を全て満たしていた」のである。
5軒の新居候補は、外観、内装ともそれぞれ違って、バラエティーに富んでおり、
甲乙つけがたかったが、全てを『仮押さえ』するわけにもいかず……
結局……
モーリスとリオネルは、5軒のうち3軒の貸家に優先順位をつけ……
途中でマルセルの案内により、冒険者ギルド総本部提携のレストランで食事もし、
午後4時前に、冒険者ギルド総本部へ戻って来た。
そして今、3階の一般応接室で、マルセルとの後打ち合わせを兼ね……
ミリアンとカミーユを待っているという状況である。
ここで、ひとつ『突っ込み』があるだろう。
「何故、新居を本契約せず、仮押さえなのか?」という事だ。
当初、モーリスとリオネルのふたりで決め、本契約してしまうつもりであったが……
やはりミリアンとカミーユのモチベーションも考え、
姉弟ふたりにも外装チェックと内見をして貰い、「意見を取り入れる事」にしたのである。
「マルセル殿、何から何まで、いろいろお世話になりましたな」
「いえ! モーリス様。まだ本契約が決まっておりません。これからですよ、お世話をするのは」
「ははははは、まあそうですな。今後とも住宅関係は宜しくお願いしますぞ」
「かしこまりました! お任せください! 今日からは、ブレーズ様がご手配された、ギルド総本部敷地内のホテルで、ごゆっくりとおくつろぎください」
「ありがとうございます、マルセル殿。しかし、本当に至れり尽くせりですなあ……なあ、リオ君、そうだろう?」
「はい、ありがたいですね。サブマスターや皆さんに、感謝しないと」
リオネルが頷くと、マルセルが言う。
「モーリス様、リオネル様。ブレーズ様は義理堅いお方でして、一度、この相手はとお決めになったら、とことん尽くすお方なのですよ」
「ええ、マルセルさん、今回のご対応で良く分かりました」
「ですが……」
「ですが? って、どういう事ですか?」
「はい、リオネル様。普段のブレーズ様はあまり感情をお見せにならず、口数も少ない。しかし今日のブレーズ様はいつもと全く違っておりました」
マルセルの言葉に反応、同意したのはモーリスである。
「いつもと違う……確かに私も以前お会いした時のイメージとは全く違うので驚きました。ブレーズ様は確かに『ナイスガイ』だが、『物静かで無口』という感じでしたからな」
「全くですよ、モーリス様」
「でも、マルセル殿、どうしてですかね? ウチのリオネル君が原因というか、理由のような気がするが……リオ君、心当たりはあるかい?」
「まあ、何となく……いずれお話ししますよ」
リオネルは曖昧に答えたが、モーリスは「空気を読んだ」のだろう。
それ以上追及して来なかった。
「はははは、そうか。まあ何にせよ、良い事だ。サブマスターに好感を持たれれば、ワレバッドの街ではやりやすい」
モーリスがそう言うと、笑顔でマルセルが追随し、更に言う。
「はい、それにギルドマスター、ローランド閣下も、王都のマスターからご連絡を頂き、早くリオネル・ロートレック君に会ってみたいとおっしゃっていました」
「そ、そうですか! まさか、英雄ローランド様が!?」
「え? ローランド様が俺の事を!?」
モーリスが驚き、リオネルも同じく驚いた。
先述したが、冒険者ギルド総本部マスター、ローランド・コルドウェルは、
かつて凶暴で害為す巨大なドラゴンを倒した事から、
『ドラゴンスレイヤー』『竜殺しの英雄』と称えられ、
ワレバッドの領主とギルドの総マスターを兼任する王国貴族である。
爵位は伯爵。
ローランドは元々、王国譜代の精悍な騎士であり、王国騎士団の団長でもあった。
しかしある時、『ある事件』をきっかけに、惜しまれながら騎士団を退団。
管理していた領地も王国へ返上した。
身ひとつとなったローランドは冒険者ギルドへ所属し、
『ひとりの冒険者』へと身を投じた。
その後、冒険者として、数多の依頼を完遂してから……
全ての支部のギルドマスターから望まれて、
冒険者ギルドの『総マスター』となり……
王国からも再度の赴任を命じられ、『ワレバッドの領主』となったのである。
リオネルが王都支部のマスターから、推薦状を貰った時……
「自分の名前くらい、英雄の頭の片隅に留めて貰えればラッキー」くらいに思っていた。
それが!?
竜殺しの英雄が!?
早く、自分に会ってみたい!?
「はい、閣下は、リオネル様のご来訪をとても楽しみにされていました。普段はとても御多忙で、ギルドの業務の大半は、ブレーズ様にお任せになっておりますが、いずれお時間をお作りになり、お会いされると思いますよ」
「うおっ! びっくりだな、リオ君!」
「そ、そうですね、驚きました」
ここでモーリスは、まじまじとリオネルを見て、苦笑する。
「まあ、今更かな……『荒くれぼっちの超人リオ君』にはずっと驚かされっぱなしだから」
「ええっと……『荒くれぼっちの超人リオ君』って……」
苦笑するリオネル。
と、その時。
とんとんとんとんとん!
ノックがあり、涼やかな女性の声が伝わって来る。
「失礼致します! サブマスター秘書のクローディーヌ・ボードレールです! エステルと共に、ご登録を終えたミリアン様、カミーユ様をお連れしました」
クローディーヌの声を聞いたモーリスは微笑む。
「ふむ、悪ガキどもが戻って来たか。さあて結果はどうだったか、思い切りいじってやるか」
そう言いつつも、モーリスはふたりの『結果』が大いに気になるようである。
期待と不安、そして温かい波動が強く強く放たれていた。
「ははは、じゃあ俺はミリアンとカミーユへ、お疲れ様、良く頑張ったと言ってやりましょう」
リオネルもモーリスと同じく、慈愛に満ちた柔らかな笑みを浮かべたのである。
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