第111話「愛情アシストしよう」

キャナール村から約5㎞。

リオネル達は、ゴブリンの残党700体が潜む洞窟付近に到着した。


魔力感知の索敵を最大発動中のリオネルだが……

洞窟までの800m以内にゴブリンの気配は全くない。


4人は用心深く洞窟へ近づくが、昨日撤収した時と様相は変わっていない。

モーリスが三方に生成した土壁は無事であり、全く破損していなかった。

残党のゴブリンどもは、洞窟外に出てはいないだろう。


リオネルは改めて索敵で探るが……

洞窟出入り口付近に生体反応はない。

奥の方に見込んだ700体より、だいぶ少ない反応があった。

実際に倒した数よりも、多くが洞窟内で息絶えたのかもしれない。


万全を期して、引き続き用心深く様子を見ながら荷物を降ろし、リオネル達は昨夜行った作戦会議の確認を始める。


洞窟内部へ潜入するまでは、「昨日の作戦とほぼ同じで行こう」と決めてある

魔導発煙筒を放り込み、白煙にいぶし出されて来たゴブリンどもを遠距離から攻撃魔法で撃つという作戦だ。


まずリオネルが口を開く。


「昨夜、打ち合わせした通り、魔導発煙筒は俺が単独でセットして来ます。ついでに内部の偵察と下見をして来ますよ」


ミリアンとカミーユが同行を願い出たが、リオネルは頑なに拒否した。

考えがあるとも言った。

「ミリアンとカミーユの為になる」と言い切った。

だからモーリスも含め、3人はリオネルの単独先行を了解したのだ。


「ああ、リオ君、宜しく頼むよ」


「はい、魔導発煙筒は、昨日カミーユ、ミリアンと入ったよりも、だいぶ奥の場所へ仕掛けようと思います。多少時間がかかりますので、休憩でもしながら待っていてください」


「「「了解」」」


というわけで、リオネルは単身、洞窟内へ入る事に。

再度索敵で生体反応がない事を確認した上で、まずは洞窟の入り口をふさぐ土壁を風弾で破壊し、穴を開ける。

但し土壁全体を破壊するとかではなく、人間がひとり通れるくらいの大きさくらいにする。


どこっ!


リオネルがあっさり土壁を破壊すると、陣地のモーリスが、あからさまにがっかりする気配が伝わって来た。

『頑丈自慢の土壁』があっさり破壊されたので悔しいらしい。


苦笑したリオネルは、用心しながら洞窟内部へ、足を踏み入れたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


リオネルは照明魔法を発動、『魔導光球』を呼び出す。

照度はやや明るめとした。

安全確保の為、『帰還マーキング』を施すのは最早『癖』となっている。


見込んだ個体数より生体反応が少ないので予想はしていたが……

洞窟内部は、ゴブリンの死骸でいっぱいであった。


魔導発煙筒自体に殺傷能力はない。

白煙の辛さにもだえ苦しみ、体力が尽きて、死んだと思われる。


残虐だと非難するなかれ。

ゴブリンは大群で、生きた人間をも喰らう、怖ろしい捕食者なのだ。


大量の死骸を見たリオネルは肩をすくめると、洞窟の奥へ進んで行く。

カミーユと魔導発煙筒をセットした入り口から30m地点を通過した。


今回リオネルが単独行を提案した理由はいくつかある。

魔導発煙筒のセッティングは一番なのは勿論だが、洞窟探索の際のリスク回避も大きな理由だ。


昨日リオネルがレクチャーしたように、洞窟は地上とは全く勝手が違い、危険も大きい。


師匠のモーリスさえ「不慣れだ」と言う洞窟探索。

弟子であるミリアンとカミーユは探索が殆ど未経験。

リオネルとともに、入り口付近へ入って、すぐ戻ったというわずかな経験しかない。


そもそも、リオネルだって、この洞窟自体は未経験だ。

勝手が分からない。

そこでリオネルは『偵察』という名の、出来る限り完璧な下見をする事を決めたのである。


自分が充分な下見をし、本番でモーリス達3人を先導すれば、リスクは大幅に減る。

探索の際の歩行の安全は勿論、出現する敵も出来るだけ減らしておけば尚更良いのだ。


いろいろ話をしたが、結局ミリアンとカミーユは、この先冒険者を目指すと決めている。

で、あればこれも縁。


可愛い妹、弟として、ふたりの面倒を見ると決めたリオネルは、出来る限りのアシストをしようと考えている。


この偵察&下見は、昨日それぞれふたりとバトルを組んでアドバイスした事に続く、

リオネルの『愛情アシスト』なのである。


リオネルが頑なに単独先行を主張したのは、そんな理由があったからなのだ。


さてさて!

周囲を注意し、『魔導光球』に照らされた地形を記憶しながら……

リオネルは更に奥へ進む。


ここでまたリオネルの自問自答、独り言が始まる。

既に入り口から100m地点を過ぎ、200m地点に達するところだ。

ここまでくれば洞窟全体の約半分の地点だと、子供の頃探検した自警団員から聞いている。


「それにしても、モノ凄い数の死骸だなあ。700体のうち、半分くらいは死んだかな?」


リオネルが感じた通り、周囲は相変わらずゴブリンの死骸だらけだ。


軽く息を吐き、リオネルは更に奥へ進む。

200m地点を過ぎ、300m地点へ、


「勿体ないから、死骸を腕輪へ入れ回収して、冒険者ギルドへ売却したいけど、死骸が、葬送魔法を使って生じる塵もなければ、モーリスさん達が変だと感じるだろうし……辻褄つじつまというか、ロジック考えるのは大変だしなあ」


「やっぱり、死骸の回収はやめておこう……ここまで来たから、最奥まで行くぞ……おっ、生き残りだ!」


魔導光球が照らす先には、数十体のゴブリンが固まり、リオネルへ対し威嚇していた。


「よし、可愛い妹と弟の為、お前らを出来る限り減らす。ガンガン討伐させて貰うぜ。……覚悟するんだ」


ゴブリンの残党数十体を、鋭く見据えたリオネルは……

容赦なく風矢の嵐を降り注いだのである。

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