第108話「決意を新たに」
リオネル達4名は、洞窟前で軽く食事を済ませると……
モーリスが出入り口へ施した『土壁封印』をしっかりと確認した上で、
無事キャナール村へ帰還した。
馬達は、水、飼い葉とともに、リオネルから再び『治癒』をかけて貰い、
とても元気であった。
村の正門前……
「クラン『モーリス』です! ただいま、戻りましたあ!」
帰還したのとクラン
リオネルが大きく声を張り上げると、
物見やぐらの門番は、驚き小さく叫んだ後に、慌てて声を張り上げる。
「うお! ……おお~い! お戻りになったぞぉ! パトリス村長のお客人達があ、お戻りになったぞぉぉぉ!」
しばしの間を置き、
ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!!!
村の正門が重い音を立て、大きく開いた。
すると……
開いた正門の向こう側には、教会の
――パトリス村長が立っていた。
まるで
リオネル達がキャナール村へ来訪した時と全く同じだ。
否、少しだけ違う。
今のパトリスは、必死に且つすがるような眼差しを向けていた。
そして左右にふたりずつ、同じような眼差しを向け、並んでいるのは、
パトリスの腹心たる副村長を含めた自警団の幹部4名だ。
リオネルのようにスキルで相手の意思を読まずとも、
この場でパトリス達が尋ねたい事は、誰にでも分かる。
「おお! お疲れ様だった、モ、モーリス! 無事で何より、で、ど、どうだった?」
「うむ」
短く応えたモーリスに対し、パトリスは一行全員を見て、もどかしげに突っ込む。
「モーリス! 見たところ、皆が怪我もなく無事という事は、バッチリか、そうでないのか、どっちか、なのだな?」
ここでようやくモーリスが微笑む。
「ははははは、安心しろ、パトリス。バッチリ、朗報だ!」
「バ、バッチリ!? ろ、朗報なのか!? ほ、本当に?」
「ああ、本当だ。詳しい事は後程、報告するが、少しでも早く安心させたいからな。お前には先に言うぞ、シンプルにな!」
「あ、ああ、ぜ、ぜひ聞こう! モ、モーリスよ、早く! シンプルに言ってくれ!」
「うむ! 良く聞けよ、パトリス。洞窟に潜んでいたゴブリン2,000体のうち、既に1,300体は私達で討伐した。圧倒的な勝利だ!」
モーリスの『凱旋報告』を聞き、パトリスは、言葉にならない叫び声をあげる。
「お、おおおお、おおおおおおおおおおおっ!!!」
パトリスに続き、自警団幹部4名も歓喜の声を上げる。
「村長ぉぉぉぉぉ!!」
「勝ちましたああ!!」
「救われたあああ!!」
「やりましたああ!!」
対してモーリスは再び柔らかく微笑む。
「おいおい! まだ勝利に酔うのは早いぞ、パトリスよ。残りの700体は明日、我々で討伐する。最終的には洞窟内へ乗り込むつもりだよ」
落ち着き払ったモーリスの物言いは余裕を感じさせ、
パトリスを安堵させ、喜ばせるには充分である。
「おおお、モーリスぅぅぅ!!! あ、ありがとう! 本当にありがとう!」
「ははは、おいおい、まだ終わっとらんぞ。勝って兜の緒を締めよだ」
「ああ、分かっている! モーリスよ、分かっているさ!」
パトリスは感極まり、泣いていた。
自警団幹部4名も同じく泣いていた。
やがて、村民達も加わり、キャナール村は歓喜の渦に包まれたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
まずは村に漂うひどく重い厭世感を払しょくし、
村民全員に、明日への希望を持って貰わねばならない。
農地における戦いでは……
リオネルが1,000体のゴブリンを圧倒し、勝利のきっかけをつかんだ。
一筋の光明が射した。
しかし、まだまだ足りない。
更に大きな戦果を、前向きとなれる結果を、少しでも早く、
村民達へ報せなければならないのだ。
そこでパトリスは、リオネル達を村の中央広場に並ばせた上で、村民達を集め……
「まだ途中経過だが……」と、断った上で、
「リオネル達が更に洞窟に潜むゴブリン1,300体を撃滅、圧倒的な勝利を収めた」と、報告を入れた。
『圧勝の報』を聞いた村民達が大いに喜んだのは言うまでもない。
しかし……
晴れ晴れとした顔つきで並ぶモーリス、ミリアン、カミーユ。
歓喜に湧く、パトリス以下村民達を尻目に、リオネルはひとり、
ひどく冷静であった。
アルエット村での経験、強敵オークカーネルと戦った経験が心の根底にある。
あの時は、本当に運が良く勝つ事が出来た。
まさに、九死に一生を得た。
だから油断大敵、勝って兜の緒を締めよだ。
敵の首魁を倒す最後の最後まで、けして気を抜けない。
好事魔多し、と最悪の事態まで考えておいた方が良い。
明日、ゴブリン残党の討伐を必ず成功させねばならない。
村民達が、リオネル達に感謝の握手を求め、
それが終わり、散会した後……
リオネル達は宿舎とした空き家へ戻り、簡単な夕食を摂り、
即、作戦会議に入った。
この間、パトリスには念を入れて頼んだ。
申し訳ないが、歓喜に湧く村民達の空き家へのお礼伺いは、一切ご遠慮して貰うと。
明日の作戦も半分は決まっていた。
まず魔導発煙筒を使い、洞窟からゴブリン達をいぶし出し……
出入り口をモーリスの土壁で狭め、出て来る個体が、拡散しないようにし、
まとめて叩く。
そうして、出来る限り奴らの『数』を減らして行く。
本日行った、作戦の踏襲である。
但し、激戦後の洞窟なので、内部がどうなっているか分からない。
今回に関しては安全面を考え、偵察も兼ねて洞窟の中で魔導発煙筒を仕掛けるのは、
「洞窟探索に慣れた自分ひとりで」という、リオネルの提案が通る。
万が一何かあれば、「すぐ撤退する」という条件付きだ。
リオネルの懸念は数を減らした後の『洞窟の探索』一点のみである。
「モーリスさん、ミリアンとカミーユ、3人は洞窟探索の経験は?」
ミリアンとカミーユに関しては先ほど、
魔導発煙筒を仕掛けた際の様子を見て、経験が浅い事が分かっていたが……
リオネルは敢えて聞いた。
「いや、ミリアンとカミーユに洞窟探索の経験は無い。先ほどリオ君と一緒に入ったのが初めてだな。私も迷宮や遺跡はある程度分かっているつもりだが、洞窟探索の経験は浅いんだ」
案の定である。
なので、リオネルはお約束の言葉を告げる。
「では、安全第一、慎重に行きましょう」
「うむ……リオ君、君はゴブリン渓谷でも、洞窟探索を結構やったと言っていたな」
「ええ、そこそこやりました」
「では引き続き、私達を導いてくれないか? ミリアンとカミーユは勿論、私も含め、
「成る程……」
「リオ君の言う事には従うよ。ずっと頼りっぱなしで申し訳ないが、宜しくお願いしたい」
「宜しくね、リオさん、信じてる♡」
「うん! 俺達、リオさんについて行くから」
ゴブリン渓谷でも、アルエット村でも、キャナール村でも……
未熟な自分がここまで信望されて、頼られる……
冒険者になるまでは、『こんな日』が来るとは思わなかった。
だから全力を尽くす。
絶対に手を抜かない。
「はい、至らない俺ですが、一生懸命頑張ります。こちらこそ宜しくお願いします」
リオネルは丁寧に言葉を戻し、「決意を新たに」していたのである。
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