第100話「俺と関わり、心が通じた人達を死なせたくないんだ!」

※第100話到達です!

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◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


口ごもるカミーユに対し、リオネルは話を続ける。


「王都のギルドで依頼掲示板を見たから知っているが、冒険者でも雑用の依頼はある」


「…………」


「薬草、鉱石の採取や各所への荷物運搬関係、掃除、洗濯、メッセンジャー的なお使い、庭の草むしり、犬の散歩等々、いくらでもある。だからそういう仕事を受けて、生きてはいける。しかし、魔物と戦い、命のやりとりをするのなら、注意力が散漫なのはとんでもなく危険なんだ」


「う、うう……」


「カミーユ、お前はクランの中で最も注意深く用心深い、リスク確認を引き受ける、斥候役のシーフが希望なんだろう? だったら尚更だ」


リオネルが言い切ると、カミーユは食って掛かる。


「そこまで言われる筋合いはないっす! リ、リオさんに! お、俺の何が分かるって言うんすか!」


しかし、リオネルは、はっきりと告げる。

『以前の自分』のようだからはっきりと分かる。


「分かるさ。お前は人の話をろくに聞かず、ひどく怖がりだ。慎重過ぎるのは結構だが、今のままじゃ、冒険者には不向きさ……死ぬぞ」


「な!? 何言ってんすか! 俺が冒険者には不向きって! それに俺が、簡単に死ぬわけないっす!」


「いや、死ぬ」


「へ!? し、死ぬって? な、何を根拠に!」


「まあ、聞いてくれ。俺はな、カミーユ。俺は冒険者になる前は、死をあまり意識しなかった」


「そ、それが、一体どうしたって言うっすか」


「冒険者は勇ましくカッコいいと思っていた。世間知らずで単純な俺は、上っ面しか見ていなかったんだ」


「上っ面?」


「ああ、王都のギルド支部で昨日会って、こんちわと、元気であいさつした腕利きの冒険者が、死んだという話を、翌日の朝にその仲間から聞いた」


「え?」


「びっくりした。本当にびっくりしたよ。昨日まで冗談を言い合っていた人なのに、今日はもう居ない。死んでしまったんだ」


「え!? 昨日リオさんが会った腕利きの冒険者が、翌日に死んだっすか!?」 


「ああ、昨日の今日だ……俺はさ、カミーユ。そんな話を嫌というほど耳にして来たよ」


「そ、そんな、あっさり!? な、何人も!? ランカーも居たっすか?」


「ああ、ランカーも居たよ。1か月の間に十数人は死んだと聞いた」


「い、一か月で、十数人……し、死んだ? う、嘘っすよね!」


「本当さ。こんな事、嘘をついてどうする?」


「う!?」


「気になってもっと詳しい事情を聞いたら、死因は、魔物と戦って敗れたり、喰われたり、不慮の事故もあった……冒険者はあっさりと死ぬんだ。俺は死を凄くリアルに感じるようになった」


「……………」


「さっき単身で突っ込んだ俺が言うのは何だが……白状するよ。モーリスさんの言う通り、勝算がある程度あったから突っ込んだんだ」


「……………」


「話を戻そう……俺は知り合いの冒険者があっさりと、たくさん死んで……冒険者は、実入りの良い報酬と引き換えに、生と死の狭間に立つ危険な職業だという事がよく分かった! ひどく身に染みたんだ」


「リ、リオさん……」


「ベテランでも、腕利きでも。そしてランカーでも、あっさりと死ぬんだ。命を懸けた冒険者をやるのは、甘い考えじゃいけないんだよ」


「う、うう……」 


「カミーユ、聞いてくれ! 俺も昔は勇気がなく、凄く考え方も甘かった。しかし、このままじゃダメだと思い直した」


「……………」


「根拠がなく、つまらない自信を捨てた。相手の話を良く聞くよう心がけた」


「……………」


「カミーユ、今後も冒険者をやるのなら、考え方を、そして取り組む姿勢を改めてくれ」


「……………」


「俺は……お前を死なせたくない。お前だけじゃない、ミリアンもモーリスさんもパトリスさんも、キャナール村の人達もそうだ。俺と関わり、心が通じた人達を死なせたくないんだ! 凄く青臭い理想論かもしれないが……」


「……………」


「カミーユ、お前が『怖がり』なのは仕方がない。俺もそうだった。怖さを乗り越える為には、素直にいろいろなアドバイスを受け、たくさんの場数を踏み、度胸をつけるしかないんだ」


「……………」


「しかし、お前がこれからも話をろくに聞きもせず、俺を信頼せず、任務に真面目に取り組まないのなら、あやういぞ。お前はあっさりと死ぬ」


「……………」


「お前の姉さんも、俺もモーリスさんも、これから仲間になる奴も巻き添えで死ぬ。俺はそんなお前と一緒には戦えない」


「!!!」


リオネルの物言いを聞き、カミーユはショックを受けたようである。

更にリオネルは話を続ける。


「カミーユ、心から信頼し合い、助け合わなければ、俺は背中を、お前に命を預ける事は出来ない。そう思わないか?」


「リオさん……」


「俺が王都で世話になった人が言っていた。リオ、人生において数回は、必死に頑張らなきゃ、いけない時期があるって」


「……………」


「手抜きをせず、一生懸命にならないと、きまぐれな運命の女神は、自分へ手を差し伸べてくれない。必死にやって、差し伸べてくれた女神の手をしっかり掴まないと、いけない。それが幸せと不幸せの分かれ道となるってな」


「……………」


「お前はまさにその時期、人生で今こそ、必死に頑張らなきゃ、いけない時期じゃないのか?」


「……………」


「もしも頑張るのが嫌なら、無理ならば……カミーユはこのまま戦わず、ミリアンとモーリスさんの居る、陣地に戻って構わない。無理して冒険者になる必要はないと俺は思う」


「……………」


「さっきも言ったけれど……冒険者にならず、姉と一緒に、地道に平穏に暮らせる道も必ずある。いくつもな」


「……………」


「幸せの形はいろいろある。選ぶのは、カミーユ、お前さ。さあ……どうする?」


「リオさん! お、俺! 決めました! 行くっす! 死ぬ気でゴブリンと戦うっす! 冒険者になるっす! 万が一死んでも、絶対に後悔はしないっす!」


リオネルの追求と問いに対し、顔をこわばらせたカミーユは……

追い詰められ、自暴自棄になって、決断してしまった。


『やぶれかぶれ』という雰囲気のカミーユを見て、リオネルはハッとする。


ヤバイ!

昔のダメだった自分にカミーユを重ねて、つい熱くなり過ぎた!

カミーユを一方的に追い込んでしまった!

これでは問題解決になっていない。


リオネルは急いで己へ、クールダウンを心がける。


「いや、カミーユ。やはり戦闘は中止だ」


「え? ちゅ、中止!?」


「ああ、一旦、一緒に『陣地』へ戻ろう。お互いに熱くなり過ぎだ。ふたりでクールダウンしよう。俺は散々あおり、まだ半人前のお前を追い込んでしまった。本当に悪かったよ」


リオネルが頭を下げて謝ると、カミーユは驚く。


「え? リオさん……な、何で、貴方が謝るんすか? 悪いのは一方的に俺なのに……リオさんの話をちゃんと聞けない、未熟な俺の為にここまで言ってくれたのに……」


「いや、スマン! 俺が言い過ぎた。今、気付いて反省したんだ。焦って決めるのは本当に良くない。今がカミーユの人生の、大事なターニングポイントだから……じっくり考えた方がベストだと考え直した……とりあえずこのパートは、俺ひとりでやるよ」


「え!? このパートは、俺ひとりでって!? じゃ、じゃあ、リオさんは?」


「ああ、俺は当面、冒険者でやって行くと決めたから。一時撤退する事はあっても、前へ進む。たった一歩でも前に進む。……だから、俺は戦う!」


リオネルは自分に言い聞かせるように、カミーユへ決意を告げていたのである。

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