第110話「俺も一緒っす!」

昨日とほぼ同じ雰囲気の朝となった……

リオネル、モーリス、ミリアン、カミーユの4人は村長パトリスへ、自分達が戻るまで厳重に警戒を続けるよう言い残し、キャナール村を出発。

ゴブリンの残党700体が潜む洞窟へ向かった。


本日も天気は快晴。

空を見上げれば雲ひとつなく、かと言って風もそう吹いていない。

村長パトリスによれば、こんなに穏やかな好天が続くのは稀らしい。


本日の行軍は徒歩。

馬を使わない。

洞窟探索中、馬をつないだまま、放置してはおけないからだ。


モーリス、ミリアン、カミーユといろいろ話したが……

万が一の撤退の場合は、リオネルとモーリスが殿を務め、足止めをする事となっている。

その間に、ミリアンとカミーユを逃がすのだ。

メンバーの構成上、立場上、リオネルはモーリスの立場を尊重し、そうしたが、

本当に万が一の場合は、リオネルが『盾』となるつもりだ。


それに相手がゴブリンならば勝算はある。

否、確信している。

先日の農地で、地の利や作戦を使わずに、襲来した1,000体のゴブリンどもを威圧し、蹴散らしたからだ。

ギフトスキル『ゴブリンハンター』の効果で相手の攻撃を完全に無効化するならば、

自分は相手が『万』でも『それ以上』でも、『無敵』であるのだと。

そう、『たかが700体余のゴブリン』など、今のリオネルには「敵ではない」のだ。


さてさて洞窟まで約5㎞の行軍。

先頭に立つのはカミーユである。


昨夜『作戦会議』終了後の約1時間……

カミーユは頼み込み、リオネルとサシでじっくり話した。


自分に有利な条件下とはいえ……

カミーユは昨日のべ86体のゴブリンを単独で倒した。


最終的には引き分けたが、今まで勝てなかった姉にも一旦は勝利した。

その実感が、確かな糧となり、自信となり、モチベーションの著しいアップにもつながっていた。


そして言葉には出していないが心の中で『兄』と慕うリオネルの存在がある。


厳しく叱り、励ましてくれた無敵無双のリオネルは……

信じられないことに、自分と同じ怖がりだった。


そして多くのコンプレックスを抱えていたという。

それを乗り越えて、優しくなり、強くもなったらしいのだ。


リオネルは言ってくれた。

今がカミーユの人生のターニングポイント。

懸命に、ひたむきに、頑張るべき時なのだと。


まさに有言実行。

実際にリオネルは頑張り、差し伸べてくれた幸運の女神の手をしっかりつかんだのだろう。

その結果、『今』がある。


リオネルは戦いを見て、カミーユの力を認め褒めてくれた。

「カミーユは魔法が使えない分、突出した器用さがある。戦いでも相手の死角を衝く上手さに、その器用さの素晴らしい才能が表れている」と。


同時にアドバイスも貰った。


「戦士として、シーフとして、その器用さを徹底的に磨け。誰にも負けないくらいに」と。


「謙虚さは大事だが、魔法が使えない事を必要以上に卑下するな。その抜きんでた器用さを役立てる場面で重宝されろ。それが適材適所なのだ」と。


一方で致命的な短所も指摘された。

姉からも散々言われた事だ。


「話すよりも自分は聞き役だと思い込むくらい、徹底して人の話を聞け」と。


更に、


「臆病さを慎重さに変えてしまえ」


「慌てず、常に冷静沈着であれ」


「注意力散漫には絶対になるな。己の五感を働かせ、周囲に徹底的に注意深くあれ」


「特に危機回避の直感を鋭くしろ。シーフを目指すのならば、絶対に心がけよ」


と何度もさとされた。


「注意し過ぎても、過ぎる事はない。何故なら索敵役には、己のみでなく、仲間全員の命が懸かっている」


改めてそう言われ、カミーユは心と身体が打ち震えた。


大好きな姉を、そして世話になったモーリスやリオネルを、

自分のミスや不注意で死なせるわけにはいかないと、改めて思ったのだ。


頑張らなきゃ!

自分には大きな目標がある。


カミーユは改めて再認識した。


『器用さ』という、自分の強みを最大限に活かす。

そして、大好きな姉を守り抜き、必ず幸せにする。

その上で、自分も幸せになるのだと。


話が終わりに近付き、いくつか気になった。

尊敬するリオネル自身の事だ。


まずは自分達姉弟をどう見ているのか聞いた。


答えはすぐ、戻って来た。


「末っ子だった自分に今まで妹、弟は居なかった。お前達を実の妹、弟のように感じている」と。


次に「姉をどう思うのか?」とも聞いた。


「魅力的か」

「恋人にしたくないか?」 と。


カミーユは「自分が赤の他人だったら、絶対に姉を恋人にしたい」と常々思っているからだ。


リオネルは即、


「ミリアンは魅力的な女子だ」と言ってくれた。


だが、「絶対に内緒だぞ」と前置きし、


「この前、初恋がダメになったばかりで、次の恋愛が考えられない」


と寂しそうに言った。


「やっぱりミリアンは可愛い妹、そしてカミーユ、お前は可愛い弟だ」と。


そして……


「俺は自分の限界を目指したい。いや突破したい。いろいろな人達と出会い、支え合い、満足の行く人生を送れるよう努力したい」


そう言ってくれた。


カミーユはリオネルの言葉を聞き、再び心と身体が打ち震えた。


「それ、リオさん。俺も一緒っす!」


カミーユは思わず叫んでいた。

姉の事も含め、リオネルの生き方に自分の人生目標を重ねたのだ。


……カミーユは昨夜の事を思い出しながら、道を進んで行く。

間もなく、道は途切れて獣道となる。

その先に目指す洞窟がある!


ふとリオネルを見れば、鋭い眼差しで周囲を睥睨していた。


相変わらず有言実行。

全員を守る為、警戒を徹底している。


俺も、頑張るぞ!


カミーユは決意を新たにし、より慎重に、歩みを進めたのである。

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