第94話「姉弟の感想」
陣地にモーリスを残し……
リオネルは、ミリアンとカミーユを連れ、洞窟の入口へ向かった。
洞窟内へ入り、入り口から少しだけ進んだ場所へ、魔導発煙筒を据え付けるのだ。
気付かれるとまずいので、探索用の照明魔法『魔導光球』は極めて照度を絞る。
リオネルが聞けば……
ミリアンとカミーユは、「このような洞窟へ潜入するのは初めて」だと言う。
こういった作業も、冒険者修行を兼ねている。
大事な経験値となる。
しかし、ミリアンとカミーユだけではない。
リオネルは自身には勿論「俺も修行中の身だぞ」と戒め、
ミリアンとカミーユにも「静かに、そっと、慎重に」と念押しをした。
まずはリオネルが、シーフ志望のカミーユを連れて潜入する。
カミーユが、「姉ミリアンより、夜目が利く、先に入る」と言い張ったのだ。
「よし、じゃあ行くぞ。まずは俺とカミーユで魔導発煙筒をセットする。ミリアンは周囲をしっかりと見張っていてくれ」
「「了解」」
ミリアンとカミーユが返事をすれば、リオネルは、更に指示を出す。
「俺が先行するから、カミーユは後に続け……落ち着いてゆっくり動けよ。周囲と足元には注意してくれ。驚いて大きな声をあげたり、焦って動いて物音を立てるなよ」
「了解、リオさん。……俺、やばいっす。ドキドキっす」
「カミーユ、こういう時は深呼吸をして、気持を落ち着かせるんだ」
「わ、分かったっす。す~は~、す~は~……よ、よし、落ち着いたっす。大丈夫っす、リオさん、行けるっすよ」
「カミーユ、ここで照明魔法を使うから、さっき言った通り、驚いて大声を出すなよ。うわ、とかさ」
「わ、分かったっす……」
リオネルとカミーユは、足を忍ばせ、そっと洞窟内へ入った。
入り口からは、ミリアンが心配そうに見つめていた。
だが、振り返ったリオネルに、「よそ見をするな」とアイコンタクトされ、
慌てて周囲を見回した。
苦笑したリオネルの索敵には……敵の気配は全くない。
反応は、はるか先。
多分洞窟の最奥付近に居るのだろう。
ここで照明魔法を使う。
探索用の照明魔法『魔導光球』が発動。
暗闇に小さな淡い光球が「ふわふわ」と浮かぶ。
リオネルはゆっくりと、手を前に動かす。
「進んでOK」だと、背後のカミーユに伝える為だ。
ふたりは慎重に進んで行く。
出入り口から入って、30m少しほどの場所。
ここいらで良いだろう。
30分後に発煙するよう、魔導発煙筒をセットするのだ。
リオネルが手本を見せる。
それを見て、カミーユも何とか魔導発煙筒をセットした。
ゴブリンの手が届かない高所に置き、洞窟の奥へ向けて煙が噴き出すようにするのがコツだ。
セッティング後、注意しながら出入り口へ戻った。
魔導光球を消しておく。
無事に戻ったリオネルとカミーユの姿をミリアンが認め、安堵し息を吐くのが分かる。
「リオさん、カミーユ、周囲に異常はないわ。陣地に居る師匠も馬も元気よ」
と報告を入れてくれた。
「お疲れ、ミリアン、良くやった」
リオネルは笑顔で労わる。
カミーユも大きく息を吐き、任務を無事遂行した事で安堵の表情を見せた。
「ふう~、姉さん、中へ入っても大丈夫だよ。俺、いつゴブリンが現れるかと思って、ホントどきどきしたっす」
「あはは、カミーユって、クランでは先頭に立つシーフ志望の癖に、私より臆病なんだから」
「う、うっせえっす。姉さんの為に先に入って、一生懸命に安全を確認したんすよ」
「あはは、ごめ~ん」
さあ、続いて『弟と姉の交代』である。
「じゃあ、次はミリアンだ……行くぞ」
「は、はい、リオさん」
弟が無事、任務を遂行しても、ミリアンは緊張気味である。
リオネルは魔法使いの呼吸法をミリアンに使わせ、落ち着かせた。
先ほどと同じようにし、リオネルとミリアンは洞窟を進んで行く。
今度は先ほどよりずっと近い、カミーユと行った距離の半分、
入り口からたった15m先の地点だ。
少し短め、時間差で15分後に発煙するようセットする。
慎重に、だが急いで出入り口へ戻る……
「リオさん、姉さん、周囲は、引き続き異常ナシっす。陣地の師匠も馬も無事っすよ」
出入り口で待っていたカミーユが無事な姉の顔を見て笑顔を見せ、
「異常なし」を報告して来た。
「お疲れ、カミーユ。あんたの気持ちがよ~く分かった。ホント、どきどきだよね」
「お疲れさん、ミリアン、カミーユ、とりあえず任務完了だ。じゃあモーリスさんの下へ戻るぞ」
「「了解」」
3人が『陣地』へ戻ると、モーリスが労わってくれる。
「お疲れ、3人とも……どうやら上手く行ったみたいだな」
「ええ、ふたりとも、初めてにしてはしっかりやりました」
リオネルがフォローすれば、
「リオさん、俺、ドキドキっす」
「リオさん、私もよ。ドキドキだった」
さすが双子。
コメントも殆ど同じ……であった。
「ははは、ミリアン、カミーユ、お前達やっぱり姉弟だな」
モーリスが微笑んだ、その時。
洞窟の入り口から、「もくもく」と白煙が上がったのである。
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