第107話「姉弟バトル、時間切れ」

リオネルとモーリスの会話に、ミリアンとカミーユが乱入後……バトルは再開。


連戦のリオネルは全く疲れを見せず、ミリアンとカミーユ、それぞれと組み、

1回ずつゴブリンどもと戦った。


戦い方はリオネルの魔法『風壁』を使う出入り口の一角の穴の開け閉めで、

ゴブリンの出現数を絞り、戦いやすくするのは同じだ。


結果はまず、リオネルが103体、ミリアンは45体の討伐。

ミリアンは、先ほど出したカミーユの『記録』を見事に破って自己新記録更新。


対して、ミリアンの記録更新を聞いたカミーユが、大いに奮起した。


リベンジだと気合を入れ……リオネルが105体、

カミーユは姉と同じ45体で、同数の討伐。

自己新記録の更新こそなったが、結局……決着はつかなかった。

姉弟のゴブリン討伐バトルは、『引き分け』となる。


この間、ず~っと待機中だったモーリスが遂に痺れを切らし、参戦した。

結果、リオネルが110体、モーリスは及ばずながら95体討伐と、姉弟の師匠として貫録を示した。


連戦のリオネルも、お得意の『転んでもただは起きぬ』とばかり、改めてモーリスが使う、破邪聖煌拳はじゃせいこうけんを間近で、じっくり見学。

凝視に近い『観察』をしたのは言うまでもない。


当然ながら、モーリスの体捌き、繰り出す突き、蹴りは、

弟子のミリアン、カミーユより、遥かに切れがあり、破壊力も抜群であった。


キャナール村における農地の戦い、ミリアン、カミーユの破邪聖煌拳はじゃせいこうけんを観察していた努力も実を結んだのであろう。


こうなると……『イベント発生』はお約束である。


リオネルが待ちに待った、『あのお知らせ』が訪れたのだ!


チャララララ、パッパー!!!


リオネルの心の中で、独特のランクアップファンファーレが鳴り響き、

内なる声が告げて来る。


チートスキル『見よう見まね』の効果により、

破邪聖煌拳はじゃせいこうけん』を10%習得しました。


何と!

破邪聖煌拳はじゃせいこうけんを10%習得……

当然リオネルは習得をOKする。


お~、破邪聖煌拳はじゃせいこうけん、習得か!

でも、たった10%だと、ほんの入り口にすぎないな。


そう、習得したのはわずか10%にすぎない……

文字通り、望んだ完璧な100%の結果ではなかったが……

リオネルはひたすら『前向き』だった。


お~っし!

超ラッキーだ!


風と火の魔力を込めた魔法の拳法って、楽しみだぜ!

更に俺は、強くなれる!


これから、ガンガン修行だぞぉ!


リオネルのモチベーションは、大きく上がったのである。


……そんなこんなで、気が付けば、もう午後半ば。

リオメルが愛用の懐中時計を取り出して見れば、午後3時を過ぎていた。

ぐずぐずしていたら、夕方になり、あっという間に日が暮れてしまう。


そう、リオネル達はアドレナリンをあげまくって、昼飯抜き、

早朝から『ぶっとおし』でゴブリンどもと戦っていたのだ。


だがひと息ついて、さすがに全員、空腹を感じている。


ミリアンとカミーユがほぼ同時に空腹を訴える。


「リオさん、お腹空いたあ!」

「リオさん、腹減ったあ!」


「ああ、腹減ったな」


姉弟に同意したリオネルは、モーリスへ向き直る。


「モーリスさん、さくっとメシを食ったら、今日は撤収しましょうか」


リオネルがそう言うと、モーリスは西の空を眺めた。

太陽は、少しずつだが、西の地平線に近付きつつある。


「ふむ、リオ君、撤収するのかい。もうすぐ、夕方になるからだな?」


「はい、タイムリミットの問題があります。これまでのペースを考えて、戦えば、確実に夜となってしまいます。ミリアンとカミーユは、難度の上がる夜戦は、まだ避けた方が賢明です。残党の討伐は明日に回しましょう」


「うんうん、私もリオ君の意見に賛成だ。無理をせず、一旦キャナール村へ戻って、出直した方が良いと思う。ちなみにトータルでどれくらい倒したかな?」


「ざっくりですが、俺の計算で、洞窟に残るゴブリンは潜んでいた2,000体のうち、あと700体くらいだと思います」


「おお! では差し引き、2,000体から、700体を引いて、我々全員で1,300体くらいは倒したのかい?」


「ええ、それくらいだと思います」


「うむうむ、凄いじゃないか! 本当に上出来だよ。『洞窟の7割近くを倒したぞ』と、パトリスに報告すれば、彼も村民達も大喜びするだろう」


「ええ、それに、ここで敢えて無理をする事はありません」


「うむ、良い判断だと思うよ。それで、明日はどうする?」


「はい、明日は、再びこの洞窟へ来て、ゴブリンの残党をある程度狩ったら、充分注意しながら、内部へ突入しましょう。最奥まで行けば、依頼完了となりますし、ミリアンとカミーユの良い訓練にもなります」


「おお、そいつは良い。うんうん! 通常なら高難度の依頼が、リオ君の全面的な協力で、良い修行の機会となるなあ」


そんなリオネルとモーリスの会話を聞き、ミリアンとカミーユは対照的な反応を見せる。


「わお! ゴブリンの洞窟へ突入? ワクワクするう、楽しみぃ!」


と、凄く前向きなミリアンだが……


「うおい! 洞窟へ突入っすかあ……それ、ヤバくないっすかねえ……」


と、びびりながら、少し引き気味のカミーユ。


「もう、カミーユの意気地なしぃ!」


「姉さんが、無謀すぎるんだよぉ!」


再び姉弟バトルが開始されようとしたが、リオネルが制止する。


「どうどうどう! ふたりとも喧嘩はやめやめ。腹が減っているんだろう?」


「はい!」

「はいっす!」


「じゃあ、俺が馬へ飼い葉と水をやるから、ふたりにはメシの支度を頼む」


「はい!」

「はいっす!」


「申し訳ありませんが、モーリスさんは洞窟の出入り口正面を、新たな土壁でふさいでおいて貰えますか? 明日、再び来るまで、ゴブリンどもが出ないよう厳重に!」


「ははは、了解だ! がっつりふさいだら、念の為、リオ君に生成の確認を頼もうか」


「了解です。じゃあ全員でメシを食ったら、出入り口を確認し、キャナール村へ帰還します」


「「「了解!」」」


リオネルの指示に対し、モーリス、ミリアン、カミーユは満足そうに頷き、

元気に返事をしたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る