第126話「どこか壊れている?」
その日の夜……
冒険者ギルド総本部敷地内のホテル……
ミリアンとカミーユの冒険者登録とランク判定試験が無事終了し、
「皆さん、今日はいろいろとお世話になりました。ありがとうございました。今後とも宜しくお願い致します」
丁寧にサポートしてくれたクローディーヌ、マルセル、エステルへ、
全員で厚くお礼を伝えて、「また明日と」別れた後……
サブマスター、ブレーズ・シャリエが押さえてくれた部屋で、
リオネル達はくつろいでいた。
既に階下のレストランで夕食は済ませている。
総本部敷地内に建つホテルは5階建て。
リオネル達の泊まる部屋は3階。
このソヴァール王国ではそこそこ大きいホテルだが、
貴族や富裕な商人でなく、『冒険者がメインで利用する』ホテルらしく、けして華美ではない。
『実用的で質実剛健』という趣きである。
しかし生まれて初めてホテルに宿泊するミリアンとカミーユにとって、
そんな事は一切関係なく、まるで夢心地であるらしい。
そんなミリアンとカミーユを見守るモーリスも、嬉しそうである。
まずは無事に冒険者登録が終わったのだ。
ランクを判定した試験官の反応も良かったという。
そして、ミリアンとカミーユは、何度も担当してくれたエステルへの感謝を口にした。
「エステルさん、本当のお姉さんみたいに親身になって、私達の面倒を見てくれたわ!」
「そうっす! 気配りとケアが完璧で最高だったっす! 無事に登録が終わったのはエステル姉さんのお陰っす!」
と、いうわけで……
後はじっくりと修行をしながら、デビュー、その上で経験を積ませていけば良い。
ミリアンとカミーユにとって、リオネルという、年齢の近い頼もし過ぎる兄貴分も加わり、環境的には申し分ないとモーリスは考える。
そのリオネルも同じである。
故郷の王都を出て、ワレバットへ入るまでは多少不安があった。
しかし旅の途中、エレーヌとアンナを救い、アルエット村で強敵を倒し、人々と触れ合い、温かさを知り……
次に出会った冒険者として先輩にあたるモーリスは、ワレバットの作法に慣れており、可愛い妹、弟と思えるミリアンとカミーユの面倒を見る事は、歓びである。
更に偶然ともいえるブレーズとナタリーのつながりから、状況はますます良い方へと向かっている。
修行も順調であり、レベルは上がり、スキルも数多習得。
先ほども回復魔法の上位たる『全快』を習得したばかりだ。
但し、リオネルは「勝って兜の緒を締めよ」が信条である。
悪く言えば心配性の「好事魔多し」……けして油断はしない。
否!
しないように心がけている。
ただ、こうなると4人の会話が弾むのは当然だ。
まずミリアンとカミーユの興味は当然、新居となる予定の3軒の候補である。
「ねえねえ、師匠、新しい家の候補ってどんな感じ? 素敵でおしゃれな感じ?」
「カッコいい家っすか? それとも便利な家っすか?」
しかし、説明を求められたモーリスは「見てからのお楽しみだ」と、
軽く、いなしてしまった。
となれば、次の興味は、ミリアンとカミーユが受講するギルドの各講座である。
ブレーズの指示で秘書クローディーヌから受け取った総合カタログを見ながら、
話に花が咲く。
ここでミリアンとカミーユから主に質問を受けるのは、リオネルである。
王都支部で、数多の講座を受講したからである。
これまでにどのような講座を受講したのか、ふたりから尋ねられ、リオネルは記憶をたぐる。
「ええっと、俺が受講したのは……剣、打撃武器、盾、体術格闘、それぞれの基礎と応用、回復、破邪と葬送魔法の基礎と応用、迷宮探索術の基礎と応用、サバイバル術、それと講座じゃないけど、乗馬と御者の練習を徹底的にやらせて貰ったよ」
ミリアンが感嘆し、聞いて来る。
「うっわあ、すっごい! ねえ料理はどこで覚えたの、リオさん」
「俺が世話になっていた宿屋で教えて貰った。宿屋の業務もひと通り覚えたよ」
「うわ! 本当にオールマイティー! 素敵ぃ!」
するとカミーユも、
「リオさん、サバイバル術って、何すか?」
「ああ、文字通り生き抜く術さ。原野でたったひとりきりになった場合、生き抜く為の心構えに始まり、水の重要さ、見つけ方。魔法に頼らない火のおこし方、かまどの作り方。食料の見つけ方、食用となる野草の知識、毒草、毒キノコの見分け方、罠による獣、魚の捕らえ方、釣り具の製作、釣りの方法、野外料理を含めたナイフの使い方等々も覚えたな。実践もしたよ」
「わあお! 凄いっす! 凄すぎるっす! ワイルドっす! 原野に放り出されても、確実に生き抜けるっすね! よし決めたっす! 俺、シーフ、迷宮探索術が最優先で、打撃武器、盾、体術格闘に加えて、サバイバル術をぜひ受けたいっす」
傍らでじっと聞いていたモーリスも感嘆するしかない。
「おいおい、リオ君、それたった1か月で全て受講したのかい? それもゴブリン渓谷で無双したり、宿屋の仕事をしながら……だろう?」
モーリスに尋ねられ、リオネルは「懐かしい」と感じながら、再び記憶をたぐる。
「ええ、結構きつかったです。何とかって感じですけど」
「ははは、きついって、改めて呆れたな。しかし私も新たな修行をしたくなって来たよ。以前リオ君と話したしな。人間、思い立ったら、いつ、どこからでもリスタート出来るとね。うん! リオ君の話を聞いて燃えて来た、気合が入るよ!」
「いえ、俺もまだまだです。モーリスさんから教えて頂いている、回復に葬送の魔法、
そんなこんなで、次に話題は依頼案件に移る。
ブレーズの指示で、クローディーヌから受け取ったサンプルには、
高難度の依頼から、受諾出来そうなモノまで、様々な依頼案件があった。
モーリスが目を通し、3人へ話して行く。
「冒険者に人気の討伐系依頼……実戦で、恐怖を克服し、己の腕を磨きたいっていう冒険者が多いからな。遂行内容は……人間に仇名す悪魔、ドラゴンなどの高位魔族、高位魔獣に始まり、吸血鬼やゾンビ、亡霊などの
すかさず反応したのは、ミリアンとカミーユである。
「うっわ! ゴブリンで手一杯なのに、悪魔とかドラゴンとか、絶対に無理ゲー!」
「吸血鬼やゾンビ、亡霊も嫌だあ!」
「ははははは! まあこの依頼はサンプルだが……ええっと、火山に出現した凶悪なファイアドレイクの討伐で金貨3,000枚、古城に潜むと噂される吸血鬼の始祖と約500体の配下たる吸血鬼軍団の討伐。完全討伐条件で金貨4,000枚とかがあるな」
「げえ! ファイアドレイクに吸血鬼の始祖なんて、絶対に無理ゲー! 命がいくつあっても足りないからあ!」
「そうっす! 身の丈に合わない依頼はきっぱりお断りっす! ノーサンキューっす!」
と、拒絶の反応を起こすミリアンとカミーユだが……
異なる反応を示したのが、リオネルである。
「え? ファイアドレイクに吸血鬼の始祖って、面白そうじゃないですか? 受諾するかどうかは別にして、討伐作戦をどう立てのるか、想像するだけでもわくわくしますよ」
当然モーリス、ミリアン、カミーユは、
「おいおい、リオ君。ファイアドレイクに吸血鬼の始祖の討伐案件はな、ギルドの推奨はランクS、最低でもランクA以上、それも大人数のクラン向けの案件なんだぞ。ランクBがふたりに、デビューしたてのメンバーふたりの4人じゃ、さすがに無茶だろう」
「そうですよお! 想像するのも嫌ですからあ!」
「リオさん、絶対におかしいっす! わくわくするなんて、どこか壊れているっす!」
そう、リオネルは、以前の超が付く『怖がり』から完全に変貌していた。
高難度の依頼サンプルを見て、余裕たっぷり、面白そうに笑っていたのである。
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